本日は、日本商工会議所第126回通常会員総会を開催いたしましたところ、安倍内閣総理大臣におかれては、国連総会出席のため、残念ながらご臨席いただけませんでしたが、世耕経済産業大臣、野上内閣官房副長官をはじめ各政党のご来賓の皆さま、また、全国各地の商工会議所から、多数の皆さまにご出席いただき、盛大に開催することができ、誠にありがとうございます。
始めに、先日、台風18号が日本列島を縦断し、各地において、大雨などによる被害が発生いたしました。被災された地域の住民、事業者の皆様に心からお見舞い申し上げますとともに、一日も早く、生活の再建と事業の再開が進みますことを祈念しております。
わが国経済は、アベノミクスの成果が現れ、総じて緩やかに改善しています。9月8日に公表された4~6月期のGDP2次速報値は、年率換算で実質2.5%となりました。一方で有効求人倍率は1・52とバブル期の水準を上回るなど、人手不足が深刻な課題になってきており、また、これまでマイナスで推移してきた需給ギャップも2016年10~12月期以降プラスに転じるなど、今後は供給力がさらなる経済成長の制約要因となる段階になりつつあります。こうしたことを踏まえると、この先はサプライサイドにより多くの光を当て、中長期的に潜在成長率の3要素である生産性、資本ストック、労働力を向上させ、供給力を引き上げていくべきステージに変わってきているといえるのではないでしょうか。
マクロ経済指標や大企業の業績は比較的堅調に推移している一方で、国民や企業の中には、日本経済の将来に自信を持てないという声も聞かれます。
その要因の一つは、世界全体が、変化と不確実性の時代のただ中にいるということであります。欧米を中心に保護主義の動きは依然として続いており、為替や海外経済の動向にも目を配っていかなければなりません。北朝鮮のミサイルや核開発も、東アジア地域に不安定をもたらしています。一方でこのことは、われわれ日本人が自らの安全保障について、改めて真剣に考える時期にきていることを示しているともいえます。
要因の二つ目は、国内経済全体の成長の果実を全国津々浦々まで実感できる状況に至っていないということがあると考えます。一例としては、大企業の業績改善が、必ずしも従業員や下請け企業にまで及んでおらず、本年4~6月期の大企業の労働分配率は43・5%と1971年以来の低水準となっております。 さらに、今後とも構造的な人口減少が想定されている中で、特に地方においては、人手不足や後継者問題が目の前の課題として顕在化しております。また内閣府のレポートによると、若年層においては、将来の雇用・所得環境や社会保障制度の継続性への不安から、足元の消費を手控える傾向が見られるなど、わが国の中長期的な財政や社会保障制度の安定性をどう確保するかも大きな課題であります。
こうした中、安倍内閣総理大臣は、かねてより経済最優先の政策運営を表明されておられます。衆議院の解散報道がなされておりますが、政府はこの方針を徹底し、サプライサイド強化のため、企業活動を後押しする環境整備を迅速かつ強力に進めていただきたいと存じます。ICTの活用など未来投資戦略の実現、規制制度改革・20%以上を目標とした行政手続き簡素化の推進、TPP11やRCEPをはじめ公正で開かれた自由貿易圏の構築などについて、強力な取り組みを期待しております。
また、国民や企業が抱える将来不安の解消に向け、一部の人には痛みを伴う政策でも、オープンな議論と丁寧な説明により、国民の総意を形づくり、実行する必要があります。特に、社会保障制度に関しては、高齢世代から現役・子育て世代への大胆な資源の再配分、高齢者の応能負担割合の引き上げなど、給付と負担の両面からの思い切った改革とともに、社会保障財源としての消費税率10%への引き上げも予定通り確実に実施すべきであります。 他方、これまでも機会あるごとに申し述べてまいりましたが、経済成長の主役は、あくまで民間企業であります。経営者自らがデフレマインドを払しょくして積極的な経営姿勢に転じることが、経済の好循環をもたらし、日本経済再生と地方創生の実現につながると考えます。
そのために、われわれ民間が取り組むべき課題について、私の考えを申し述べたいと存じます。
地域における連携促進
その第一は、商工会議所が中核となった地方創生の加速であります。
地方創生の道しるべとなる「まち・ひと・しごと総合戦略」は、5カ年計画の中間年を迎え、各地で好事例が生まれ始めています。例えば、栃木県の鹿沼商工会議所では、伝統産業である木材加工と金属加工の技術を融合させ、新たなオフィス空間システムを開発・販売するなど、地元産木材の活用促進に取り組んでいます。また、島根県の出雲商工会議所では、地元に自生する薬草入りのクッキーを開発し、大手コンビニチェーンでの販売を実現させています。いずれも、連携によって、地域の資源や強みを最大限に活用しているのが特徴といえます。
