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まちの視点 働く目的を共有化

ホールフーズ・マーケット店内に掲げられた経営理念

どの業界でも「人が足りない」といわれている。実際、ハローワークでの新規求人数と新規求職者数から算出される新規求人倍率は2倍を超え(4月現在)、人材の確保は非常に厳しい状況だ。 企業側は「人材が足りない」と言い、働く側は「働きたいが、自分に合う仕事がない」と言う。このミスマッチはなぜ起こるのか。

賃金以外の差別化が重要

求人広告会社であるアイデムの「人と仕事研究所」が発表している「パートタイマー白書」によると、働く側が仕事を探す際に「賃金額」を重視する人は8割に上る。しかし現在、最低賃金は東京で時給900円以上になるなど、賃金で差別化を図ることは難しくなっている。ならば、賃金以外でどのような差別化ができるかが重要になる。

例えばある飲食店チェーンでは、アルバイトをした学生に対して教育制度や就職紹介制度を設けている。また、アルバイトから優先的に正社員に登用する会社もある。これらの会社は、賃金以外の「働く利点」を打ち出しているわけだ。

さらに、「新規採用が難しいなら、今いる人を定着させよう」と考え、採用に充てる費用をスタッフ間の親睦会費にするところもある。みんなで楽しく働くという仲間意識を高め、定着させると同時に、人材を口コミなどの紹介で集めようという狙いがある。

さらに、何のために働くのかという意味を共有することの重要性も増している。人と仕事研究所の調査によると、非正規雇用者が勤務先の経営理念を知っているか否かによって愛社精神に違いがあるという。

勤務先の経営理念を「知っていて共感している」という回答が31・2%で、このうち7割以上の人が「愛社精神を持っている」と回答。一方、経営理念を「知らない」のは48・5%で、このうち6割以上が「愛社精神は持っていない」と答えている。

経営理念は従業員への宣言

このように、従業員のモチベーションと経営理念が密接に関連していることを示す企業がアメリカにある。世界最大のオーガニック・スーパー「ホールフーズ・マーケット」は現在、全米に400店舗超を展開。過去10年間を通じて売上高の伸び率の年間平均が約16%と、全米有数の成長率を誇る企業だ。その店舗には、必ず次の7つの経営理念(コア・バリュー)が掲げられている。

1.できる限り最高でナチュラルなオーガニック製品を売ること

2.顧客を満足させ喜ばせること

3.チームの仲間の幸せと活躍を応援すること

4.利益と成長を通して富を創造すること

5.地域社会と環境に注意を払うこと

6.取引先と継続的なウィン・ウィンの関係を築くこと

7.健康な食事に関する教育を通じて株主たちの健康を増進すること

3番目に「チームの仲間の幸せと活躍を応援すること」を掲げ、同社ではこの達成に向けて徹底した取り組みを行っている。各店舗は10前後の「チーム」により構成され、各チームに多大な権限と責任が委ねられている。各チームメンバーの貢献を重んじるオープンでフラットな文化でも知られ、商品やサービスに関する個人のアイデアが採択、実行され全店舗で導入されて数々のイノベーションを生んでいるのだ。

このように経営理念は顧客への約束であると同時に、従業員への働く目的の宣言である。時給相場に気をもむ前に、自らの経営理念を伝え、共感を得ることに取り組むべきといえるのではないか。

(笹井清範・『商業界』編集長)

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