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経済産業省 2020年版通商白書(概要)  強靭かつ柔軟な社会へ 国際協調、デジタル化が鍵

新型コロナウイルスの感染拡大により世界経済は、大恐慌以来の経済危機に直面していると説明した今回の白書。この苦境を乗り越えるためには、国際協調をベースとしつつ、危機に柔軟に対応でき、持続可能な経済発展を可能とする強靭(きょうじん)な経済社会システムを築くことが重要であるとしている。特集では、同白書の概要を抜粋して紹介する。

1.コロナショックで激変した世界経済

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2.コロナショックが明らかにした世界の構造

(1)コロナショックにおいて発生したサプライチェーンの寸断

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(2)サプライチェーンの特性とコロナショックの影響(自動車、IT製品、医療用品、食糧・食品)

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(3)生産体制から見たサプライチェーンとコロナショックの影響

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(4)物流と人の移動から見たサプライチェーンとコロナショックの影響

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(5)国際的な輸入先・生産拠点の集中度

〇グローバリゼーションが進展する中で、世界的に一部の財の生産拠点の集中度の高まりが見られる。

〇例えば、電気機械・電子部品は、世界的に集中度が上昇。一方で、自動車部品は世界的に集中度が低下傾向にある。ただし、近年、中国やメキシコが存在感を増す中で、日本や米国では輸入先の集中度は上昇。

(6)中国に立地する日系企業の調達活動

〇輸送機械および情報通信機械の2業種は、突出して日系企業の海外生産比率が高く、中国現地法人の売り上げ規模も大きい。両業種とも、多くの中間財供給業者が現地に進出し、サプライチェーンに組み込まれている。

〇輸送機械は、現地調達の割合が高く、情報通信機械については、日本の親会社からの調達割合が高い。

(7)地域統合におけるサプライチェーン

〇これまでは、地域統合によって、サプライチェーンの構築、国際分業を発展させてきた。各地域の総輸入における域内割合は常に一定程度の割合を占めている。

〇他方、地域の貿易ネットワークについては財の性質によって違いが見られる。電気機械、電子部品においてはアジア(中国)からの輸入が増加している。一方、自動車部品においては、EU、NAFTA、アジアの各地域内で現地生産が進展する中、域内の輸入比率が高水準を維持しており、地域統合が域内サプライチェーン・ネットワークを強化。

(8)サプライチェーンにおける物流の役割

〇強靭なサプライチェーンの構築には、生産拠点間を円滑につなぐ安定的な物流ネットワークの維持や緊急時の代替輸送経路の確保が重要な課題。

〇海上輸送、航空輸送、陸上輸送は補完性と代替性を有する一方、異なる役割を担う物流経路であり、財の特徴に応じた輸送手段の使い分けが必要。

(9)国境を越える人の移動と貿易・投資

〇国境を越えた人の移動は、貿易・投資を活性化。特に新興国・途上国において、国境を越えた人の移動と貿易・投資活動の連動が顕著だ。

〇新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために国境を越える人の移動が制限されたことに伴って、近年低下傾向にあった貿易コストが増加。貿易や投資が大幅に停滞している。

(10)都市への人の集積と都市における感染拡大

〇国境を越えて人が移動することで、都市に人が集積。多様な知が交わることにより、イノベーションの創造や生産性の向上につながってきた。

〇都市ではサービス業が発展し、対面での交流を重視する産業が集積してきたが、新型コロナウイルスは、人口密度が高い都市部において感染が拡大している。フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションのコストが上昇。

(11)緊急時における自国優先策

〇感染防止のためのマスク、防護服などの需要が爆発的に増加し、医療関連物資の不足が各地で深刻化している。輸出制限などの動きも拡大。

〇安定的な供給の確保のためには、危機への備えや緊急時の国際協調が重要。輸出国が、特定国に集中する状況下での輸出制限は、自国・自地域での財の入手をかえって困難にする可能性もある。(輸出制限のパラドックス)。

(12)デジタル経済の拡大とコロナショック

〇コロナショック以降、電子商取引やデジタルを活用したコミュニケーションの普及など、経済・社会のデジタル化が急速に加速。

〇新型コロナウイルス感染抑止のための人の接触制限は、デジタル化の重要性を明らかに。

(13)デジタル経済の拡大とITプラットフォーマーの存在感の高まり

〇近年、経済社会のデジタル化が進み、越境電子商取引などのデジタル貿易の拡大や社会のIT化が加速。世界のデータ流通は、経済規模と比較しても高速で増加している。

〇産業のデジタル化に伴い、従来のバリューチェーン型からレイヤー構造化への変化が進展。ネットワーク効果も寄与し、プラットフォーマー企業の存在感が増加している。米国のプラットフォーマーの純利益は10年間で約5倍に拡大(シェアは6%から13%に)。

