テニスの四大大会である先の全米オープンで、錦織圭選手は優勝こそ逃したものの、抜群のスタミナと集中力で世界中に旋風を吹かせた。
錦織選手躍進の秘密にはメンタルの強さがあるということを忘れてはならない。4回戦でラオニッチ選手(世界ランキング6位)を倒した後には「勝てない相手はもういないと思うので、できるだけ上を向いてやりたい」と言った。その言葉どおりワウリンカ選手(同4位)、ジョコビッチ選手(同1位)も撃破している。
このコメントは、聞きようによってはかなりの自信家の「それ」に思われるが真意は逆だ。13歳から単身アメリカに渡り、テニスの厳しさを嫌というほど味わってきた彼は、軽々に楽天的なことを口にしない。たくさんの敗戦を経て、その中で感じてきたトップ選手たちとの差をやっと克服できそうになってきた実感を素直に発言しているのだ。
こうした強いメンタルの習得には、去年からコンビを組むマイケル・チャンコーチの存在もあると語られている。錦織選手と同じアジア系でありながら弱冠17歳で全仏オープンを制したチャンコーチの指導は、世界のトップを目指す錦織選手にとって、あらゆる意味で説得力を持つものだろう。それが彼の自信を支える大きな力になっていることは間違いない。「俺ができるのだから、圭にできないはずがない」という論理が、先の錦織選手のコメントにも表れている。
錦織選手の活躍に刺激を受けた人はたくさんいるだろうが、技術的なことは、彼に任せるしかない。では、われわれが参考にすべきことは何か?
私は、錦織圭という素晴らしい選手を生み出した背景や環境を考えたときに、やはり若くしてアメリカに渡り、テニスと一緒に英語を身に付けたことが彼の強さの根幹にあると思う。チャンコーチとの英語でのコミュニケーションも、その出会いをより効果的にしているはずだ。
短期であれ長期であれ、海外での経験は大きな財産になる。それが若いころの苦労であれば、より一層その後の仕事に生かせるものがあるはずだ。語学が身に付けば、その世界は大きく広がる。「かわいい子には旅をさせよ」には、確かに先人の知恵と教えがある。若くはない私が短期間であれウィンブルドンに出向く理由もそこにある。現地の空気感が大きな刺激になるからだ。
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