第123回通常会員総会 三村会頭あいさつ

あいさつする三村会頭

本日は、日本商工会議所第123回通常会員総会を、安倍内閣総理大臣、星野経済産業大臣政務官、また、全国各地の商工会議所から、多数の皆さまにご出席いただき、盛大に開催することができ、誠にありがとうございます。

3月8日に昨年10―12月期のGDP2次速報値が、年率換算でマイナス1.1%と発表されました。わが国経済は、これまで大企業を中心に業績改善が進んできましたが、足元では新興国経済の減速や個人消費の鈍さなどから、足踏み状況にあるといえます。

また、今年に入ってからは、中国をはじめ日米欧の株価が大きく下がり、為替レートも大きく変動するなど、金融市場が荒れた展開となっています。日経平均株価も大きく上げ下げを繰り返す不安定な状況となり、金融ボラティリティーは極めて高くなっています。

本来、金融は実体経済を支える補助的手段であるはずですが、今は、実体経済が金融に振り回されており、そのことが経営者のマインドを不安定にさせ、経済に悪影響を及ぼしているといえます。

このように、金融市場の不安定な動きに目を奪われがちではありますが、世界経済全体を冷静に見渡すと、大きな構造転換が進んでいます。

まず、世界経済のリード役が、新興国から米国をはじめとする先進国に移行しました。昨年末に9年半ぶりに利上げを行った米国経済は引き続き堅調であり、EUも総じてみれば緩やかに回復しています。一方、インドを除くBRICS諸国は主に国内要因により、マイナス成長もしくは成長率を減少させています。

そして、何よりも、新興国経済の減速の主要部分を占めている中国経済が、10%の高成長から6%台の中成長への移行を果たす中で、軟着陸となるか、ハードランディングとなるかは、依然として大きなリスク要因といえます。

今月、全人代で、過剰設備の解消や利益を出せない国有企業の淘汰(とうた)といった「供給サイドの改革」に関し、強い決意が表明されました。中国経済が中成長へと円滑に移行していくことは、日本経済のみならず世界経済全体の安定化につながるものであり、その実現を強く期待したいと思います。

さらに、中東などにおいてさまざまな地政学的リスクが顕在化し、その多くは解決の方向性すら見えません。2016年は、第二次世界大戦以来経験のないほど多くの国内紛争、国家間紛争、国家という枠組みを超えた紛争が頻発するともいわれています。

われわれは、こうした不安定さは当分続くと覚悟せざるを得ず、時として金融市場を大きく動揺させる所与の条件として受け入れていかなければなりません。

他方、国内経済においては、構造改革が進み、長く企業経営の足かせとなっていた六重苦が解消または解消の方向に向かってきました。為替は超円高が是正されましたし、法人実効税率は20%台に引き下げられることとなりました。電力コストについては高浜原発が停止したものの、現在2基の原発が稼働しており、今後、稼働基数の増加と電力料金の値下げを期待したいと思います。

さらに、大型かつ高度な通商協定であるTPPが参加12カ国で署名され、2年後には8億人のマーケットに対して、ほぼ国内マーケット並みにアクセスできるようになります。また、温暖化対策もCOP21パリ協定が採択されて、わが国のみが高い環境対策コストを負担することが回避できるようになりました。

このように、企業活動をめぐる環境は整いつつありますので、次はいよいよ企業経営者自らがデフレマインドから脱却し、積極的な経営姿勢に転じていく番であります。ただし、そのために、さらに乗り越えなければならない課題があります。「強い経済」を実現するために、各地域において、克服すべき三点の課題について、申し述べます。

価格転嫁問題の克服を

その第一は、「中小・中堅企業の成長・発展に向けた後押し」であります。法人企業統計を見ると、中小企業の設備投資は4期連続で前年同期比プラスとなり、しかも、その伸びは大企業よりも大きくなっています。例えば、昨年10月~12月期の実績では、大企業が前年同月比プラス3.5%の伸びであったのに対し、中小企業はプラス17・8%もの伸びとなっています。

しかし、残念ながら、こうした前向きな投資主体としての動きは、金融不安もあり、いまだ一部にとどまっており、全体の投資動向は依然として力強い動きとはなっておりません。賃上げについても、50%以上の中小企業が実行していますが、業績がよいからというよりは、人材確保のための防衛的な側面が大きいのが実態です。

このように、中小企業は設備投資や賃上げに取り組んできていますが、こうした動きをより加速するために克服しなければならないのが、「価格転嫁の問題」です。不公正な取引に対しては、独禁法などの厳格な運用が必要なのは当然でありますし、政府にはさまざまな支援をお願いしていますが、本質的には、取引価格の交渉は民間企業同士の問題です。従って、中小企業自身が競争力強化に取り組むことが重要となります。TPPを活用した海外展開、付加価値の高い製品開発や販路開拓、知的財産の戦略的活用などに取り組むことが必要であります。また、創業や事業承継、さらには消費税の軽減税率への対応やICTの活用による生産性の向上といった新たな課題も克服していかなければなりません。

商工会議所として、国や地方自治体に対し粘り強く要請するとともに、相談・教育支援機能の強化、小規模事業者への伴走型経営支援などに全力で取り組んでいかなければなりません。

