横浜DeNAベイスターズの山﨑康晃投手が、8月20日の東京ヤクルト戦で今シーズン32セーブ目を挙げ、新人の最多セーブ記録を更新した。それまでの記録は平成2年に中日の与田剛さんが挙げた31セーブだった。
ルーキーながら、もうすでに横浜ファンの気持ちをがっちりつかんでいる。この日も、2アウトになると満員の横浜スタジアム全体から「ヤ・ス・ア・キ」と応援のコールが鳴り響く。そして最後のバッターを内野ゴロに仕留めると、球場の盛り上がりはマックスに。
お立ち台に上がった山﨑投手は、鳴り止まないファンの声援に向かって言った。「数字にこだわりはないけど、みなさんの応援のおかげで記録を更新できました」。
臨機応変、状況を察知して的確に自分の行動を決断する――それが、抑え投手に求められる資質だとしたら、山﨑投手は随所でそうした言動を見せている。
開幕直前にもこんなことがあった。東京・有明で行われたセ・リーグのファンミーティング。6球団の監督と新人選手が勢ぞろいしてシーズンに向けての抱負と意気込みを披露するイベントだった。司会を務めていた私は、中畑清監督と山﨑投手をステージに迎えて話を聞いた。すると中畑監督が突然、山﨑投手に向かって話しかけた。
「この子は、先発で投げるとたいしたことはないんですが、短いイニングだと驚くような球を投げる。どうだ、抑えをやってみる気はないか?」
公開の適性診断ならぬ、コンバートの勧めである。しかも、開幕まで1週間を切っているタイミングだった。もちろんこれは、中畑監督流のファンサービスだったのだろうが、まさか山﨑投手は、そんな大事なことをファンの前で尋ねられるとは思っていなかっただろう。
しかし、ここで山﨑投手はその本領を発揮する。監督の予期せぬ問い掛けにもかかわらず、間髪入れず即答した。「はい、やります。僕を使ってください。お願いします」。
どんなときでも、臆することなく自分自身を売り込んでいく。ピッチングも同様だ。投げるのは150㎞台の直球と鋭く落ちるツーシーム。ためらいなく腕を振って投げるので、打者は見極めが難しい。前向きに自分を信じる力。それが彼の何よりの武器であり魅力だ。
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