「今年は小規模企業振興元年」―。9月18日に行われた日本商工会議所の第120回通常会員総会であいさつした小渕優子経済産業大臣は、力強く宣言し、日商の三村明夫会頭も「これを機に、商工会議所は、地域における小規模事業者支援の中核的拠点として、さらに取り組みを強化する」と述べ、「地域に根差した小規模企業の下支えは商工会議所の重要な役割である」との考えを示した。
今年6月に成立した小規模企業関連2法【小規模企業振興基本法(以下基本法)・商工会及び商工会議所による小規模事業者の支援に関する法律の一部を改正する法律(以下改正支援法)】のうち、小規模企業振興基本法は成立とともに施行され、今月3日、基本法に基づく国の「小規模企業振興基本計画」が閣議決定。4つの目標と10の重点施策が示された。
また、基本法に合わせて商工会議所などによる小規模事業者の支援のあり方を示す改正支援法は9月26日に施行。商工会議所などが行う、小規模事業者の事業計画策定・実行支援(経営分析、市場分析、事業計画策定、販路開拓など)を「経営発達支援事業」として位置づけ、商工会議所が策定した同事業に関する計画(経営発達支援計画)を経済産業大臣が認定する制度が新設されている。
さらに、経済の好循環を全国に波及させるため、「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律等の一部を改正する法律案(中小企業需要創生法案)」も閣議決定。同法案は臨時国会に提出される見込みだ。
特集では、改正支援法に基づく基本指針における小規模事業者支援の概要と新たな認定制度とともに、基本法に基づく「基本計画」の概要、中小企業需要創生法案の概要についてそれぞれ紹介する。
支援計画を経産大臣が認定
先月26日に改正支援法が施行され、今月3日には、基本法に基づく基本計画が閣議決定された。改正支援法では、人口減少・高齢化・海外との競争の激化など、わが国経済が構造的変化に直面する中で、地域で雇用を支え、新たな需要にきめ細かく対応できる小規模企業の振興に向け、国、地方公共団体、支援機関など、さまざまな関係者の行動を促す仕組みを構築するため、小規模事業者が、地域で経営を持続的に行うためのビジネスモデルの再構築を、地域ぐるみで支援する体制を整備した。
改正支援法では、商工会議所などが小規模事業者に対して行う支援について、これまでの「記帳指導」や「税務指導」中心の支援だけでなく、「経営計画の策定・実施」や「新たな販路開拓」などの「伴走型支援」の充実が求められている。
具体的には、「伴走型の事業計画策定・実施支援のための体制整備」に向け、商工会議所などが行う、小規模事業者の事業計画策定や実施支援(経営分析、市場調査、事業計画策定、販路開拓など)を「経営発達支援事業」として位置づけ、重点的に推進。同事業について、商工会議所などに対する経済産業大臣による認定制度が新設された。
経産大臣の認定を受けるためには、商工会議所などが、「小規模事業者の事業計画策定・実行」の支援に向けて、目標、支援内容、実施体制などを記載した計画(経営発達支援計画)を策定し、議員総会または常議員会で決議し、経産省に提出。経産省の審査を経て、大臣が当該計画を認定・公表する。広域連携事業も対象となる。複数の商工会議所などが共同で計画を作成し、認定を受けることも可能だ。
さらに、改正支援法では「商工会議所などを中核とした連携の促進」に向け、他の機関(金融機関、農協、NPOなど)との連携を促進し、地域ぐるみで小規模事業者を面的に支援することなども盛り込まれた。
小規模対策予算は26年比2・3倍に
中小企業庁では、平成27年度概算要求で小規模事業者対策予算を26年度比2・3倍に上積み。地域の小規模事業者の最も身近で中核的な支援機関である商工会議所に期待を寄せる。
日商では、「経営発達支援事業」のモデルとなる取り組み事例を随時紹介。各地商工会議所で活発化している小規模事業者向け支援事業の推進に力を入れていく。
小規模企業振興基本計画の概要
小規模企業振興基本法(抄)
第十三条 政府は、小規模企業の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、小規模企業振興基本計画(以下「基本計画」という。)を定めなければならない。
2 基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 小規模企業の振興に関する施策についての基本的な方針
二 小規模企業の振興に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
