事例3 保冷材のニーズに応え続け世界トップシェアを目指す
トライ・カンパニー(静岡県沼津市)
スイーツや惣菜、鮮魚などを買うと、保冷材を添えられる。そんな日常風景を創り上げてきた一社が、静岡県沼津市に拠点を置くトライ・カンパニーだ。食品以外にも、防災、医療分野に果敢に挑戦し、出荷量トップクラスの中でいち早く海外市場にも乗り出している。「保冷材って何?」から始めて28年、今や保冷材大手として名をはせる。
ダイレクトメールで地道に販路を拡大
JR沼津駅から徒歩約10分の距離に位置する工業団地、沼津双葉テクノパーク内にトライ・カンパニーはある。
「『一緒に会社をやらないか』と誘われたのが始まりです」と、二代目で1999年より代表取締役社長を務める髙安るみ子さんは創業当初を振り返る。映画製作会社でプロデューサーをしていたものの会社が倒産し、この先どうしようかと考えていたときに、兄の友人であり、後に創業者となる故・芹沢順一さんから声を掛けられた。芹沢さんは当時、包装資材メーカーの社長だったが、保冷材製造機器の記事を目にし「これはビジネスになる」と別会社立ち上げに躍起になっていたという。
「二人とも保冷材のことなんて全く知りません。でも、順一さんの熱意にほだされて二つ返事で関わることにしました」と笑う。
90年4月26日、創業当初は従業員6人で、保冷材製造機器の使い方をメーカーに聞くところからスタートした。だが、当時の保冷材の認知度は低い。「アイスノン®みたいなものです」と他社商品名を言ってやっと理解してもらえる状況で、製造した保冷材にカビが生える、急な冷却で突起ができて袋が破けるなど、トラブル続きだったという。そんな中、地元の干物加工会社の社長の助言で風向きが変わっていった。
「ゆうパックのカタログをチェックするといいと教えてくださったんです。産地直送の商品がたくさん掲載されていて、保冷材を使ってくれそうなところの情報収集に役立ちました」。さらに全国のタウンページをかき集め、ダイレクトメールを北は北海道から南は九州まで送った。はがきではなく封筒にしたり、粗品在中と明記して開封してもらえるようにするなど工夫を重ね、返答率1%あれば成功といわれる中、5%という高い数値を叩き出す。パソコンもインターネットもない時代、地道な営業努力で販路を広げた。
他社がやっていない付加価値を追求する
水産業、畜産業を中心に取引先を増やしていくと、全く相手にしてもらえなかった包装資材商社からも引き合いがあり、取引先の7割が商社になるほど事業は発展していく。創業2年目には業界に先駆けて保冷材を凍結納品し、4年目には抗菌効果を狙って業界初のワサビを使った保冷材を開発。これが抗菌ブームに乗って、瞬く間にヒット商品になる。
だが、2000年になると競合メーカーが急激に増え、ピーク時には100社にも達する。生き残っていくには付加価値のある商品開発が必須と考え、多品種小ロット生産に拍車をかけた。
「サイズも1㎝単位で対応して、一時期500アイテムはあったと思います。でも、多品種小ロットはやりすぎると生産性が悪くなることが分かりました。商品数を整理し、現状は300ぐらいです」
点数はセーブしても、ニーズをくみ取る開発力の高さは変わらない。抗菌・消臭機能を考案したり、保温にも目を向け、高機能蓄熱剤や火を使わずにお湯を沸かせる「湯わかしBOX」など、マイナス21℃〜プラス60℃までの商品ラインナップをそろえていく。12年前の本社工場移転の際に敷地内に井戸を掘り、富士山の伏流水をRO水(逆浸透膜水)にして、原料である石油資源(ポリマー安定剤)の削減に成功すると同時に、クリーンな保冷材として注目を集めた。また、保冷材の内容物(ゲル)に芳香剤を添加したアロマ商品の開発を機に、病臭対策商品のオファーがあった。乳がんや子宮がん、大腸がんなどの病臭に向けた「デオドラント〝ケア〟シリーズ」を生み出し、医療分野参入も果たす。こうして求められる〝付加価値〟に応え続け、独自路線を切り開いていった。
商品開発、海外進出を多角的に挑戦し続ける
同時並行で海外市場の開拓も進める。それは20年以上前、同社の評判を聞きつけ、韓国から一人の青年が訪れたことから始まった。軍服の夏用ベストに入れる保冷材製造の依頼で、このベストの開発が後にカーレースのクールベスト開発につながる。韓国人青年はその後同社に入社し、00年に着手した韓国内での製造販売に尽力し、12年に開設した韓国支店の支店長となった。
「積極的に海外市場を開拓しているのは、国内の保冷材メーカーの中でもうちぐらいだと思います。現在、韓国、台湾、タイの3カ所で、今後はフィリピン、ベトナム、マレーシアへの展開を見据えています。従業員にも昨年ベトナム人を正社員に、パートにパキスタン人、ブラジル人、中国人、ベトナム人を採用しました。二十数年前に採用したブラジル人は、今では立派な工場長です」と多国籍な採用は海外展開強化も一因としてあるという。また、女性社員構成比率も高く、正社員で19・5%、管理職では45・5%と半分を占める。
「デオドラント〝ケア〟シリーズも女性開発者が3年がかりで開発したものですし、障害者雇用も長年実施しています。障害のある方や寝たきりの方対象に耳が痛くならない『クールまくら』を近日発売予定です。さまざまな縁から商品が生まれ、社会貢献につながる。そんな商品を提供し続けたいです」と挑戦する姿勢を崩さない。
会社データ
社名:株式会社トライ・カンパニー
所在地:静岡県沼津市双葉町9-11-4
電話:055-920-7111
HP:http://www.trycompany.co.jp/p
代表者:髙安るみ子 代表取締役社長
従業員:50人(パート含む)
※月刊石垣2018年12月号に掲載された記事です。
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