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平成29年版通商白書(概要) 経済連携の推進が重要 中小輸出拡大に支援を

新たな特産品が並ぶブース

経済産業省はこのほど、平成29年版通商白書を閣議に報告した。白書では、自由貿易は経済成長のエンジンであり、格差縮小にも寄与していると指摘。グローバル経済の発展には、自由で公正な高いレベルの通商ルールが不可欠とし、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日中韓FTAなどの推進が重要であるとした。また、間接輸出が中小企業の経常利益を増加させていると分析した。特集では白書の概要を紹介する。

今年の通商白書メインメッセージ

1.自由貿易は経済成長のエンジンであり、格差縮小にも寄与。

⑴自由貿易は経済のパイ拡大に不可欠。貿易は一人当たり経済成長率を高めることに寄与度が高い。ミクロで見ても、輸出に従事する企業は生産性を伸ばしている。

⑵近年、米国を中心として先進国では格差拡大を背景としてグローバル化への不満が台頭。しかし、格差は、技術革新などに起因するところが大きい。貿易はむしろ格差縮小に貢献。

2.「21世紀型の通商政策」が強く求められている。

⑴グローバル・バリュー・チェーンの飛躍的発展(製造工程のアンバンドル化(※1)とスマイルカーブの変形)で貿易の中身は「モノ」から「価値」(モノヒトカネ情報)へと変化

⑵〝自由貿易〟への疑念の深まりとそれを克服すべきという強い世論の登場

⑶「新々貿易理論」(個別企業の生産性とグローバル化の関係(輸出閾(しきい)値の存在)を明らかにした)が示唆するグローバル活動への参入支援策の重要性の認識の高まり(※1)アンバンドル化:製造工程の細分化と複数国への分散および相互ネットワーク化

3.「21世紀型の通商政策」は、①イノベーションを支え、②インクルーシブ(包摂的)な成長を志向するもの。以下の3点を有機的に連関させながら推進。

⑴グローバル経済の発展には、自由で公正な高いレベルの通商ルールが不可欠。

〇わが国として、マルチ・プルリ・リージョナル(※2)などにおける通商ルール策定を戦略的に推進。

⑵モノカネヒト情報の自由な往来と「繋がり」によるイノベーションを進め、「コネクテッド・インダストリーズ」や「ソサエティー5・0」を実現。

〇「内なる国際化」(対内直接投資、高度外国人材受け入れ)やオープン・イノベーションなどを推進。そのための通商・投資ルール策定を進める。

⑶中小企業や地域などをグローバル経済にいざない「インクルーシブ」な成長を実現。

〇市場調査、取引先開拓、流通網整備などのコスト引き下げや生産性向上による体力強化で中小企業などのグローバル活動参入を促す(=輸出閾値を下げる)ため

・商社など経由の間接輸出、eコマースの促進、新輸出大国コンソーシアムなどを活用した海外展開支援

・観光や農産品・食品など地域産品輸出促進

・IT・ロボット導入などを通じた地域経済の生産性向上など図る(※2)マルチ:WTOなどでの全加盟国の交渉、プルリ:WTOでのITA拡大交渉などのテーマ別交渉、リージョナル:TPP、RCEPなどの広域的な経済連携

世界経済における動向とリスク

国際通貨基金(IMF)の世界経済見通し

〇世界経済は全体としては回復基調にあるが回復のペースは緩慢なものとなっている。

〇近年、貿易量の伸び率が経済成長率を下回って推移する傾向にある。

貿易のメリット

貿易による一人当たりGDP上昇・生産性への貢献

〇一人当たりGDPの上昇には、貿易がR&D投資とともに寄与している。

〇また、全要素生産性の上昇についても、貿易がICT投資以上に寄与している。

貿易による個別企業利益への貢献

〇輸出をしない企業より、輸出を開始した企業の方が、その後の生産性が高くなる傾向。また、多くの企業が直接輸出により売り上げのみならず経常利益を拡大させており、さらには雇用や賃金を拡大させた企業も4割近く存在している。(表1)

格差の要因

先進国における国内格差拡大

〇世界全体での格差は減少。貿易の活発化も大きく貢献したとされ

〇他方で、先進国では多くの国が国内における格差拡大の方向に推移している。

技術発展の格差拡大への影響

〇先進国の格差拡大の主な要因は技術革新(ICT投資)である。貿易は、むしろ教育政策などと共に、格差縮小要因となっている。

〇なお、ICT投資の推進は、わが国の経済成長力の向上のために不可欠である。

貿易の格差縮小への貢献

〇貿易額(対GDP比)が高い国ほどジニ係数が低い傾向にある。

製造業雇用を巡る国際的なインクルーシブ対応

〇他方でIMFは、新興国からの輸入が先進国の一部地域の製造業雇用に与えた影響もあると表明している。

〇しかし、製造業の雇用の変化は国によって状況が異なっている。背景も多様。G7/G20各国がそれぞれの実情に応じてインクルーシブな成長のための施策を実施していくべきと議論されている。

わが国の通商政策の方向性(「21世紀型の通商政策」)

