このコーナーでは、下請取引に関する「かけこみ寺」に相談があった事例を参考に、中小企業の取引上のトラブルや疑問点の解決の基本的な考え方や留意点を解説します。今回は「下請代金支払遅延等防止法(下請法)関係」の「不当な値引き要求」についての相談事例をご紹介します
発注書面など保存の必要あり
Q. A社は(資本金1000万円)、コンピュータシステムのメンテナンスなどを行っていますが、同業者であるB社(資本金3億円超)から受注したソフトウエアの設計の作業費用約500万円が未収となっています。B社からの値引き要求に対して、A社が断ったことから、下請代金を支払わないといっています。なお、発注書面はなく、代金は見積書を提出して口頭による合意で決定されています。A社として、どのように対応すればよいのでしょうか。
A. A社とB社の取引は、取引の内容としての「情報成果物作成委託」に該当し、B社の資本金は3億円を超え、A社の資本金3億円以下(1000万円)であるため、下請法の資本金基準(3億円基準)を満たしており、下請法が適用されます。B社の行為は、発注を行った際、交付すべき発注書面がないことから、下請法の「書面の交付義務」(法3条)違反であるとともに、注文してからA社の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず代金の値引きを要請し、A社が断ったことを理由にまだ代金を支払っていないことから、下請法の「支払遅延」(法4条1項2号)に違反する恐れがあります。 もし、B社がこのまま一方的に値引きして下請代金を支払った場合は、下請法の「減額の禁止」(法4条1項3号)にも触れることになります。B社に対して、下請代金の未払いは、下請法に違反する恐れがあることを伝えたうえで、代金支払いの交渉をしてはいかがでしょうか。
<留意点>B社が下請法を遵守せず、発注書面を交付しない点が本件の根本原因です。A社としては、B社に対して発注書面の交付を申し出ることが必要です。しかし、それでもB社が発注書面を交付しない場合は、下請かけこみ寺に相談してください。A社としては、後に発注内容を明らかにするため、念のため発注書面に代わる仕様書や納期、代金、支払期日などが記載されている書面、メール、ファックスなどのやり取りを証拠化して残しておく必要があります。
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