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真壁昭夫の経済底流を読み解く 保護貿易主義に傾く 米国のトランプ大統領

今年7月の20カ国・地域(G20)ハンブルク・サミットでは、米国のトランプ大統領の孤立が一段と鮮明になった。会議後の宣言の中には、「主要国が保護主義と闘う」との文言が明記された。この文言は、保護貿易主義に傾くトランプ政権をけん制していることは言うまでもない。また、トランプ大統領は、気候変動・温暖化抑制の枠組みである“パリ協定”からの離脱を決めた。今年1月の正式就任から約半年が経過したトランプ大統領は、依然として米国第一を主張し続け、保護主義色の強い通商政策を進めようとしている。これに対して主要各国は米国の動向を見守りながらも、それぞれの利害を念頭に置いて行動し始めている。この状況が続くと、国際社会が米国を基軸とする体制から多極化に向かう可能性が高まる。そうした主要国間の軋轢(あつれき)は、世界の政治・経済にとって無視できないマイナス要因になることが懸念される。

今後、トランプ大統領の政権運営を大きく左右するのは国民の支持率だろう。一般的にはトランプ大統領への不支持が高まっているという解説は多い。しかし、その支持率は30%台後半から40%台前半の間で落ち着いている。この状況はトランプ政権にとって、今のところ、支持が落ちてはいないという都合の良い主張につながっている。トランプ大統領の支持率が大きく変わっていない背景には、景気が回復基調を維持し失業率が低下していることがあるとみられる。また、米国の株式市場がしっかりした展開になっていることも重要なファクターだ。トランプ大統領の今後の経済刺激策が一段の経済成長につながり、自分たちの生活の改善につながるとの見方があるのだろう。その背景には、インフラ投資への期待などだけでなく、景気回復のトレンドが続くという心理が大きく影響していると考えられる。

国際社会におけるトランプ大統領の孤立が深まる一方、世界の政治・経済・安全保障における影響力の拡大が顕著なのは中国だ。中国が目指しているのは、中国を中心とする新しい世界秩序の構築だろう。その一例が“一帯一路”構想だ。陸のシルクロード経済ベルト(一帯)と、中国沿岸部から欧州までを結ぶ21世紀海上シルクロード(一路)からなるこの構想は、中国を中心とする一大経済圏の整備を目指している。さらに“一帯一路”には中国を中心とする国際安全保障の枠組み整備という目的もある。中国は南シナ海での軍事施設を増強しており、すでに南シナ海での領海問題などが発生していることを考えると、一帯一路構想は国際的な軋轢を生む恐れがある。

そうした弊害を食い止めるためには、世界の主要国が、中国との“付き合い方”を明確にする必要があるだろう。ただ、現在、米国は内向き志向に走り、中国の通商政策や為替管理政策が不公平だと批判し続けている。これでは、中国との対話は平行線をたどるだけだ。ドイツのメルケル首相は、むしろ中国の習近平国家主席との関係を強化してきた。ドイツは、世界最大の消費センターである中国をうまく取り込もうとしている。

そうした状況下で、わが国は明確に主要国との連携を狙うべきだ。ハンブルク・サミット直前にEUとの経済連携協定が大枠合意(※1)に達したことは、わが国がグローバル化のメリットを重視し、自由貿易、規制緩和を多国間で進める意思があることを明確に国際社会に示したといえる。今後は大筋合意(※2)を目指し、国内で構造改革も進める必要がある。さらに、わが国はアジアを中心とする経済連携に取り組み、中国の圧力に不安を感じる各国との関係を強化すればよい。安倍政権は経済の自由化に向けた議論を進めてアジア新興国から賛同を取り付け、協力する国にはインフラ開発支援などで応えればよい。それが、親日国を確保するということだ。親日国が増えれば、国際社会におけるわが国の発言力も増すだろう。長い目で見れば、親日国を増やすことが、わが国の国力向上につながる。それを実現するために、アジア各国との関係強化は喫緊の課題と考える。

※1:関税交渉や主要分野のルール交渉が決着し、いくつかの細かい課題と法律の専門家によるチェック作業などを残す状態 ※2:関税交渉もルール交渉も全てが決着し、チェック作業のみを残す状態

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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