Q 当社の社員から「ある裁判で証人として呼ばれたので、その日は休ませてほしい」と申し出がありました。その裁判は、会社とは全く関係のない裁判ですが、社員の申し出を認めなければならないでしょうか。また、その休んだ日の賃金は支払う必要があるのでしょうか。
A 会社とは全く関係のない裁判であっても、証人として裁判所に出頭することは、労働基準法第7条に規定されている公の職務に該当するため、社員から勤務時間中に、そのために必要な時間を請求された場合、使用者は、これを拒否できません。なお、公の職務の執行により労働をしなかった時間の賃金については、支払う義務はありませんが、無給扱いにするか有給扱いにするかは、就業規則に規定しておくとよいでしょう。
請求されたら必ず与える
労働基準法(以下、「労基法」という)第7条において「使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。」と規定されています。
また、民事訴訟法190条では「裁判所は、特別の定めがある場合を除き、何人でも証人として尋問することができる。」と規定されており、刑事訴訟法143条にも同様の内容が規定されています。
したがって、裁判所に出頭して証人として証言することは、適正な裁判を実現するための義務と考えられ、労基法第7条に規定されている〝公の職務〟に該当しますので、社員などから労働時間中に、公の職務の執行に必要な時間を請求された場合は、使用者はその請求を拒否することはできません。これは、正社員はもちろんのこと、パートタイマーや契約社員についても同様の対応が必要です。
公の職務と公民としての権利
公の職務の代表例としては、上記の裁判所への証人としての出頭のほか裁判員裁判の裁判員としての出頭もあります。
裁判員裁判とは、国民の中から選任された裁判員が裁判官と一緒に刑事裁判を行うものです(裁判員法第2条)。
裁判員は、衆議院議員選挙の選挙権を有する者の中から選任(裁判員法第13条)され、一定のやむを得ない理由がない限り、辞退できないため、社員などが裁判員となることも予想されます。
公民としての権利の代表例としては、法令に根拠のある公職の選挙権や憲法改正の国民投票、地方自治法による住民の直接請求などがあります。
したがって、ご質問のケースのほかにも「裁判員裁判の裁判員に選任されたので、3日間の休暇がほしい」「公職選挙の投票に行くので、通常より出社時間が遅くなる」などの申し出があれば、使用者は、これを拒否できませんので注意が必要です。
賃金の支払義務
労基法第7条では、賃金の支払義務について規定していません。したがって、使用者はノーワークノーペイの原則から、労働者が公の職務などのために労働しなかった時間に対応する賃金を支払う義務はありません。
しかしながら、証人として裁判所に出頭するのは、せいぜい一日程度だと思われますので、多くの労働者は、有給休暇を取得して対応するものと思われます。
一方で、裁判員裁判の裁判員としての出頭は、数日から一週間程度またはそれ以上となることもあります。企業によっては、裁判員として出頭した場合であっても、有給扱いとしているところもあります。
こうした公の職務などに充てた時間を無給扱いにするか有給扱いにするかは、使用者として統一的に対処する必要があることから、就業規則に規定しておくことがお勧めです。今後就業規則を見直す際には、有給での対応を検討してみてはいかがでしょうか。
(弁護士 山川隆久)
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