政府は4月30日、電力需給検証小委員会の報告書を取りまとめた。夏のピーク時の供給予備率は全国平均で4・6%と引き続き厳しい状況。政府はこの報告を受け、連休明けにも2014年度夏季の電力需給対策を決定する。報告書では、「昨年より大幅に厳しい需給状況を想定した特段の電力需給対策を検討する必要がある」として、受給両面で政府の適切な対策を求めている。
最低ラインは辛うじて確保
政府が電力各社からの報告をもとに、電力需給検証小委員会に提示した、今夏の電力需給見通し(沖縄電力を除く電力大手9社)は、安定供給に最低限必要なピーク時の電力需要に対する供給余力を示す「供給予備率」の8月の全国平均は4・6%。昨年度より1・6%下回ったものの辛うじて最低ラインの予備率3%はクリアした。
しかし、この数字は、節電の定着と周波数変換装置(FC)を通じて東京電力などからの電力融通を見込んでのもの。融通を行わない場合は、九州電力は1・3%、関西電力も1・8%と供給予備率の最低ラインを割り込む。
昨夏、稼働していた大飯原子力発電所3、4号機が定期点検に入ったことや、電源開発(Jパワー)の松浦火力発電所2号機で定期点検中にタービン落下事故が発生したことなどが影響した。今夏の電力需給については、節電や電力融通をあらかじめ織り込むリスクについての認識が重要となる。
緊急避難的な対応には限界
火力発電所に依存した供給体制はこれまで通り。現時点では、先行きが不透明な川内原発の再稼働は織り込んでいない。計画外の老朽火力などの突発的なトラブルも予想され、相変わらず電力需給の綱渡りが続いている。
電力需給検証小委員会でも、各委員から「火力発電所の経年別の比率とトラブル件数を示すべきではないか。稼働してから11年の苫東厚真4号で事故が起きている中、老朽火力だけを見ていてよいのか確認したい」「火力発電所の発電効率やCO²排出量は、老朽化によってどれくらい変わるのか示すべき」「限られた人的リソースを老朽火力の点検等に振り分けた結果、老朽火力以外の火力への対応が疎かにになっていないか」「海外でも老朽火力をこんなに活用しているのか」など、火力発電所に過度に依存する現状についての質問が相次いだ。
電気事業法では、ボイラーは2年ごと、タービンは4年ごとに定期検査を実施しなくてはならない。しかし、震災以降の需給状況が厳しいため、需給ひっ迫を回避する観点から、特例として一部の火力発電所では法定定期検査の時期を先送りしてきた。
前回の定期検査終了から2年以上経過した発電所は78カ所で全体の3割程度。4年超の発電所も7カ所(関西電力:姫路第一6号機「LNG」、相生2号機「石油」、御坊2号機「石油」、姫路第二既設6号機「LNG」、海南4号機「石油」、中部電力:武豊2号機「石油」、四国電力:阿南2号機「石油」)ある。
運転年数が相当程度経過し、設備の劣化状況を考慮して長期停止をしていた火力発電所「長期停止火力」も震災以降、順次稼働を再開。現在、再稼働している「長期停止火力」は6機(東北電力:東新潟港1号機、中部電力:知多第二2号機GT、武豊2号機、関西電力:海南2号機、四国電力:阿南2号機、九州電力:苅田新2号機)で、東京電力の鹿島、横須賀の火力発電所は、劣化がひどく再び長期停止となった。
今夏もピーク需要日の供給電力の約8割は火力に依存。火力発電をフル活用する緊急避難的な対応が続いており、設備疲労も蓄積している。
電力各社は予兆管理を強化
電力各社は、巡視回数を増やしてトラブルの予兆管理を強化。安定運転の維持に向けた取り組みを進めているが、潜在的な故障リスクが顕在化する可能性もあり、予断を許さない。電力需給検証小委員会でも、各委員から「単に数字だけで電力需給が足りていた、足りていないだけを議論すべきではない」「電力需給がなんとかなるという気持ちが一般化しないようにすべき」など、国民全体で供給面のリスクについて認識を共有する必要性についての意見があった。
原発再稼働へ規制委の充実を
一方、各地の経済界からは、低廉で安定的な電力供給の早期実現の足かせになっている原子力規制委員会の審査体制の充実と審査の効率化を求める声が上がっている。四国商工会議所連合会、四国経済連合会など四国4県の経済界は4月16日、「伊方原子力発電所の一日も早い再稼働に向けた要望」を取りまとめ、経済産業省などに要望書を提出した。
要望書では、伊方原発の停止に伴う電力供給の不安定化や電気料金の値上げなどの地域経済への負の影響を指摘。「今夏の電力需要のピークに備え、安全を前提に、伊方原子力発電所の一日も早い再稼働を行うべきである」として、そのため、原子力規制委員会の審査体制のさらなる充実および効率的審査の実施や、国が原子力発電所の早期再稼働に向けて主体的、積極的に取り組むことを要望している。関西経済連合会や九州経済連合会からも同様に再稼働を求める声が上がっている。
原発停止の影響により東北の被災地を含めて、全国の電気料金が上昇している。各電力会社も原発の早期再稼働を織り込んで料金設定をしているため、審査の遅れの状況によっては、再値上げの波及も懸念されている。
最新号を紙面で読める!