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スポーツライター 青島健太の注目アスリート 不運なアクシデントを乗り越えた羽生選手のさらなる成長に注目

アスリートの進歩には、二つの要素がある。フィジカルな要素とメンタルな側面だ。肉体の成長期には、筋力が大きく、強くなることでパワーとスピードが増し、その動きがスケールアップする。一方、精神的な充実は好成績からくる自信が余裕を生み、安定したパフォーマンスを実現させる。そして失敗や故障、予期せぬアクシデントを乗り越えた選手は、それがさらなる強さとなって彼らを大きく飛躍させることになる。それはスポーツのみならず、仕事や勉強にも通じるわれわれの真理であり生理でもあるといえるだろう。

2015年、フィギュアスケートソチ五輪金メダリスト羽生結弦選手は、さらに大きくなって世界中のファンを魅了することになるだろう。 アクシデントが彼を襲ったのは、去年11月上旬のGPシリーズ中国杯だった。6分間の練習滑走中に中国人選手と激突。しばらく動けなかった羽生選手が立ち上がったときには、頭から流血、氷にぶつけた顎は裂傷を負っていた。そして心配されたのは、激しく頭を打つことで引き起こされる脳震とうだった。

ところが、このアクシデントにも怯むことなく決勝(フリー)を滑り切ったのは周知の通りである。その後、すぐに日本に帰国した羽生選手は精密検査を受けて、そのまましばらく入院を余儀なくされた。

しかし、羽生選手の闘争心はこんなことで萎えることはなかった。同月下旬に行われたNHK杯にも果敢に出場し、GPファイナル(今季上位6人)への出場を決めた。

このとき、顎や頭の裂傷は癒えたものの頭にはなおもコブが残り、練習もほとんどできないような状態でNHK杯を滑った。結果は4位。4回転ジャンプだけでなく3回転ですら上手く跳べないボロボロの滑りだったが、試合後に発した言葉が力強かった。無理を押しての出場を聞かれた羽生選手は毅然として言った。「正しかった。結果がどうあれ、こうやって滑り切れた。決して後ろに下がってはいない」。そして言葉通りGPファイナルで優勝を飾った。

そう、結果が全てではないのだ。置かれた状況の中で、諦めずに戦い続ける。その取り組みが、次の戦いの自信になる。たとえ思うような成果が出なくてもそれを悲観する必要はない。精神的な強さとは、小さな結果に一喜一憂することなく、自分の前進を信じる力のことなのだ。

青島 健太 スポーツライター&キャスター 1958年新潟市生まれ。埼玉県立春日部高校から慶応義塾大学、東芝を経てヤクルト・スワローズに入団。プロ野球初打席で初ホームランを記録。引退後は、オーストラリアで日本語教師を務め、帰国後、あらゆるメディアでスポーツの醍醐味を伝えている。

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