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真壁昭夫の経済底流を読み解く わが国経済の現状と今後の展開

経済指標を見る限り、わが国経済は回復を続けている。特に、労働市場はバブル期に迫る勢いで労働需給が逼迫している。経済活動全般を見ても、米国や中国経済の拡大を受けて生産・輸出とも持ち直している。一方、われわれが肌で感じる景況感は、あまり回復している実感がないだろう。この背景には、国内消費の伸びが期待されたほど上昇していないことがある。2016年の年央以降、ITや自動車関連の輸出は堅調な展開が続いているため、景気全体は押し上げられているのだが、肝心な国内消費がいまひとつ活発化していない。言ってみれば、わが国経済は輸出頼みで回復していると考えると分かりやすい。アベノミクスが始まって以降、大手企業中心にベアは続いたものの、社会保障費負担の増加などによって可処分所得は総じて横ばいだ。この状況では、多くの消費者が景気回復を実感しづらい。

ただ、海外経済の先行きが万全の状況かといえば、必ずしもそうとばかりはいえない。特に、今年に入って、自動車販売の実績が昨年比でマイナスになっていることが気掛かりだ。米国の経済専門家にヒアリングをしても、「値引きをしても自動車が売れにくくなっている」という見方が出ている。それに伴い中古車の価格も下落している。また、米国において、信用力の劣るサブプライム層の消費者のローン返済能力は低下している。この状況が続くと、米国の需要は下振れしトランプ政権の目玉である製造業の米国回帰は進みづらくなる。大規模な減税などトランプ政権の政策運営は、今後、議会の反発もあり一段と難航する可能性が高い。そう考えると、今年後半から来年にかけての米国の景気先行きは楽観できない。今年中に2回と考えられている連邦準備制度理事会(FRB)による利上げも、そう簡単ではないだろう。

それに加えて、中国においても経済の先行きにやや懸念が残る。足元の中国経済は、大規模な公共投資と不動産バブルの影響で堅調な展開になっているものの、公共投資を長期間続けることはできない。不動産バブルも、いずれ調整局面を迎えることは避けられない。そうした状況を考えると、中国経済の先行きにも懸念要素がある。

世界経済の回復過程が頓挫するようだと、わが国経済に与える影響は小さくはない。国内の需要項目を見ると、短期間に大きく落ち込むことは考えにくいものの、成長率が鈍化する可能性は高まるだろう。そうしたシナリオが現実味を帯びてくると、わが国政府は、まず財政政策を出動させることになると見られる。財政政策はその規模にもよるが、短期的に相応の効果を発揮することはできるだろう。ただし、その効果を長期間持続することは難しい。むしろ、わが国の財政状況を考えると、財政政策に頼って一時的に景気を浮揚させることのリスクは高い。国民心理の中で財政破綻の意識が高まると、購買意欲は低下することも懸念される。それでは、財政政策の効果を大きく低下させることにもなりかねない。

もう一つの問題は、これまでアベノミクスの中心的政策であった金融政策に、あまり〝のりしろ〟が残っていないことだ。日本銀行の追加金融緩和の手法がほとんど見当たらない。既に日銀は発行残高の4割超の国債を保有している。日銀の買い入れペースにもよるが、買い入れはどこかで行き詰まる。それでも、黒田東彦日銀総裁は年80兆円のペースでの買い入れを重視し、早期の政策変更を否定している。このままだと、どこかで急激な方針変更を余儀なくされる恐れすらある。

わが国の政策当局は、財政・金融に依存する政策運営が限界に近づいていることを理解すべきだ。一見遠回りでも、規制緩和などによってわが国経済の構造を少しずつ改革することを粛々と進めるべきだ。それが出来ないと、わが国経済の「アニマルスピリッツ」を高めることは難しいだろう。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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