日本商工会議所においても、5月にJA全中をはじめ、森林、漁業関連団体などと「地方創生の推進に関する協定」を締結し、キックオフイベントとして8月には福島の物産展を開催しました。すでに多くの地域で農林水産団体との連携が進んでいますが、各地域においてより一層連携を深め、地域の活力に結び付けていただきたいと思います。
観光を巡る状況も、大きく変わりつつあります。昨年、インバウンド(訪日外国人観光客)は、2400万人を超えました。これまでは、いわゆるゴールデンルートに集中していましたが、団体旅行から個人旅行へ、あるいはSNSによる発信などにより、地方への回遊が増加しており、インバウンドとは無縁だった地域でも、その経済効果を意識した観光振興が求められています。
また、11月に観光振興大会が開かれる前橋では、産業や医療など地域資源を新たな視点で掘り起し、観光振興に結び付けています。「きらりと光る観光資源」を磨き上げ、連携によって地域の活性化を図ることが重要であり、今後、各地において、民間の創意や知恵を原動力とした取り組みが加速することを期待いたします。
一方で、政府にしか対応できない課題もあります。交流人口の拡大や民間投資の誘発などに寄与する社会資本整備は、民間では取り組むことができません。整備新幹線や高規格幹線道路、クルーズ船に対応した港湾整備など、地域の成長を喚起するストック効果の高いインフラ整備を着実に進めていくことが必要であり、日本商工会議所は、引き続き政府に対し、その必要性を粘り強く訴えてまいります。
さらには、災害復興と福島再生の支援も、引き続き、われわれが強力かつ継続的に取り組まなければならない課題です。東日本大震災以降も熊本地震や九州北部豪雨など、各地で自然災害が多発・激甚化しています。依然として、回復しない販路や農林水産業・観光に対する風評被害、人手不足などに苦しんでおり、きめ細かい対策・支援の継続が必要です。また、福島県においては、国が前面に立ち、除染・汚染水処理、賠償などを着実に進めることが求められます。 日本商工会議所では、今後も被災事業者の事業再開や販路の回復・開拓を強力に支援してまいりますので、引き続きのご協力をよろしくお願いいたします。
安価で便利なICT開発
第二は、地域経済再生の主役となる、中小・中堅企業の活力強化についてであります。
人手不足が深刻化する中で、生産性向上の必要性が指摘されています。生産性向上には、ICT、IoT、ロボット、AIの活用が有効であります。これらは従来、大企業中心の取り組みが主でありましたが、最近では、中小企業にも徐々に広がりつつあります。愛知県の豊田商工会議所では、企業の受発注データを、業界を越えて電子的にやりとりする実証実験が進められており、取り引き事務の効率化が期待されています。
ICTの活用は、新しい付加価値やビジネスを生む契機でもありますので、日本商工会議所では、中小企業の経営者自身にICTの有用性の気付きを促すとともに、中小企業の使いやすい、安価で便利なICTの開発とその活用策を推進してまいります。
「多様な人材の活躍推進」も、人手不足の重要な解決策の一つであり、そのために、女性、若者、高齢者、外国人などの積極的な人材活用を進めることが不可欠です。特に、外国人材については、開かれた受け入れ体制の構築に向けて、1952年に創設されたわが国の出入国管理制度を抜本的に見直していくことが必要であり、来月には意見書を取りまとめたいと考えております。
同時に、「働き方改革」にも取り組んでいかなければなりません。
「働き方改革」は、長年続いたわが国の労働慣行を大きく変化させ、生産性の向上を図るきっかけとなり得るものであります。中小・小規模事業者は、大企業よりも人手不足感が強いだけに、職場環境や待遇の改善など「魅力ある職場づくり」がより強く求められます。この点、広島県商工会議所連合会では、行政と連携して「働き方改革認定制度」を創設し、県内企業の取り組みを後押ししています。
こうした動きが各地に広がり、「働き方改革」を契機に、仕事の無理・無駄の削減や過剰なサービスの見直しにつなげていくことが重要です。特に、取引慣行の改善に関しては、政府、企業、労働組合など関係者による重点的な取り組みが急務であります。
また、先般、働き方改革関連法案の要綱が取りまとめられましたが、時間外労働の上限規制は、長時間労働の是正だけでなく、働く人々の健康を確保しつつその意欲を高め、生産性を向上するものであります。他方、同一労働同一賃金に関して、正規と非正規労働者の不合理な待遇差を解消することに異論はありませんが、グレーゾーンが広く、準備に相当な手間と時間がかかるため、特に中小企業の現場が混乱しないよう、早期に内容を明確化することが不可欠です。要綱では、中小企業への適用は大企業より1年遅らせることになっていますが、それでも準備に懸念が残りますので、政府に対し、相談機能の強化や手引書の早期策定を求めてまいります。
この他にも、創業・第二創業、海外展開、産学連携や知的財産の活用など、中小企業が取り組まなければならない課題がありますが、特に、事業承継は大きな問題であります。
