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真壁昭夫の経済底流を読み解く 世界で存在感高める中国経済

足元の世界の政治・経済の動向を見ると、いくつかの不透明要因が存在する。その一つは米国のトランプ政権の政権運営だろう。また、英国の選挙後のEU離脱交渉も先の読めないファクターだ。さらに注目されるのは中国を巡る情勢だろう。特に、“一帯一路”など、中国が提唱する多国間の経済連携への期待は高まっている。シルクロード経済ベルトと、21世紀海上シルクロードで構成される一帯一路の構想は、中国から欧州までの地域を海路と陸路でつなぐことを目指す。

一帯一路には主に二つの目的がある。一つ目は、各国の需要を取り込むことで中国の経済を支えることだ。もう一つは、中国が各国への影響力を拡大・強化することだ。中国は、自国を中心とする投資・交易や、安全保障のネットワークを築こうとしている。すでに中国は浙江省(せっこうしょう)の義烏(イーウー)とロンドンをつなぐ直通列車を開通させ、一帯一路の整備を加速しようとしている。

一方、経済の専門家からは、一帯一路政策への懐疑的な見方が示されている。すでに一帯一路のルートにおける中国の対外直接投資は伸び悩んでいる。今後、中国が想定した通りにインフラ投資で収益を上げられるか不透明だ。また、現時点で中国経済を見渡すと、債務残高の累積や不動産バブルの問題、鉄鋼や石炭などの過剰な生産能力など、先行きの不安を高める要因は多い。この状況が続くと、中国から資本が流出する可能性が高い。ということは、どこかの段階で人民元に売り圧力がかかる懸念がある。

人民元の下落は、中・長期的に見ると、中国国内の社会不安につながる恐れもある。人民元を安定化させることは、最終的には共産党の政治基盤を維持することに直結する。そのためには、中国経済自身の変革や、海外との連携を強化することが必要になる。

海外との連携を強化することで、中国は国内の過剰な生産能力を海外諸国への輸出に振り向けようとしている。それにより、構造改革の痛みを和らげることも可能だ。また、海外諸国との貿易や投資を人民元で決済することで、国外に人民元を普及させることもできる。すでにカザフスタンの中央銀行は人民元との通貨スワップ取引(※)を開始するなど、中国国外(オフショア)市場での人民元取引は拡大傾向にある。この点で、一帯一路は一定の成果を上げているといえるだろう。

今年5月に開催された第1回の一帯一路に関する国際会議には、29もの国の首脳が集まった。先進7カ国(G7)からはイタリアが参加した。海洋進出などに関する不安はあるものの、中国が進める独自の経済圏整備に取り入り、自国の経済を支えようとする国は多い。経済的なメリットを得るために、今後も中国への接近を図る国は増えるだろう。中国に接近する国が増えることは、米国のトランプ政権に対する信認の低下と併せて考える方がよい。トランプ大統領の就任後、G7や北大西洋条約機構(NATO)加盟国を中心に、主要先進国の政治連携は後退しつつあるように見える。

トランプ大統領によるドイツ批判や気候変動の抑制に関する「パリ協定」からの離脱などを受けて、ドイツのメルケル首相は米国への不信を示した。ドイツは米国との距離をとり始めるとともに、中国とのさらなる関係強化にかじを切り始めたように見える。北朝鮮問題という大きなリスクに直面する韓国でさえ、米国のミサイル防衛システムの配備を遅らせている。そこには、中国への配慮だけでなく、米国の政治の先行きに関する不安心理もあるのだろう。

6月に入り安倍首相は、一帯一路構想に一定の評価を示した。従来、わが国の政府はアジアインフラ投資銀行への参加を見送るなど、中国を中心とする経済圏の整備から距離をとってきた。しかし、米国の政治不安が高まる中で中国と距離をとり続けることは、必ずしも得策ではない。政府には経済分野での中国の取り組みに関与し、それを足掛かりにして国内企業のアジア展開を支えるといった発想が必要かもしれない。それが、中長期的なわが国の国力につながるはずだ。

※決められた一定の条件の下で、互いに同じ価値の通貨を交換すること

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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