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テーマ別企業事例 小さな会社のあの商品はなぜ売れるのか デザイン力で勝つ!

事例2 常識を打ち破るデザインで風船の新市場を開拓

マルサ斉藤ゴム(東京都墨田区)

昭和25年に創業したゴム風船の専門メーカー・マルサ斉藤ゴム。風船に対する固定観念を払拭(ふっしょく)して、子どもから大人まで幅広い世代が楽しめるまったく新しい商品を生み出し、国内外から注目を集めている。同社の発想を転換させたデザインの力について探る。

柄の出方が一つひとつ異なるところに特別感が漂う

風船は子どものものに非ず

風船を膨らませると色が変わる「ヘンシンバルーン」、アート風ペイントを施した「ドリッピングバルーン」、恐竜の形をした「マンマルD」……。マルサ斉藤ゴムが世に送り出すスタイリッシュな風船の数々は、「風船=子どもが遊ぶもの」という固定観念を払拭したことから生まれたものだ。

そんなものづくりの発端は、平成21年のこと。同社前社長で現会長の斉藤尋秀氏が脳梗塞で倒れ、急きょ長男である靖之さんが社長に就任したことに始まる。

「当時、私は34歳で経営のことが分からないまま会社を引き継いだため、墨田区が開催している後継者の育成塾に参加しました。そこで勉強するうち、少子高齢化の現実を知り、今までと同じことをしていてはいずれ立ち行かなくなると危機感を覚えました。それで『ものづくりコラボレーション』というメーカーとクリエーターのコラボを促す取り組みに出てみたところ、『この人と一緒に仕事がしたい!』と思えるデザイナーさんと出会い、風船でも何かもっと新しいことができるんじゃないかと感じたんです」と振り返る。

靖之さんはデザイナーにコラボを申し込む際、「子どもから大人まで笑顔になるような風船をつくりたい」と意気込みを伝えたそうだ。その目標に向かってデザイナーと気持ちを一つにし、新たな風船づくりをスタートさせた。

膨らませなくていい!?

まずはデザイナーの提案で、「丸・三角・四角風船」を試作した。単純に角のある風船ができたらおもしろいだろうと着想したものだ。

「風船は性質上、膨らませると角がなくなってしまうことはわかっていました。それでもかつてないアイデアなので、実現したら画期的と思い、さまざまな方法で試してみました。結局失敗に終わりましたが、ふとデザイナーさんが言ったんです。『だったら膨らませなくてもいいんじゃないか』と」

まさに目からウロコだった。風船は膨らませるという常識を、根底から覆す発想だからだ。膨らませなければ角がなくなることもないし、複雑な形を保つことも可能となる。そこから生まれたのが冒頭の「マンマルD」だ。マンマルは、日本語の「真ん丸」と英語の「mammal(哺乳動物)」を掛けたもので、Dはダイナソー(恐竜)の頭文字からとった。少しだけ空気を入れて成形したあと、口を結んで留め、主にオブジェとして楽しむ風船だ。

「いろいろな動物を試作した中から、おもしろいと思ったのが恐竜と豚でした。でも豚は誰が見ても豚とわかるので、『これって何だろう?』と興味をそそるように、恐竜を先に商品化することにしました」

そして平成23年、同社初のデザイン風船である「マンマルD」を世に出し、続いて「マンマルP(ピッグ)」を発売した。実は同商品のように形の複雑なものは、機械生産ができないのだそうだ。一般的な風船づくりは、原料となるラテックス(ゴム)の液体を染色してそこに型を沈め、表面に薄くついた液体を乾燥させたあと、内側に水を注入して型から抜くまでの工程を一つのラインで行う。ところが同商品の場合、水を注入してもスルッと型から抜けないため、手作業で取り外さなければならないのだ。「手間もコストもかかり大量生産はできませんが、こんな風船が目の前にあったら楽しい気分になるでしょう。こんな風船なら大人が自分のために買ったり、友だちへの贈り物にしてもいい。風船の持つ不思議な魅力を多くの人に知ってもらうためにも、もっといろんなデザインを形にしていこうと思いました」。

手づくりでデザイン性を追求

同商品を機に、靖之さんはデザイナーとともに手づくりでしかできない風船を次々と考案し、付き合いのある千葉県銚子市の風船工場に製作を依頼した。ここから、色の異なるラテックスを重ね塗りすることで、膨らませると色が混ざって変色するカラクリの「ヘンシンバルーン」や、手作業で塗料を垂らすため一つひとつ柄の出方が違う「ドリッピングバルーン」などが誕生。「マルサバルーン」というブランドを立ち上げて、平成24年に販売を開始した。

各種デザイン風船は6個入りで小が400円・大が800円、「マンマルD」などは1個500円(各税別)と高価だが、従来の玩具店ではなく、雑貨店や文具店での販売をメーンにしたことが奏功し、女性を中心に人気を博している。また、海外の展示会に出展した際には、いい大人が手に取って大喜びする姿に確かな手ごたえをつかみ、自信になったと靖之さんは言う。現在、同社は従来の大量生産品に加え、マルサバルーン・シリーズの好調な売れ行きにより安定した経営を続けている。

「デザインのすごさは、人の目を引きつけるアピール力と、商品に込めた思いを伝えるメッセージ力ではないでしょうか。そのおかげでマルサバルーン・シリーズは人気商品となりましたが、まだまだやれることはあると考えています。これからも自由な発想で、幅広い世代の人が笑顔になる風船を生み出していきたい」

デザインの力をもってすれば、玩具の風船が幾通りにも楽しめるアイテムへと変身し、新たなニーズを掘り起こせることを同社は教えてくれている。

会社データ

社名:株式会社マルサ斉藤ゴム

住所:東京都墨田区京島1-22-2

電話:03-3613-4156

代表者:斉藤靖之 代表取締役社長

従業員:6人

※月刊石垣2015年6月号に掲載された記事です。

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