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テーマ別企業事例 イスラム圏からの観光客を呼び込め

近年、中東だけではなく、東南アジア圏のインドネシアやマレーシアといった国々からの観光客が増えている。ところが、迎え入れる側の日本は、「イスラム圏」に対する理解が不十分であるため、いまだ戸惑っているのが現状だ。そんな中、いち早く「ハラル」というイスラムの概念を理解し、イスラム圏からの観光客の獲得に動き始めた企業や地域が出始めている。今号はいち早くハラルに取り組み、実績を挙げている事例を紹介する。

総論 ハラルは正しく理解すれば、誰でも対応可能

佐久間 朋宏(さくま・ともひろ)/非営利一般社団法人ハラル・ジャパン協会 代表理事

佐久間 朋宏(さくま・ともひろ) 1964年岐阜県下呂市生まれ。岐阜大学工学部卒。92年、(株)中広入社。06年、同社常務取締役管理本部長としてIPO準備に携わり、07年、名古屋証券取引所に上場。09年、(株)東京事務所、日本エリアマーケティング支援機構を設立。12年、一般社団法人ハラル・ジャパン協会を設立し、代表理事に就任

親日家が多い東南アジア圏

日本ではまだ、イスラムが十分に理解されているとはいえない。それどころか昨今では、「イスラム=テロ」のイメージを持つ人も多い。しかし、「それは誤った捉え方だ」と指摘するのはイスラム関連のビジネス展開を支援する、ハラル・ジャパン協会の代表理事・佐久間朋宏さんだ。

「世界中で16億人以上、世界人口の4分の1がイスラム教を信仰しています。正しくイスラム圏のことを理解していただき、その上で、成長著しい東南アジア諸国、中東などイスラム圏からの日本へのインバウンド(観光)にもっと注目してほしい。市場は間違いなく拡大傾向にあるのですから」

イスラム圏からの訪日観光客が増え始めたのは約2年前。日・ASEAN交流40周年を機に、マレーシアなどのビザが撤廃され、訪日がグッと身近なものになったからだ。

「特に東南アジア圏のイスラム教徒には親日家が多く、日本のファッションや文化にも関心が高かったのです。ちなみにインドネシア人が一番見たいのが上野公園の桜だそうです。SNSなどを通して口コミで評判が広がっているようですよ」

経済の発展でイスラム圏にも富裕層や中間所得層が増加している。それに加えて昨今の円安も追い風になり、訪日しやすくなったわけだ。2020年の五輪イヤーには、日本に2000万~2500万人の外国人観光客がやって来るといわれている。

「この外国人観光客の10%は、イスラム教徒になるのではないかと推定されています」

難しく考えなくてOKできることから始めよう

ここで、重要になってくるのがイスラム教徒の観光客を受け入れる態勢の整備、すなわち「ハラル」対応の普及である。イスラム教には戒律として口にするものに制限を設けており、口にしていいものを「ハラル」と呼んでいる。さらに「ハラル」は食品だけでなく、化粧品や医薬品、生活全般、サービス活動などにも当てはまる概念でもあるという。

「ハラルは、イスラム教徒にとってはなくてはならない大切な基準。インバウンド観光で、イスラム教徒の集客を狙うなら、ハラルを正しく理解しておく必要があります。といっても、難しく考える必要はないのです。食べ物、祈祷スペース、それと接客に関してできる範囲で配慮すればいいんです」

まず食事だ。ハラルで禁じられているものの代表に豚肉とアルコールがある。禁止する理由はこれらが不浄であり、害になるものだと考えられているからだ。「ラード、乳化剤、ゼラチンなど豚由来のものが日本の製品には意外に多く入っています。アルコールは、消毒や洗浄用は大丈夫なのですが、酩酊させる酒類はダメ。みそやしょうゆもアルコールが入っていると口に入れてはいけないものになる。ところが、その情報がラベルなどに明記されていないので、イスラム教徒の人たちは戸惑うわけです」。

飲食店や食品メーカーでは、「彼らが食べられるものを」ということで、ハラル対応の牛肉やチキンなどを使った料理を提供するケースも徐々に増えてきている。ただ、野菜や魚は問題はないし、たとえ揚げ物でもラードでなくて植物油を使えば、彼らは食べられる。「豚肉は使っていませんが、豚肉を切った包丁を使っていますけれど大丈夫ですか?」といった具合に、まず情報開示から始めればいいと佐久間さんは語る。「彼らは日本を楽しみに来ているんです。せっかくだから、日本食を食べてみたいという好奇心旺盛なイスラム教徒だって多いのです。気にしすぎることはありません」。

構えず彼らに任せる

祈祷スペースもイスラム教徒にとっては大切な問題だ。彼らの戒律では、一日5回の礼拝、さらに金曜日は集団礼拝の日と定められている。「これも清潔で、静かにお祈りができるような場所を使ってもらえばいいだけのことです。それに旅行中は工夫をして一日2〜3回でいいという信者もいるので、必要以上に神経質に対応策を考えなくてもいいかと思います」。

そして接客。握手を求めない、女性と男性を一緒にしないなど、彼らの生活習慣を頭に入れて対応することがポイントになる。

「彼らの中には温泉にもチャレンジしたい人がいます。他人と一緒は無理でも家族風呂ならOKかもしれません。こちらから勝手に決めつけず、幅広い情報を伝えて、そこから選んでもらうのがいいかと思います」

佐久間さんは、ハラルと言わないハラル対応こそが理想、と話す。

「日本は〝おもてなし〟というと、完璧に対応しようとしがち。でも、そこまでガチガチに考えず、気楽に自分たちができる範囲でやればよい。その方がイスラム教徒だって、のびのびと日本を楽しめます。日本人のように長生きしたい、きれいになりたいと思っているイスラム教徒も多い。こちらから変に制限を設けず、後の判断は彼らに任せる。それぐらいのスタンスでハラル対応に臨んでほしいですね」

ハラル対応が注目される理由

① イスラム教徒は人口が多く、その増加のペースも速い。国連の試算では現在、約16億人の人口が、2025年に約20億人まで増えると推定されている。

② 半数以上のイスラム教徒が成長著しいアジア地域に住んでいる。インドネシア(2億人)、パキスタン(1・7億人)をはじめとして、その数はアジア全域で9・7億人にのぼる。

③ ハラルビジネスは、イスラム教徒だけでなく、非イスラム教徒にも評価されている。例えば、フランスでは清潔で、高品質であるため、健康に良いという理由でハラル食品が注目されている。

会社データ

団体名:非営利一般社団法人ハラル・ジャパン協会

住所:東京都豊島区南池袋2-49-7 池袋パークビル1階

電話:03-4540-7564

代表者:佐久間 朋宏 代表理事

※月刊石垣2015年4月号に掲載された記事です。

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