企業数は過去5年間で約40万社減少しており、その主たる要因は廃業です。廃業した企業の半数は黒字であり、中には非常に利益率の高い企業も存在します。また、事業承継で代替わりした企業の方が、収益率が高いというデータもあります。中小企業の活力をわが国の成長につなげる観点から、円滑な事業承継が可能な環境を整えていかなければならず、そのために、諸外国と比べて劣後している事業承継税制の抜本的な見直しが不可欠であります。日本商工会議所では、政府・与党にその実現を力強く働きかけてまいりますので、皆さまのご協力をよろしくお願いいたします。
日本の魅力、世界に発信
最後に、2020年オリンピック・パラリンピック大会について申し述べます。開幕まで3年をきり、少しずつですが、各地域の取り組みが進んでいます。東京商工会議所では、会員企業・地域にレガシーを形成するためのアクションプログラムの検討が進められており、競技会場のある商工会議所との連絡協議会も立ち上がりました。他の地域においても、事前キャンプの誘致や、聖火リレーの出発地を要望する活動などが展開されています。
大会の前後には、世界から多くの関係者が訪れますので、日本の魅力を全世界へ発信するまたとないチャンスであります。さまざまな形で機運を醸成し、地域活性化に結び付けることが重要であり、これも商工会議所の大切な役割であります。加えて、大阪・関西における2025年国際博覧会の誘致も強力に進めていくことが重要であります。
以上、所信の一端を申し述べました。
私は各ブロック総会をはじめ、青年部や女性会の大会などで全国を訪問した折に、各地商工会議所や会員企業の皆さまの活動を見聞きし、それぞれの地域で主体的な取り組みが着実に広がっていることを実感しています。
そうした活動を地域の発展、そしてわが国の成長につなげていくためには、基盤となる商工会議所自身の機能強化を図っていかなければなりません。そのために日本商工会議所は、現場主義、双方向主義を徹底し、全国515商工会議所とのネットワークを一層緊密化させ、各地商工会議所の活動を全面的に後押ししてまいります。皆さまの引き続きのご支援、ご協力をお願いして、私のあいさつとします。 (9月21日)
世耕弘成経済産業大臣あいさつ要旨
企業の「稼ぐ力」強化
8月の第3次内閣改造に当たり、「政権の最優先課題とすべきことは経済の再生である」と総理は明確におっしゃっています。経済産業大臣として、経済再生を最優先に、内閣の一員として全力で職責を果たしてまいります。
今、世界ではIoT、ビッグデータ、AIなど技術の活用が拡大しています。わが国でもこの第四次産業革命と呼ばれる技術革新を最大限取り込む必要があります。データを介して、さまざまな業種、企業、人、機械などのつながりから、新たな付加価値を創出し、社会課題を解決していく、このような産業の在り方を「コネクテッド・インダストリーズ」と名付け、今年3月にドイツで発表しました。現在は、その実現に向けて、官民が連携して取り組んでいるところです。
中小企業政策を巡る課題は大きく三つあり、経営者の高齢化と後継者不足を背景とした事業承継の重要性の高まり、人手不足の深刻化、生産性の向上でございます。
第一に、事業承継については、この10年で集中的な支援を実施しなければ、わが国の産業基盤が失われかねません。今後、事業承継税制の抜本拡充も含め、承継の準備段階から承継後まで、切れ目のない支援パッケージを集中的にまとめていきます。
第二に、人手不足へ対応するため、これまで合同企業説明会などにより若者や女性、高齢者といった多様な人材とのマッチングを支援してきました。今後これに加えて、対応のポイントや好事例を抽出した人手不足対応ガイドラインを普及させてまいります。また、即戦力となる中核人材の確保・活用促進に向けた検討を進めてまいります。
第三に、生産性向上については、昨年7月に「中小企業等経営強化法」を施行いたしました。「経営力向上計画」の認定を受けた企業であれば、低利融資や、赤字であっても活用できる固定資産税の軽減措置などの支援を盛り込みました。また今年度税制改正において、「攻めの投資」を促すため、製造業のみならず、小売・サービス業にも使いやすいよう軽減措置の対象を拡大いたしました。
地域経済を活性化させるためには、意欲ある地域企業の「稼ぐ力」の強化に向けた挑戦を後押しすることが重要です。地域経済を牽引(けんいん)することが期待される企業を発掘するため、取引データなどのビッグデータを活用するとともに、地方自治体、商工会議所などからの推薦も踏まえて、「地域未来牽引企業」を2000社程度選定し、公表していきます。地域未来牽引企業を数多く発掘し、支援措置を活用していただきながら、地域経済に成長をもたらす新しい挑戦を応援していきます。 (9月21日)
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