日本商工会議所は2日、「中小企業における消費税の価格転嫁に係る実態調査(第1回)調査結果」を取りまとめ、公表した。
調査結果によると、消費税引き上げ分の転嫁状況は、約6割の事業者が全て「転嫁できている」と回答、「一部転嫁できている」事業者は26・8%となった。一方で、「全く転嫁できていない」事業者は約1割となっている。消費税率10%への引き上げについては、約4割の事業者が今後も全て転嫁できると見込む一方で、約3割の事業者が現時点では転嫁できるかどうか分からないと回答している。
調査は、今年4月の消費税率8%への引き上げについて、中小企業における価格転嫁の状況を把握するために、全国449商工会議所の3191事業者に商工会議所の経営指導員、職員がヒアリングを行ったもの(回収率84・8%)。調査期間は4月25~5月29日。日商では、今年の9月にも価格転嫁の実態調査を行い、調査結果をもとに、政府・政党への提言や平成27年10月の税率10%への引き上げを決定する際の議論で活用していく。
3分の2が「横ばい」「想定どおり」は6割
売上高への影響
消費税率引き上げの売上高(税抜き)への影響は、どの程度だったのだろうか。調査結果を見ると、「横ばい」(65・9%)が最も多く、約3分の2の企業が売上に大きな変化は見られなかった。一方で、「減少」は26・8%、「増加」は7・3%となっている。
消費税率引き上げ後の価格設定の在り方と売上高の増減の関係を見ると、「商品・サービス毎にメリハリをつけて、利益を確保できるよう価格設定を行っている」と回答した事業者に売上高が「増加」した企業が多い。逆に、「全ての商品・サービスを一律で3%引き上げられないので、一部は価格を据え置いている」、「全ての商品・サービスの価格を据え置いている」事業者の3割超は売上高が「減少」したと回答している。
消費増税前に想定していた売上高と実際の売上高を比べると、「想定どおり」との回答が最多で64・4%。「分からない」(19・6%9、「想定を下回った」(12・3%)、「想定を上回った」(7・7%)の順で多くなっている。
小規模ほど困難 飲食・宿泊は半数切る
転嫁の状況
税率引き上げ分の転嫁(事業全体の利益)の状況を見ると、「転嫁できている」は62・7%と6割を超えた。「一部転嫁できている(利益の一部が減少している)」(26・8%)まで合わせると、約9割(89・5%)を占めている。一方で、「全く転嫁できていない(消費税分(以上)の利益が減少している)」との回答は10・5%となっている。
転嫁状況を取引形態別に見ると、BtoB取引を行っている事業者では「転嫁できている」との回答が74・8%と約4分の3を占めた一方で、BtoC取引を行っている事業者では「転嫁できている」との回答は55・8%となっている。
規模別では、1億円超の事業者の74・2%が「転嫁できている」と回答している一方で、売上高1千万円以下の事業者は「転嫁できている」との回答が52・7%にとどまっている。売上規模が小さい企業ほど、「転嫁できていない」状況が浮き彫りになった。
業種別では、事業者間取引の多い業種ほど転嫁できているケースが多く、卸売業(75・9%)、建設業(74・1%)、製造業(72・0%)と7割を超えた。一方で消費者向けの飲食業、(48・2%)、宿泊サービス業(48・4%)では半数を切り、小売業(54・7%)でも平均を大きく下回った。売上高が「増加」と回答した事業者では、「転嫁できている」との回答が84・9%となっているのに対し、売上高が「減少」と回答している事業者では「転嫁できている」との回答は35・5%にとどまっている。
「今後もできる」は39% 3割が「わからない」
10%引き上げ時の対応
平成27年10月に予定されている税率10%への再引き上げ時の対応については、「現在、消費税引き上げ分を転嫁できており、今後も転嫁できる」(39・0%)が最多。「8%段階の販売状況や需要の反動減の状況が不明確なため、転嫁できるかどうかわからない」(30・8%)、「商品・サービスの価格設定を見直すことで消費税引き上げ分の一部は転嫁できる」(20・5%)、「現在、消費税引き上げ分を価格に上乗せできておらず、今後も転嫁できない」7・0%の順で多くなっている。
現在「転嫁できている」事業者の57・4%が「今後も転嫁できる」と回答した一方で、「全く転嫁できていない」事業者では「今後も転嫁できない」(32・6%)、「わからない」(38・2%)をあわせて7割超の事業者が税率10%引き上げ時の転嫁に懸念を示している。