三 前二号に掲げるもののほか、小規模企業の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
はじめに
基本計画を実効あるものとして総合的に展開していくため、以下の措置を講じる。
・関係省庁、地方公共団体、支援機関などがそれぞれ4つの目標の達成状況を把握する。
・毎年度、講じた施策・講じようとする施策などについて、年次報告(小規模企業白書)により、広く公表する。
・施策の効果を検証し、見直しを図るPDCAサイクルを構築し、5年間の計画期間において、毎年度実践していく。
現状認識と基本的考え方
・人口減少、高齢化、国内外の競争の激化、地域経済の低迷などの構造変化の進展
↓このような変化の中、事業を維持するだけでも大変な努力が必要
↓「成長発展」のみならず、「事業の持続的発展」を原則とした政策体系の必要性
4つの目標
1.需要を見据えた経営の促進=顔の見える信頼関係をより積極的に活用した需要の創造・掘り起こし
2.新陳代謝の促進=多様な人材・新たな人材の活用による事業の展開・創出
3.地域経済に資する事業活動の推進=地域のブランド化・にぎわいの創出
4.地域ぐるみで総力を挙げた支援体制の整備=事業者の課題を自らの課題と捉えたきめ細かな対応
10の重点施策
1.需要を見据えた経営の促進
⑴ビジネスプランなどに基づく経営の促進
・明確なビジョンに基づいたビジネスプランなどに基づく経営を促進。
⑵需要開拓に向けた支援
・商談会・展示会・即売会開催、アンテナショップなど拠点の整備やネット販売などITの活用を促進し、国内外の需要開拓を促進。
・小規模企業の政府調達参入を促進。
⑶新事業展開や高付加価値化の支援
・需要を見据えた新たな商品・サービスの開発など、新たなアイデア・技術の事業化などの取り組みや、第二創業などの挑戦的な取り組みを促進。
2.新陳代謝の促進
⑷起業・創業支援
・産業競争力強化法に基づく創業支援体制を整備し、女性・若者・シニアなどの起業・創業を促進。
・中長期的な観点から、起業・創業を応援する社会づくり、起業・創業に関する教育や先輩経営者の実例を学ぶ機会の提供。
⑸事業承継・円滑な事業廃止
・事業承継に関する制度の整備・活用、小規模企業と事業引継ぎを希望する者とのマッチングや、人材育成を促進、新たな事業展開に挑戦する後継者への支援。
・小規模企業共済制度の整備・活用、経営者保証に関するガイドラインを踏まえた融資の促進、円滑な廃業・事業承継・再チャレンジに向けた環境整備。
⑹人材の確保・育成
・中小企業大学校やインターネットなどを活用し、小規模企業経営者および従業員の知識、技能、管理能力向上を図る研修を推進。
・小規模企業の魅力発信、女性・若者・シニアなど多様な人材と小規模企業との相互的なマッチングに向けた環境整備。
3.地域経済活性化に資する事業活動の推進
⑺地域経済に波及効果のある事業の推進
・地域における魅力の面的・横断的な掘り起こし、創造および地域内外への浸透、消費者ニーズも踏まえた地域全体の活性化。
⑻地域のコミュニティを支える事業の推進
・小規模企業に加え、行政機関(都道府県・市区町村)、商工会・商工会議所・中小企業団体中央会・商店街振興組合連合会などの既存の支援機関、認定支援機関、金融機関、農家、地場産業、旅館、NPO、医療機関、住民などの主体が一体となって地域全体で課題やニーズに対応し、コミュニティを支えるような取り組みを実施。
4.地域ぐるみで総力を挙げた支援体制の整備
⑼支援体制の整備
①支援機関など
・支援機関などが支援目標の設定を行うことを推奨。支援機関全体のレベルアップ、各支援機関同士の広域連携を強化。
・高度で専門性の高い経営課題について、「よろず支援拠点」の知見を活用した支援および独立行政法人中小企業基盤整備機構による各拠点の統括・サポートなどを通じた支援体制の補強。
②国・地方公共団体・関係省庁が緊密に連携し、地方公共団体ともよく連携しながら、施策を効果的に展開。
・ミラサポの「施策マップ」に関係省庁および都道府県・市区町村の施策情報を共有。
⑽手続きの簡素化・施策情報の提供
・小規模企業の施策活用を促進するため、必要な手続き(申請や確定検査における書類など)の簡素化・合理化を推進。
・インターネット(動画含む)、マスメディア、地方公共団体および支援機関の広報などの手法を活用し、分かりやすく積極的に情報を提供。
小規模企業の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