〇ICT(情報通信技術)や貿易自由化などによりグローバルバリューチェーンの飛躍的発展(製造工程のアンバンドル化とスマイルカーブの変形)、「自由貿易」への疑念の深まりとそれを克服すべきという強い世論の登場、新々貿易理論(政策的支援次第では非輸出企業が輸出企業に転化する可能性を示唆)が示すグローバル活動への参入支援のニーズの高まりなどを受けて、21世紀型の通商政策が強く求められている。

〇こうした変化に対応すべく、ヒトモノカネ情報の自由な流通とグローバル経済への参加の裾野を広げる通商政策を推進することが重要。「質の高い通商ルール」に基づいた通商システムを世界に広げていく。

〇「21世紀型の通商政策」は、①イノベーションを支え、②インクルーシブな成長を志向。

わが国の通商政策を取り巻く環境の変化

〇越境物流網の発展に加え、情報通信などの技術革新により、企業は製造工程をアンバンドル化することが可能となった。

◯これによって、モノヒトカネ情報の越境移動に支えられた「グローバル・バリュー・チェーン」が飛躍的に発展した。

〇また、製造工程のアンバンドル化に伴い、中間に位置する製造工程の中には途上国の低廉な労働力に海外移転されるものも出るなど、中間製造工程の付加価値の下押し圧力が発生した。(スマイルカーブの変形)

イノベーションを生む通商政策

グローバル企業の収益力向上

〇新たな付加価値を創出するイノベーション力の向上が喫緊の課題である。

〇日本は欧米と比べ、付加価値デフレータ(製品差別化力やブランド力を示す)の悪化が顕著。欧米企業に比べ、わが国企業が価格競争に巻き込まれている可能性がある。

〇わが国企業は四つの種類の「イノベーション」に関して、先進諸国に比べ見劣りをしている。

コネクテッド・インダストリーズの推進

〇デジタル化が進展する中、わが国の強みである高い「技術力」や高度な「現場力」を生かした、ソリューション志向の新たな産業社会の構築を目指す必要がある。

〇現場を熟知する知見に裏付けられた臨機応変な課題解決力、継続的なカイゼン活動などが生かせる、人間本位の産業社会を創り上げていくべき。

〇さまざまなつながりにより新たな付加価値を創出する「コネクテッド・インダストリーズ」が重要であり、またサイバー空間とフィジカル空間が高度に融合したソサエティー5・0を形成していくことが必要となっている。

イノベーションの創出に必要な人的投資・交流が課題

〇わが国の技術力や現場力を生かし、人間本位の産業社会を創り上げ、さまざまなつながりによる新たなビジネスモデルを創造するには、欧米に比べ小さい「人的資本投資」の促進が求められる。第4次産業革命を見据えた、異分野からの人材獲得投資やAI・IoTなどの人材育成が重要である。(表2)

〇さらに、オープンイノベーションに向け、国際的な研究ネットワーク形成を高めていくことも重要である。

第4次産業革命の下で求められる人材育成

〇圧倒的に不足しているIT・データ人材を中心に、新しいスキルやコンピテンシーを装備するため、基礎、ミドルおよびトップレベルでの人材育成・教育エコシステムの構築が重要である。

インクルーシブな通商政策

新々貿易理論

〇メリッツなどの新々貿易理論は、従来の貿易理論と異なり、同一業種内でも輸出固定費用の負担能力の有無によって輸出企業と非輸出企業の差が生じることを説明した。

〇これまでグローバル経済への参入が困難であった企業の中にも、政策的工夫でグローバル企業に脱皮できる企業が多数存在することを明らかにした。

中小企業とGVC(グローバルベンチャーキャピタル)の結びつき強化(現状)

〇間接輸出についても直接輸出と同様に、多くの企業が経常利益に貢献したと回答した。

〇わが国においては、間接輸出企業は日本企業全体の約4割に相当している。間接輸出は、既に多くの企業によって行われていると推定されるが、さらなる拡大の余地がある。(表3)

中小企業とGVCの結びつき強化

〇間接輸出の課題として、販売力のある仲介企業の確保が求められているが、海外販路に強みを有する企業は、卸売事業を行う企業のうち一部に限られる。このため卸企業とのマッチングや商社の輸出機能強化が重要である。

〇越境eコマースは、海外顧客へのアクセスが容易といったメリットがある一方で、リスクへの対応が求められている。

〇中堅・中小企業の海外展開に向けた課題は多様であり、専門家による個々の企業のニーズに応じた支援が重要である。(表4)

観光・農業関連施策

〇政府では、2020年に訪日外国人4000万人および同消費額8兆円などの新たな政府施策について「明日の日本を支える観光ビジョン」が16年3月に取りまとめられた。

〇また、農林水産物・食品についても輸出額を19年までに1兆円とする目標の達成のため「農林水産業の輸出力強化ワーキンググループ」が16年1月に政府内に発足した。

〇地域における観光や農林水産物・食品輸出の促進のため政府としても地域への未来投資を支援していくことが重要である。

通商協定の現状

〇わが国は、自由貿易の旗手として、自由で公正な市場を、アジア太平洋地域をはじめ、世界に広げていくことを目指しており、WTOや経済連携の取り組みを推進していくことが重要である。

〇特に、経済連携については、17年5月現在、20カ国との間で、16の経済連携協定を署名・発効済み。また現在、日EU・EPA、RCEP、日中韓FTAなどの経済連携交渉を推進中である。