商工会議所に相談33% 事務負担増が重荷に
有効な対策
調査では、有効と思われる転嫁対策についてもヒアリングしている。最も有効との回答が多かったのは、「商工会議所の経営相談・セミナーなど」で33・4%。
取引先などの転嫁拒否への対応については、「商工会議所の経営相談や窓口相談、専門家相談などを利用する」(52・1%)との回答が最多。続いて「取引先との関係を維持するため、自社の利益を圧縮するなどの経営努力で対応する」(22・2%)、「消費税の転嫁特別措置法等にもとづく対応を取ってもらえるように、取引先と交渉する」(22・2%)の順で多くなっている。
消費税引き上げ時の事務負担として最も回答が多かったのは、「値札付け替えや、カタログの価格表示変更に伴う負担」(39・6%)。続いて「請求書や領収書、納品書などの切り替えに伴う負担(4月1日をまたぐ書類の管理など)」(31・5%)、「複数の税率(5%と8%)を管理する経理処理に伴う負担(帳簿処理、適用税率の確認など)」(26・6%)の順で回答が多い。
「経済対策」が最多 「資金繰り支援」は32%
政府への要望
消費税率引き上げに当たって、政府に対して要望したいことについての設問では、「景気浮揚のための経済対策予算の策定」(38・9%)で最多。続いて「政府による消費者向け広報の徹底」(33・7%)、「資金繰りなど金融支援の強化」(32・6%)、「中小法人の軽減税率を含む法人税の引き下げなど、中長期的な経済成長促進のための施策」(22・1%)、「対消費者向け表示方式における外税表示の恒久化」(14・3%)の順で多くなっている。
「一律引き上げ」49% 業種で対応分かれる
価格設定
消費税率引き上げに伴い、商品、サービスの価格設定についての設問では、「全ての商品・サービスの価格を一律で3%引き上げている」との回答が最も多く49・5%。「商品・サービス毎にメリハリをつけて、利益を確保できるよう価格設定を行っている」(13・6%)と合わせて63・1%の企業が価格を引き上げている。
一方で、「全ての商品・サービスを一律で3%引き上げられないので、一部は価格を据え置いている」(22・5%)、「全ての商品・サービスの価格を据え置いている」(14・4%)との回答は36・9%となっている。
BtoB事業者は「一律に引き上げている」との回答が最も多く、67・7%を占める。一方で、BtoC事業者では「一律に引き上げている」との回答は38・9%にとどまっている。
売上規模に応じても対応に差が出ている。売上高5千万円超の事業者の約7割が「価格を一律で3%引き上げている」と回答しており、「商品・サービス毎にメリハリをつけて、利益を確保できるよう価格設定を行っている」と合わせて約8割が転嫁可能な価格設定を実施しているのに対し、売上高1千万円以下の事業者では、約5割にとどまる。「全ての商品・サービスの価格を据え置いている」との回答が27・5%を占めており、売上高が低い事業者ほど一律で価格を引き上げられない結果となった。
業種ごとに価格設定に対する手法は大きく異なる。運輸業、法人向けサービス業では7割以上の事業者が「全ての商品・サービスの価格を一律で3%引き上げている」と回答。一方で、小売業、飲食業、宿泊業などのBtoC取引の多い業種では一律の引き上げの回答割合が低く、とりわけ、飲食業では約4分の1(24・2%)にとどまっている。
税率引き上げに伴う新価格の設定に当たり、留意した点などについては、「外税取引や税抜き表示なので、本体価格に消費税分を上乗せして取引先に請求できるため」(41・5%)が最も回答が多かった。次に「顧客や消費者が価格に敏感なため」(34・8%)、「競合相手や、同業他社、近隣店舗の状況の動向を確認しているため」(17・5%)の順で多くなっている。
売り上げ規模でも対応が異なる。「顧客や消費者が価格に敏感なため」との回答は売上高が少ない事業者ほど多く、売上高1千万円以下では44・5%。同様にBtoC取引を行っている事業者でも「顧客や消費者が価格に敏感なため」との回答が最も多く、46・5%を占めた。価格に敏感な消費者向けのサービスを提供している売上の少ない企業ほど価格転嫁に慎重な結果となっている。
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