(14)コロナショックと新興国リスク、ドル、サプライチェーン

〇資源や観光に経済を依存し、ドル債務を抱える新興・途上国に経済的リスクが集中している。新興・途上国からの資本流出が見られ、ドルへの集中のリスクが顕在化。

〇アジア新興国はドル信用を拡大させており、裾野の広いサプライチェーンを構築。そのため、ドルへのリスクが拡大する中で、資金の支払いに滞りが生じるような場合には、結果としてサプライチェーンの停滞につながる恐れがある。

3.グローバリゼーションの過去・現在・未来

(図1)オンラインコミュニケーションツール(TeamsおよびZoom)の利用状況

(1)グローバリゼーションによる世界経済の発展

(2-1)グローバリゼーションの過去・現在・未来:第1のアンバンドリング(省略)

(2-2)グローバリゼーションの過去・現在・未来:第2のアンバンドリング

〇第2のアンバンドリングは、1990年頃のICT(情報通信)革命を背景に、アイデア(技術・データなど)の移動コストが低下し、生産プロセスが分離されたことを指す。この結果、部品の国際貿易が拡大し、グローバル・サプライチェーンが発展。

(2-3)グローバリゼーションの過去・現在・未来:第3のアンバンドリング

〇第3のアンバンドリングは、2015年頃よりデジタル技術の進展が加速したことを背景に、国境を越えたバーチャルな人の移動が可能となり、個人単位での「タスク」の分離が可能に。世界規模でのバーチャルワークが実現しつつある。

〇コロナショックは、世界が第3のアンバンドリングへの移行中に発生。オンラインコミュニケーションを急速に普及させており、この流れを加速する可能性がある。(図1)

(3)日本にとってのグローバリゼーション

〇日本は第2アンバンドリングの国際分業の中で、東アジアを中心に国際的なサプライチェーンの構築に貢献。

従来は、他国に対して高品質な部品やサービスの供給をする側であったが、近年は新興・途上国からの安価な部品調達と国内における高い技術力を組み合わせ、高付加価値製品を供給するビジネスモデルへの転換も。

〇近年は、第一次所得収支(証券投資収益、配当など)が日本の経常黒字を支え、「稼ぎ方」が変化している。経済連携協定網も相まって、アジアを中心としたサプライチェーン・ネットワーク構築と対外直接投資が拡大。(「貿易立国」から「投資立国」への転換)

(4)世界における第3のアンバンドリングへの移行と産業変革

〇第3のアンバンドリングにより、新しい産業変革が進行中。その変革には、5GやAIのように社会基盤を支えるインフラが重要であり、世界では国を挙げてのAI戦略の策定など環境整備や、欧州のGDPR(一般データ保護規則)など、デジタル関連の制度整備も進められている。

〇そして、コロナショックを機に中国政府は新インフラ建設の加速を表明するなど、世界はさらにデジタル化。

(5)第3のアンバンドリングに向けた日本の課題

〇日本では、ICT活用能力は高水準にある一方、日本はデジタルも含めた無形資産の投資・活用に課題。

〇制度面での環境整備も重要であり、19年のG20サミット以降、データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト(DFFT)を実現するべく、データ流通の国際的なルールメーキングに取り組んでいる。また、イノベーションの促進と社会的価値の実現を両立するガバナンスイノベーションも重要。

〇コロナショックという危機を、今後ますます重要なものとなるデジタルの活用の機会とすることが重要。

(6)コロナショックを契機とした技術革新と社会実装(コロナテック)

〇さらに、感染拡大防止に向けた個人の行動追跡や、オンライン商談といった人同士の接触を避けながらも事業継続を図るコミュニケーション方策といったデジタル活用ニーズが増加し、技術革新とその社会実装が進展。

〇また、感染拡大防止に向けた感染者や接触者の情報を把握するアプリなどの導入も進むが、プライバシーへの配慮と公衆衛生の両立という課題について各国で議論が起こっている。

