真壁昭夫の経済底流を読み解く 加速する社会のネットワーク化

近年、ネットワークに関する研究が進んでいる。その中でも、ネットワーク科学と呼ばれる分野に多くの注目が集まっている。ネットワーク科学の主な研究テーマは、私たちが生活する世界の中にあるさまざまな網の目のようなつながり=ネットワークが、どのような働きをしているかを解明しようという試みが多い。このネットワーク科学が注目され始めた背景には、目覚ましい情報・通信技術の発達により、社会全体がネットワーク化していることがある。

ネットワーク科学の命題の中に、“スモールワールド現象”というものがある。これは、世界の中で特定の人とその友人、さらにその友人をつなげていく行動を6回行うと、世界中の人々すべてを結びつけることができるという仮説だ。人と人あるいは物と物を6回つなげると、全ての人や物事などをつなげることができるので“六次の隔たり”とも呼ばれる。情報・通信技術が発達する以前では、実際につなげるという行動は、手紙を書いたり、あるいは実際に会ったりすることが必要だった。ところが、インターネットの発達によって、簡単に人と人の連鎖をつくることが可能になった。現在、それをうまく使って新しいビジネスを始める企業が出てきた。その一つに、ネットワークを使うことによって、特定のモノやサービスを売りたい人と、買いたい人を結びつけるビジネスがある。

ネットワークをつくることができない時代では、売りたい人がどこにいて、買いたい人がどこにいるかを見つけることは当事者には難しいことだった。そのため、店舗を構えて売買を仲介する機能が必要になった。しかし、現在のようにネットワークをつくることが容易になると状況は一変する。供給者は、提供したいモノやサービスをネットワークに提示する。一方、それを購入したい人はネットワーク上でその意思を明示し、後はモノやサービスの代金決済を行えばよいことになる。こうした流れは、長い目で見ると、私たちの生活や社会そのものの仕組みを大きく変革するきっかけになるだろう。

実際、ネットワーク先進国と言われる米国などでは、大手のインターネット企業がモノの売買の仲介を行うことに成功し、さらに実店舗を持つ小売企業を買収して本格的に小売分野に参入しようとしている。消費者もその利便性に注目し、買い物をする場合にネット通販などを使うケースが顕著に増えている。経済統計の数字を見ても、消費者が実際にデパートや小売店などの店舗に出掛けて買い物をするよりも、ネットを通じた購買行動を起こす方が、伸び率がはるかに高くなっている。その結果、米国では、多くのショッピングセンターや小売店舗への来店客数が減り、販売実績の低迷により閉鎖に追い込まれるケースが増えている。そのインパクトは大きい。そうした動きは米国だけではなく、中国などでもかなり顕著になっている。中国の消費動向に詳しいエコノミストにヒアリングしても、「中国は国土が広いこともあり、ネットを通した物量の伸びは驚異的だ」と指摘していた。

わが国はまだインターネット通販先進国と呼ばれる諸国ほどではないものの、そうした動きはいずれ押し寄せてくることだろう。それに備えて、新規企業の中にもネットワークを使った新しいビジネスモデルを模索する企業が目立っている。また、デパートや一部専門店などその流れの圧力を受ける側でも、ネットを使った新しい販売モデルを試験的に実施する企業も出ている。 重要なポイントは、私たちがネットワークの仕組みをうまく使うことだ。新しい仕組み自体に大きな価値があるわけではない。それを効率よく使うことによって、私たちの生活が快適になることが大切だ。新しい流れは、多くのケースで速度が速いため、どうしても使い勝手を判断する前に戸惑ってしまったり、急流に流されたりすることが多い。しかし、それでは、新しい仕組みの価値を生かすことにはならない。私たちは、これからやってくる新しい仕組みをうまく使うことを考えるべきだ。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。
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