事例1 牛肉分野初のハラル認証でイスラム市場を開拓
ゼンカイミート(熊本県球磨郡錦町)
牛の食肉処理と食品加工を手掛けるゼンカイミート。牛肉分野では国内初のインドネシアからのハラル認証を取得し、昨年12月に輸出を開始した。ハラル認証とはハラル、すなわちイスラム教徒にとって宗教上問題がなく、安心して口にできる商品であると認められた称号のこと。今後、輸出量の拡大や他国の認証取得によりイスラム圏での〝ジャパニーズ・ビーフ〟ブランド確立を目指していく。
日本の牛肉が食べられない?
自ら育てた畜産物を、自らの手で消費者に届けたい――。ゼンカイミートは、畜産農家のそんな思いを実現すべく、平成元年に全国開拓農業協同組合連合会(全開連)の子会社として設立された。4年に食肉センターが完成し、食肉解体や食肉加工業務をスタート。当初は豚も扱っていたが、ほどなく牛に一本化し、ISO9001やHACCPなどの認証を取得。食の安全を追求しながら、品質の高い牛肉の提供を心掛けてきた。
そんな同社が「ハラル」に注目したのは、今から8年ほど前のこと。日本に来るムスリム(イスラム教徒)の観光客や留学生などから「おいしい日本の牛肉が食べられない」という声を聞き、「なぜ?」と疑問を持ったからだった。
「ムスリムの人が口にしないのは豚肉だけかと思っていたら、牛肉でもイスラム法に基づいた食肉処理をしないと食べてはいけないと知りました。せっかく日本に来たのに、日本産牛肉が食べられないなんてもったいない。何とかできないかと思ったのがきっかけです」と同社社長の羽田昭二さんは説明する。
これを機に、ハラルについて勉強を始めた。イスラム法に基づいて動物を食肉処理する場合、食肉処理をする人はムスリムであること、祈りをささげてから決まった手順の下にナイフを入れ、解体処理を行うなどの厳格なルールがあることを知る。そこで国内ハラル認証団体であるマレーシアハラルコーポレーション(東京都新宿区)の協力を得ながら、その実践に向けて取り組み、ローカルハラル認証(国内向け)を取得し、23年から販売を開始した。
数々の関門をクリアしてインドネシアへ初輸出
最初は国内だけを想定していた同社だが、次第に海外輸出も考え始める。その相手国として選んだのがマレーシアとインドネシアだ。〝ASEANの優等生〟と称される経済成長を遂げ、富裕層が全体の半数近くを占めるマレーシアと、2億4000万人の人口の約9割をムスリムが占めるインドネシアは、魅力的な市場だ。「マレーシアでは、同国イスラム開発局(JAKIM)の認証を取る必要があります。しかし当時、ハラルと表示しながらノンハラルの成分が混在しているなどのケースが増加したことから認証が厳格化され、まだ認証取得に至っていません。一方、インドネシアは、同国イスラム指導者会議(MUI)の認証取得に向けて準備を重ね、現地にも足を運ぶなどした結果、24年に取得できました」。
しかし、これで終わりではない。イスラム圏に輸出する食肉施設として厚生労働省に届けを出したり、ハラル牛肉生産に関する事業計画を農林水産省に提出して認可を取るなどの手続きが必要だった。そこで工場設備や管理体制を構築し、食肉処理の担当としてムスリムの従業員を2人雇用。こうしてようやく全てをクリアし、昨年12月、日本初のインドネシアに向けた牛肉の輸出を開始した。「出荷量は1200㎏ほど。まだ微々たる量ですが、インドネシアで食べられている輸入牛肉のほとんどはオーストラリア産なので、まずは〝ジャパニーズ・ビーフ〟の味を知ってもらうことが先決です。これを機に、日本の牛肉ブランドが定着してくれれば」と熱い胸の内を語る。
イスラム圏への市場拡大で事業性を高める
いち早くハラルに着目したことで、イスラム圏への牛肉輸出の先陣を切った同社は、インドネシアに続いてトルコのハラル認証も取得し、販路拡大に取り組んでいる。今は先行投資の段階とのことだが、今後は市場が大きいだけに輸出量を増やしていくことができれば、収益拡大につながるものと羽田さんは期待している。
ハラルに活路を見いだす背景には、国産牛肉を取り巻く厳しい現状がある。生産農家の減少に伴い、食肉処理される牛の頭数も減少傾向で、価格も輸入飼料を多く使っているために変動しやすい。また近年では、健康志向から肉の脂は敬遠されがちだ。さらに、年齢が上がるほど肉を食べなくなる傾向がある。少子化・高齢化が進む日本国内だけを相手にしていては、このまま尻すぼみになる恐れがある。その点、人口が多く、若年人口の割合も高いイスラム圏を取り込むことができれば、需要の維持のみならず、ビジネスの新たな突破口になり得るのだ。
「まだ始まったばかりですが、すでに変化は起きています。例えば、インドネシアへの門戸が開いたことに興味を持った会社から、『うちの肉も輸出できないか?』といった問い合わせをたくさんいただいています。ハラル認証についてアドバイスすることもありますが、国内の飲食店などからハラルビーフのオーダーも増えていますし、つながりが広がっています」
熊本県では、25年に「くまもと県南フードバレー構想」を策定。豊富な農林水産物を生かし、食関連企業や研究機関を集積させることで地域の活性化を目指している。その一環として、アジア地域との貿易の拡大を掲げており、同社のインドネシアへの初輸出の際には、知事自ら現地に赴いてトップセールスを展開した。また、人吉市でもムスリム観光客誘致やハラル食品加工施設の建設を計画するなど、県を挙げてハラルに力を入れている。「2020年の東京オリンピックに向けて、日本は今後ますます世界から注目を集めることでしょう。それを追い風に当社もさらに事業性を高めていくとともに、商工会議所や行政と連携して地域活性化にも貢献していきたいですね」
会社データ
団体名:ゼンカイミート株式会社
住所:熊本県球磨郡錦町西字花立62
電話:0966-38-1500
代表者:羽田 昭二 代表取締役社長
設立:平成元年
従業員:71人
※月刊石垣2015年4月号に掲載された記事です。
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