事例3 新しさを追い求めた結果、地域の食材に原点回帰
ぶどうの木(石川県金沢市)
金沢市を中心にレストランや洋菓子店などを多店舗展開している「ぶどうの木」。時代を先取りして新たな価値を見いだすことで事業を拡大してきた同社があらためて目を向けたのは、地域ならではの食材や資源を活用することだった。
ポピュラーな品種ではなく珍しい品種に絞る
北陸新幹線開業に沸き立つ金沢の中心市街地から車で北東方向に約25分。のどかな川沿いの地に「ぶどうの木」はある。2haのぶどう園や、レストラン、カフェ、洋菓子店、結婚式場などを同地で経営するほか、市内の百貨店やショッピングモールなどにも出店している。
レストランの運営や洋菓子の製造・販売をメーンに事業を展開してきた同社だが、現在は地域の食材や資源を生かした食品づくりに力を入れている。その中でも豆菓子は人気を博しており、金沢土産として贈った人やもらった人に喜ばれている。そんな同社のものづくりのルーツは、社長の本昌康さんが大学卒業後に帰郷して、家業のぶどう園に入った昭和50年ころにさかのぼる。
「うちでは当時ポピュラーだったデラウエアという品種をメーンにつくっていて、軒先の直売コーナーで販売していました。1㎏1000円くらいの値を付けていたんですが、ある日お客さまから『高い。近江町市場の値段と変わらないじゃないか』と言われてね。それならと珍しい品種のぶどうをつくって、デラウエアの倍の値をつけたら、今度は『安い。もっとないのか』と言われて(笑)。それ以降、他にはないような珍しい品種に絞ってつくっていくことにしたんです」と当時を振り返る。
常に時代を先取りする
こうして主に贈答用としてのニーズをつかんだが、ぶどうだけでは先細りすると考えた。そこで、30歳のときにイタリアンレストランをオープンする。看板メニューはパスタだった。「お客さまから『パスタって何?』と聞かれて、『スパゲッティのことですよ』と答えると、『それならスパゲッティと書けばいいのに』とよく言われたものです。しかし、あまり知られていないからこそ、わざわざ高価なパスタマシンを導入して自家製麺からつくる本格パスタを売りにしたんです。だって未体験のものを食べてみたいでしょう?」。
本さんの狙いは見事的中。オープンしたイタリアンレストランは開店するとすぐに、市内だけでなく遠方からも客がやってくるようになる。そこで32歳のときに同店を増築、35歳で洋菓子工房、38歳でフレンチレストランと立て続けに店をオープン。金沢の中心市街地にも出店していった。「洋食や洋菓子の店を出したのは、それが目新しかったから。金沢のように伝統のあるまちで和菓子の店を出しても、老舗和菓子店の商品にはかないません。そこで常に新しいものを先取りすることで、お客さまを獲得していきました」。
次のキーワードは〝地域食材〟
そんな本さんが地域の食材に着目するようになったのは、今から10年ほど前。きっかけはフレンチやイタリアンの店にありがたみを感じてもらえる時代は終わりかけていると感じたことだった。日本にいながら世界中の料理が手軽に味わえる飽食の時代を迎え、次なるキーワードを模索した。その答えは〝地域〟だと直感したという。
こうして生まれたのが「まめや金澤萬久」の豆菓子だ。県内の農家仲間から分けてもらった有機大豆や能登大納言に味付けしたもので、石川県の伝統工芸である九谷焼の絵付け職人の手により、一つひとつ手描きされた絵柄の愛らしい豆型の小箱に入っている。これでもかというくらい地域資源にこだわった商品だ。
「僕のものづくりのポリシーは、『おいしいこと』『美しいこと』『物語があること』の三つ。美しくないと選んでもらえないし、おいしくなければ二度と買ってはくれません。しかし、今どきコンビニでもおいしくて美しいものが並んでいます。どこで差別化するかといえば、物語です。『豆は有機穀物の生産農家から仕入れていますよ』『箱の絵は職人が一つひとつ手描きしたんですよ』といった物語が多いほど、特別なものになります」
「まめや金澤萬久」は地元はもちろん東京にもいち早く出店した。新聞などに取り上げてもらえるように、自ら話題を用意してPRに努めたことで徐々に認知されるようになる。今や年間20万個以上を売り上げる人気商品となっており、中でも、金沢産しょうゆを使った「みたらし豆」は日経プラスワンが行った金沢の土産物ランキングでも堂々の1位に輝いている。
地元の米に注目
3年ほど前から力を注いでいるのが、ぶどう園に隣接する土地で栽培している100種類以上もの野菜だ。
「レストランでお客さまの求めているものが何かと探っていると、圧倒的に野菜なんです。『これはうちの畑でとれた野菜ですよ』というとさらに喜ばれます。『こんなにつくるのは大変でしょう?』と言われますが、かつて京都で映像の仕事をしていた高田さんが素人から野菜づくりの勉強をはじめ、当社の野菜づくりを一手に引き受けています。今ではその『高田情熱野菜』を目当てにお客さまが来るほどです」
野菜に続く地域食材として、目を付けているのは地元の米だという。周辺の米農家は離農が進み、現在では3~4軒しか残っていないそうだが、廃れつつあるからこそ、そこに付加価値をつければ新たな地域産品になり得ると考えている。
「日本人の主食である米は、いろいろな栄養素を含む食材です。特に玄米は体にいいので、まるごと食べられるようなスイーツをつくってみたい。米を商品に変える仕組みをつくり、米の消費を増やすことで少しでも地域に貢献できれば、本当にうれしいですね」
会社データ
社名:株式会社ぶどうの木
住所:石川県金沢市岩出町ハ50-1
電話:076-258-0001
代表者:本 昌康 代表取締役社長
従業員:291人
※月刊石垣2015年5月号に掲載された記事です。
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