発表のたびにニュースとなるのが日本の食糧自給率。カロリーベースで39%は、諸先進国と比べ極端に低く、食糧安全保障の観点から回復が国家的命題になっている。まったくの同感だが、こうした産業空洞化は何も農業に限ったことではない。
日本繊維輸入組合の「日本のアパレル市場と輸入品概況」によると、2014年の衣料品の輸入浸透率は97%に達した。つまり、流通するほとんどの衣料品は海外製で、日本製はわずか3%ということになる。人件費を中心とした生産コスト削減を理由に、国内の繊維メーカーが年を追うごとに仕事を失っていった結果である。
信頼のメード・イン・ジャパン
一方、海外の有名アパレルブランドが寄せる日本の繊維工場の技術力への信頼は厚く、日本の工場に製造委託しているケースが多々ある。しかし、そうした下請け仕事だけでは日本の繊維産業の衰退は避けられない。
メード・イン・ジャパンのファクトリーブランド商品を、適正価格で販売することで国内工場の自立を促し、人材育成や技術伝承への道筋をつけるこうした事業目的を掲げ、工場直結のインターネット通販「ファクトリエ」(社名はライフスタイルアクセント)を運営するのが山田敏夫さんだ。
熊本の老舗婦人服店を営む家に生まれ、日本製高級服を丁寧に販売する環境で育った山田さんは、世界を知ろうと大学時代にフランスへ留学。グッチに勤務していたとき、外国人の同僚から「本物のブランドはものづくりからしか生まれない」と教えられたという。
実家の誠実な商いと海外に出て初めて知ったブランドの意味。そして、日本の繊維工場の衰退という現実。この三つが山田さんの起業の原点となった。
2012年創業、50万円を資本金に全国の産地に通い、以来600近い工場を回った。その中から世界で戦える技術を持ち、事業理念を共有する工場と提携し、メード・イン・ジャパンのファクトリーブランド「ファクトリエ」を立ち上げた。
高品質・低価格を流通改革で実現
事業モデルを構築する上で山田さんが着目したのが従来の流通構造だった。日本では従来、糸や生地の産地、資材卸、縫製工場、アパレルメーカー、問屋や二次卸、小売りとそれぞれが単独で機能し、複雑な流通構造が形成されてきた。リスク分散のためだが、多層にわたる中間マージンによる高コスト構造を余儀なくされてきた。
山田さんはここにメスを入れた。企画デザイン、生産管理をファクトリエが行い、商品は一部のオーダーを除き、すべて同社が買い取る。販売はインターネットを通じた注文に応じて自社倉庫から配送。ショールームもあるが、そこでも同様だ。 価格に関しては、同社が在庫リスクを持ちながらも、決定権を工場に委ねた。販売価格は工場出し値の倍掛けで、出し値が5000円ならば1万円で販売する。これにより、価格は百貨店に並ぶ有名ブランドとほぼ同等の品質のものが高くて半額、安いものは4分の1程度を実現している。
「私が目指すのは、資本性と社会性の両立です。資本性とは誇りあるものづくりにより工場の経営が上向き、事業を継続・発展させること。社会性とは、それにより新たに繊維産業を志す若者を増やし、日本に本物のブランドを育てることです」と山田さん。
ファクトリエとは、ファクトリー(工場)とアトリエ(集まる場所)の造語。つくり手(工場)と使い手(顧客)を結ぶつなぎ手である同社の元には、いま多くの人が集まり始めている。
(笹井清範・『商業界』編集長)
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