総務省「平成26年版情報通信白書」によると、スマートフォンは保有率が6割を超えて伸び続けている。それとともに利用者が増えているのがソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)だ。SNSとはインターネットを通じて人と人とのつながりを促進・サポートするサービスで、フェイスブック、ツイッター、LINEほか次々に新たな新顔が登場し、ビジネスにおいても活用されている。
例えば、販売促進。店の最新情報を、従来のチラシなどと比較にならない低コストで、しかも即時に発信できるツールとして注目され、多くの企業が取り組んでいる。その一つに、写真共有型のSNS「インスタグラム」がある。
ほれた商品を1日1投稿
愛知・豊橋市の「ヤマモトスポーツ」は約30坪の売り場に、15ブランド約600個の野球グローブがそろえられた専門店だ。そのインスタグラムには、主力商品であるグローブの写真が並んでいる。とりわけ、まだ知名度は低いものの、店主の山本泰広さんが専門家としてほれ込んだブランドを毎日投稿し続けることで、野球愛好者に注目されている。
「インスタグラムを始めてからは、三重県や静岡県、遠くは埼玉県からもお客さんが来るようになったんですよ」と山本さんはその効果に驚いている。
同店は1978年創業、山本さんは二代目だ。かつては総合スポーツ店だったが、近隣に大型スポーツ店が進出すると売り上げは激減。そこで2014年2月、主力カテゴリーだった野球用品の中でもグローブに特化した専門店としてリニューアル。商品を絞り込むことで、小さな店でも大型店に負けない品ぞろえにした。
「モノありきでは価格競争になってしまう」と考えた山本さんは、グローブをお客に応じて使いやすく慣らす「型付け」と修理を強化。加えて、「〝今より〟名手製造所」というストアコンセプトを打ち出した。「単にモノを売るだけではなく、野球が上手になるお手伝いをしたい」と、自ら少年野球チームなどに出向いてグローブの手入れ方法を教え、自社主催の野球大会を開催している。
こうした自店のコンセプトと共通したのが、現在インスタグラムで発信するブランドのグローブだった。
売り上げ30%粗利5%増
2015年15月、共感できるブランドを発信することで、自店のコンセプトを伝えようとインスタグラムを始めた。1カ月後には、投稿した写真を見て来店したお客が現れるようになった。
グローブの売り上げは前年同月比30%アップ、来店客数はそれ以上に増えたことになる。さらに、そうしたお客は安さを目当てに来店する客層ではないから、粗利益率も5%改善することとなった。
「インスタグラムでは写真のクオリティーが重要です。僕は写真を毎週1回、50~100枚程度を撮りためておき、その中からえりすぐりを1日1回投稿しています。コメントには、そのグローブを使ってほしい人をイメージして『ゴロの捕球が楽しくなります』といったように、使う人のメリットを記しています。これまでに約200枚の写真を投稿しましたが、続けるコツは写真撮影を楽しむことと、グローブの価値を伝えたいという気持ちです」(山本さん)
現在、同店のインスタグラムのフォロワーはおよそ1500人。その数を多いと見るか、少ないと見るか。しかし、そのほとんどが山本さんを「専門知識に富んだ頼れるグローブ職人」として信頼している。
「お客さんが私を頼りにしてくださって、売り上げも好調。商売が楽しくなりました」と山本さん。SNSが育てた〝人と人とのつながり〟が、山本さんの商売観を変えたようだ。
(笹井清範・『商業界』編集長)
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