1.小企業者などへの配慮=小企業者の円滑かつ着実な事業運営のため、きめ細かな支援を行うべく、特段の配慮を払う。
2.東日本大震災からの復興などに向けた施策=復興の段階に応じた支援の継続。被災地における地域経済全体の復興・再生を推進する。
3.消費税転嫁をはじめとした取引適正化への対応=小規模企業が最大限の能力を発揮できるよう、監視・取り締まり活動を厳正に進める。
中小企業需要創生法案の概要
(経済産業省・平成26年10月)
1.法律案の趣旨
経済の好循環を全国に波及させるため、創業間もない中小企業の官公需の受注促進と、消費者嗜好を捉えた「ふるさと名物」の開発・販路開拓により地域の需要創生を実現するべく、「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律(昭和41年法律第97号)」、「中小企業による地域産業資源を活用した事業活動の促進に関する法律(平成19年法律第39号)」、「独立行政法人中小企業基盤整備機構法(平成14年法律第147号)」の3法を改正する。
2.法律案の概要
⑴官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律の一部改正
中小企業の官公需の受注機会の拡大を図る本法律を改正し、創業間もない中小企業者の受注機会の拡大を図るべく、次の措置を講ずる。
①新規中小企業者(創業10年未満の中小企業者)への配慮
契約の実績がなく受注機会が限られている、創業10年未満の中小企業者を「新規中小企業者」として定義し、官公需において、国などの契約の相手方として活用されるよう配慮する旨を法定する。
②国の契約方針(基本方針)の策定
新規中小企業者をはじめとする中小企業者の受注の機会の増大を図るため、新規中小企業者などからの契約目標の設定や受注機会増大のための措置などを盛り込んだ、「国の基本方針」を策定する。
③各省各庁など(公庫・独立行政法人などを含む)の契約方針の策定
各省各庁などがそれぞれの実態に応じて、基本方針に即した新規中小企業者などとの契約に関する「契約の方針」を策定する。
④契約実績の概要の公表
経済産業大臣は、各省各庁などが新規中小企業者をはじめとする中小企業者との間でした国などの契約の実績の概要を公表する。
⑤独立行政法人中小基盤整備機構による協力業務
独立行政法人中小基盤整備機構(以下「中小機構」)は、各省各庁などの依頼に応じて、受注の機会に必要な情報提供などの協力業務を行う。
⑵中小企業による地域産業資源を活用した事業活動の促進に関する法律の一部改正
都道府県が指定する「地域産業資源」を活用した中小企業の事業活動を国が認定し、支援する本法律を改正し、消費者嗜好を捉えた「ふるさと名物」の開発・販路開拓の取り組みを促進することで地域経済の活性化を図ることを目的に、次の措置を講ずる。
①市区町村の関与
市区町村が、以下のような積極的な関与を行うことを法定する。
・都道府県が指定した地域産業資源の内容に意見を申し出る。
・中小機構から地域産業資源活用事業者などに対する貸付資金の供給を受ける。
・中小企業による地域産業資源活用事業などを促進するため、地域の実情に応じた総合的かつ計画的な施策を策定・実施するよう努める。
②地域産業資源活用支援事業計画の創設およびその特例措置
一般社団法人などが、地域産業資源を活用した商品などの需要の動向に関する情報の提供などを行う地域産業資源活用事業を支援するための計画を作成し、主務大臣の認定を受けることができる。当該認定を受けた場合、当該計画に基づく事業に関し、中小企業信用保険法や食品流通構造改善促進法の特例措置を講ずる。
③地域産業資源活用事業の拡充など
「地域産業資源活用事業」の対象に、地域産業資源である農林水産物の生産活動の体験や産業観光などに係る事業を追加する。また、地域産業資源活用事業の実施に協力する者がある場合、その協力の内容などを地域産業資源活用事業計画に記載することができる。
⑶独立行政法人中小企業基盤整備機構法の一部改正
①市町村への協力
中小企業の事業活動を支援する市町村に対して必要な協力を行う。
③調査権限の委任
中小機構への立入検査の権限の一部を金融庁に委任することができる。
3.施行期日
公布の日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日。ただし、中小機構法に基づく立入検査の権限委任の規定については、平成27年10月1日。
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