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テーマ別企業事例 地域の食材を生かせ 農業・水産業との連携戦略

地域ならではの優れた食材を活用し、独自の技術とアイデアで販路を切り開き売上を伸ばしている地域密着型の企業がある。各企業が挑む販路開拓への戦略を取材した。

事例1 さくらんぼの加工品でオフシーズンの売上を確保

大橋さくらんぼ園(北海道芦別市)

シーズンは7月上旬〜8月下旬。農園はドームに覆われており雨でもさくらんぼ狩りができる

北海道のさくらんぼ栽培の歴史は古く、明治元(1868)年に函館を訪れていたプロシア(現ドイツ)人のR・ガルトネルが本国から取り寄せた苗で西洋農法により栽培を始めたことが始まりだという。それから150年近い時を経て、さくらんぼを生食だけなく加工品の素材として使用し、業績を伸ばしている企業がある。

霜害に強いさくらんぼに注目

北海道芦別市のJR上芦別駅から車で西へ約15分。大橋さくらんぼ園は自然豊かな高台にある。4・7haの広大な敷地に47種類1500本のさくらんぼの木が植えられていて、観光シーズンの7、8月には約1万5000人がさくらんぼ狩りに訪れる。

園が「大橋農園」と呼ばれていた戦後間もないころは現在の経営者・大橋正数さんの祖父・作次さんが中心となってぶどうを栽培していた。しかし、昭和39年と40年の霜害により壊滅状態となってしまう。

「ぶどうが全滅状態なのに、防風林代わりにしていた野生のさくらんぼだけはたくさん実をつけていました。この土地は高台で風通しがよく、さくらんぼ栽培に最適だったのです」

そこで二代目の父・勝さんは栽培果実をぶどうからさくらんぼへ切り替える決断をする。そんな中、47年、北海道新幹線計画が持ち上がる。「父はさくらんぼを東京方面へ出荷しようと考え、収穫量を確保するため周辺の人々にも苗を配っていました」。

そうした話が芦別のまちに広く伝わり、芦別に住む主婦たちから「お金を払うから食べさせて」という依頼が舞い込むようになる。「さくらんぼ狩りが楽しめる観光農園は事業として成り立つのではないか。そう考えていろいろな農園へ視察に行ったのですが答えが見つからず、手探りで始めることになりました」。

勝さんはアイデアマンであった。雨に弱いさくらんぼの実を守るため、果樹を開閉型のビニールシートで覆った。すると雨でもぬれずにさくらんぼ狩りができると評判になった。「勝錦」から始まった品種も徐々に増やしていった。

正数さんも後継者として観光農園で働き始め、当初は土産物の木彫りを担当した。

「どんな商品をつくれば売れるのかということばかりを考えていました。そのときの経験が加工品のアイデアに生きているのかもしれません」

平成元年、工場が火事に見舞われたことから木彫りをやめ、加工場を建てて「さくらんぼジャム」をつくるようになる。しかし、当時は脇役にすぎず、主力商品は生食用のさくらんぼだった。インターネットが広く普及し始めた平成12年ころからはネット販売も手掛けるようになったものの、目的は各地のお客さまに生食用さくらんぼを売ることで、さくらんぼジャムは脇役のままだった。

大不作で加工品進出を決断

さくらんぼの評価も高まり、経営も順調に推移していた。しかし、突然の大不作が発生する。大橋さんが経営を引き継いだ翌年、20年のことだ。この年は平年の1割ほどしか実がならず、経営にも大きな影響が出た。

「こういうときに加工品を販売できれば売り上げが安定する。冬場を中心としたオフシーズンの収入も確保でき、従業員の雇用も守れる」

そう考えたものの何から手を付けるべきか……。その時、偶然出合った、道内で果実酢の草分け的存在の中山酢醸造で、さくらんぼ酢がつくれることを教えてもらった。試作品をつくり、飲んでみたところ「売れる」と直感した。しかし商品に仕上げるためには、もう一工夫が必要だった。そこで知名度の高い佐藤錦よりも高級な3品種、黄色い月山錦、赤色の南陽、ぶどう色のサミットの色合いを生かした3種類の酢をつくることにした。「同じようにジャムも3品種3色でつくるようにしました。ところがバイヤーの皆さんの評判はよくありませんでした」。

 瓶のデザインやパッケージデザインに高級感が不足していたのだ。そこで神奈川県のデザイン会社とアイデアを出し合って一新した。そのかいあって札幌商工会議所の「北のブランド2014」に認定されたり、全日空国際線の機内食に採用されるなど高い評価を得ることができた。

何でも言える空気をつくる

24年夏、従業員が「おいしいから食べてみて」と冷凍庫で凍らせた冷凍さくらんぼを持ってきた。冷凍させた果実は糖度が下がる。半信半疑で口にしたところ「予想外においしかった」。通常生食用は消費者の元に届く期間を想定して完熟する前のものを送るが、冷凍であれば最もおいしい完熟さくらんぼを届けられる。大橋さんは従業員のアイデアを採用して翌年には商品化した。

「従業員が何でも言える雰囲気をつくることが大切だと考えています。どんなアイデアでも否定せずに、まずは一緒に商品化の道を探ってみる。みんな、いろいろ思いついてくれますよ」と大橋さん。従業員のアイデアからは「さくらんぼマヨネーズ」「さくらんぼドレッシング」も生まれた。25年には道内の有名パティシエの応援を得て「さくらんぼパイ」を売り出した。

園の売上高(26年度約6000万円)に占める加工品の比率は徐々に高まっている。25年度は約200万円、26年度は600万円、27年度は900万円を見込む。

大橋のさくらんぼ園が扱う加工品や農産物には北海道米やプラムなどもあるが、主力商品はあくまでもさくらんぼ。商品開発と販路の拡大の余地はまだ十分にあるという大橋さんと従業員が生み出す次のアイデアが楽しみだ。

会社データ

社名:有限会社大橋さくらんぼ園

住所:北海道芦別市上芦別町469番地

電話:0124-23-0654

代表者:大橋 正数 代表取締役

従業員:5人

※月刊石垣2015年5月号に掲載された記事です。

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