観光と農商工連携が切り札

第二は、「地方創生の推進」であります。すでに多くの地域で「地方版総合戦略」が策定され、地域の生き残りをかけた取り組みがスタートしています。地方創生は商工会議所の本来の重点活動対象であり、切り札となる観光振興や農商工連携に積極的に取り組んでいかなければなりません。

観光については、昨年の訪日外国人客数が1974万人と大幅に増加しました。しかし内訳をみると、7割が中国、韓国など東アジアからの旅行者であり、また、訪問地も東京・関西のいわゆるゴールデンルートに集中しているのが実態です。インバウンドを安定的に確保し、地方創生につなげていくために、各地域における一層の観光資源の磨き上げが必要であります。

各地の商工会議所では、例えば、松江、安来、出雲、米子、境港での県境を越えた観光プロモーションの展開、足利、水戸、備前、日田と、隣接していない地域同士が連携して「近代日本の教育遺産群」をキーワードに世界遺産登録を目指すなど、多様な取り組みが始まっており、こうした活動を一層加速していかなければなりません。

日本商工会議所としても、全国の多様な取り組みと手法を広く普及させるとともに、共同展示商談会の開催などにより、販路開拓を積極的に支援してまいります。また、間もなく北海道新幹線が開業しますが、高速鉄道や地方空港、高速道路など、真に必要な交通インフラの整備を加速することも必要と考えます。

農林水産業については、商工会議所へ加入している農協が約250、林業団体が約130、水産業団体が約150と、この1年で2割増加しています。関係者が連携して創意と工夫を凝らせば、農林水産業は地域の中核産業として力を発揮できるポテンシャルがあります。すでに各地の商工会議所では、農商工連携による新商品開発や販路拡大などで大きな成果を挙げている事例も出てきておりますので、今後とも、意欲ある農家、農協や関係団体などとの連携を強化・拡大していくことが必要です。

第三の課題は「人手不足の克服」です。人口動態の変化から労働者数を推計すると、わが国の労働者数は2020年には2014年比で約280万人減少し、2025年にはこれが460万人に拡大します。

この問題に対処するためには、労働者数の増加・労働参加率を上昇させることが必要です。働く意思を持っていても就業できていない女性や高齢者は合わせて約500万人いるとされていますので、労働規制の柔軟化や働きやすい税・社会保障制度の導入を進めるとともに、専門性や知見に見合った仕事とのマッチングを図ることが重要となります。同時に、ロボット化・省力化などの設備投資や人材育成を通じて、労働生産性の向上に取り組んでいかなければなりません。

人口減少への対応を急げ

当面の人手不足については、こうした対応が必要となりますが、根本的には「人口減少」への対応が急務であります。政府は「50年後の人口1億人維持」「希望出生率1・8」という国家目標を設定しましたが、その実現には、あらゆる施策を総動員し、2020年までに人口減少トレンドを変えなければなりません。そのためには、社会保障給付の重点化・効率化などによって成長の果実の分配だけでなく、社会保障費の削減など負の分配も同時に実現し、施策の実行に必要な恒久財源を確保するとともに、高齢者から現役世代への支援にシフトさせることが必要であります。

また、各世代が就業者として力を発揮するためには、健康であることが大前提となります。企業が従業員の健康管理をコストとして捉えるのではなく、生産性の向上や社員の幸福に大きく寄与する経営戦略として捉える「健康経営」の普及にも取り組んでいかなければなりません。私の参加している日本健康会議では、健康宣言などに取り組む企業を1万社以上とすることを目標としています。できるだけ多くの会員の皆さまにもご参加いただきたいと思います。

以上、三点を申し述べましたが、震災復興と福島再生も、われわれが今後も継続的に取り組まなければならない重要な課題です。東日本大震災から5年が経過し、被災地全体でみれば、復旧・復興は進んでいるものの、時間の経過に伴い地域間や業種間で復興の状況に大きな差が生じていますので、従来以上に、現場の実情に即したきめ細かな支援が必要になります。

また、福島県においては、今なお深刻な状況に直面しており、除染・汚染水処理の促進や、根強い風評被害の払しょくに、引き続き国の強力な支援が不可欠であります。

今後の大きな課題は販路の回復・開拓です。日本商工会議所では、バイヤーの派遣や首都圏における展示販売機会の確保により販路獲得を強力に支援するとともに、東北地方への訪問者拡大を推進してまいります。各地商工会議所におかれましても、引き続きのご支援をよろしくお願いいたします。

最後に、2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会について申し述べます。2020年の大会は、地域資源・文化資源の活用や事前キャンプ誘致などを通じた地域活性化の絶好の機会です。東京一極集中の是正が求められる中、各地域に大きな波及効果がなければ成功とはいえません。

日本商工会議所では、オリンピック・パラリンピック開催への気運醸成と、大会を契機としたインバウンドの地方誘客や地域産品の活用による、全国的な経済活性化、被災地域の復興を強く働き掛けてまいります。

以上、所信の一端を申し述べました。先行きの不透明感を払しょくし、成長に向けて前進していくことができるかは、われわれ自身にかかっています。間もなくスタートする平成28年度においても、日本商工会議所は、全国の商工会議所の皆様方とともに、商工会議所のネットワークを最大限活用して、目の前の諸課題を乗り越えていきたいと思います。多大なるご支援、ご協力をお願いして私のあいさつとします。

(3月17日)