4.目指すべき社会を実現するための世界とわが国の方向性

(図2)コロナショックの教訓

(1)今後のグローバリゼーションの潮流

〇2000年代以降のグローバリゼーションは、ヒト・モノ・カネ・データが国境を越えて移動・流通(交流)して付加価値を生み出し、世界経済の発展の大きな原動力に。

〇コロナショックは第3のアンバンドリング・デジタル化の渦中に発生した。物理的な移動への制約によって人同士の対面でのコミュニケーションに制約がかかり、サプライチェーンの見直しが進む中で、国境を越えた「交流」による「付加価値」の追求は、デジタル分野に重心を移動。

(2)コロナショックの教訓を踏まえたあるべき経済社会への進化

〇コロナショックの教訓を踏まえ、危機により顕在化したリスクや経済社会の変化の方向性を見定めながら、現下の危機を克服しつつ、あるべき経済社会システムへの進化を目指すべき。(図2)

(3)グローバリゼーションのアップグレード

〇パンデミックは世界規模の課題解決における国際協調の重要性を示すもの。足元の危機克服、自国優先的傾向の固定化の抑止、世界規模の課題解決に向けて、国際協調をさらに強化していくべき。

〇コロナショック以前から顕在化していた傾向とも相まって、コロナショックへの対応をめぐり国際協調に「遠心力」が働きがちな状況にある一方、首脳・閣僚レベルで、国際協調の求心力維持に向けた動きもなされている。

(4)世界の持続可能な発展に貢献する社会的投資(SDGs)

〇パンデミックや環境問題のように地球規模の新たな危機やリスク要因に対処し、持続可能な発展に貢献するには、社会的投資を進めていくことが必要。

〇SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の実現に向け、国家、企業、NGO、個人などの多様な主体が連携し、積極的な投資を行っていくべき。

(5)強靭なサプライチェーンの構築に向けて:サプライチェーンの精緻な把握

〇サプライチェーンの経済性・効率性と供給途絶リスクへの対応力のバランスを踏まえ、強靭なサプライチェーンのネットワークを構築するには、サプライチェーンを精緻に把握することが出発点に。

〇サプライチェーンのネットワークは生産拠点や各国の比較優位の推移などに伴って変化。また、財の性質においても位置付けが異なり、全体としては中国の存在感の高まりが見られるものの、ICT財は、日本はアジアの中で相互のネットワークを構築している。

(6)強靭なサプライチェーンの構築に向けて:調達の多様化、在庫

〇リーン生産の普及に伴い製造業全般が在庫を保有しない傾向が強まっていたが、業種により在庫水準に違い。

〇調達の多様化や在庫の適正な確保も強靭なサプライチェーンの構築に向けた有効な戦略。「グローカル成長戦略」による調達の多様化・リスク分散も効果的だ。

〇これまでの自然災害においても調達の多様化や在庫確保といった動きが見られたが、コロナショックは世界規模で発生。デジタル活用も含めてこれまでの対応を上回る対策の必要性が明らかに。

(7)物資の類型に応じたグローバルサプライチェーンの見直し

〇今次の危機の経験・反省を踏まえ、新たな危機にも柔軟に対応できる強靱(レジリエント)なサプライチェーンへの変革が不可避。

〇製品の用途や性質に応じてボトルネックとなる事態を想定し、その解消のためにどのような措置を講じるのか、製品の類型ごとに精緻な議論が求められる。

(8)経済社会のデジタル化の加速と人の交流の在り方の進化

〇コロナショックの中でデジタル化の加速が見られるが、人と人の接触の制限の影響には業種により差異。感染予防のための対面接触の制限や第3のアンバンドリングの流れにより、社会生活における不可逆的な変化が起こり、産業構造が大変容する可能性がある。

〇また、人の交流が生み出してきた付加価値は状況に応じて形を変えつつも、引き続き追求していくべきもの。技術を活用して人の交流の在り方を進化させるとともに、各国においても必要不可欠な人材から、検疫措置を取った上での往来再開を認める議論を早急に進めていく必要がある。

〇デジタル化の加速・越境電子商取引の拡大の中で、地方の中堅・中小企業のビジネスチャンス拡大の視点としても「グローカル成長戦略」が重要に。

(9)世界のデジタル化の加速における新興国との共創を通じた新事業の創出

〇コロナショックに直面する中で、ASEANなど新興国はデジタル技術を課題解決に活用する動き。感染経路追跡アプリを民間事業者と協力して開発するなど、一足飛びのデジタル化が加速する。

〇日本としても、アジア新興国へ資金・人材・技術・ノウハウを戦略的に投入し、新興国企業との連携による新事業創出を図る「アジア・デジタルトランスフォーメーション」を推進することで、世界の持続的な発展に貢献するとともに、日本自体の改革につなげることが求められる。