今号は、本業とは全く異なる分野で新規事業を立ち上げ、その両立を実現している事例をご紹介します。
親孝行から生まれた新規事業
大阪府大東市に「ツルテック」という黒ニンニクの製造販売を行う企業があります。同社はもともと、ツルタ電機という電子部品の組み立て・検査などを行う製造業として、現社長の鶴田賢一郎さんの実父が立ち上げた会社でした。その父ががんを患い、有効な治療法を探す中、鶴田さんが出合ったのが黒ニンニクでした。残念ながら実父は亡くなりましたが、自然食品としてのニンニクの可能性に魅せられた鶴田さんは、事業化を決断。本業の部品加工業が取引先の需要動向に左右されやすいことから、「いずれは自社ブランドを」という夢を長年温めていたのです。
全くの異分野進出でしたが、鶴田さんには、本業のものづくりで培った「品質重視」の姿勢を貫けば必ず成功できる、という信念がありました。その言葉通り、鶴田さんはより良い黒ニンニクづくりに注力します。知人の紹介で岐阜大学とも連携し、苦心の末に低温・長期で発酵させる独自製法を開発。発酵時間の短い従来品に比べ、二次発酵を経て黒く変色した鶴田さんのニンニクは苦味や臭いもなく、プルーンのような甘さが特徴です。
栄養成分や抗酸化作用に優れたこの商品は、男性向けのイメージを払拭すべく「なでしこ」と名付けられました。大東市には自然食品の特産品が少なかったため、鶴田さんは地域に密着したPR活動でファンを拡大しようと決意します。
ものづくりへの姿勢と情熱で事業両立に成功
早速、鶴田さんは地元の飲食店を回り、黒ニンニクを使ったオリジナルメニューを提供してもらったり、主婦を対象にした料理教室を企画し、スープや肉料理など、黒ニンニクの簡単な活用レシピを紹介するなど周知に努めました。現在はホームページやフェイスブックページを設けるほか、通信販売も全国展開し、リピーターや定期購入客を獲得しています。
経営学上は、この種の展開は「非関連型多角化」と呼ばれ、特に中小企業ではリスクが高いとされています。しかし、「一人でも多くの人に健康な生活を送ってほしい」との鶴田さんの思いは、周囲の人々を動かしました。当初は反対意見や戸惑いを示していた従業員たちも、現在は在庫管理や梱包・発送、顧客データ管理などに率先して携わり、二つの事業がうまく連動するようになりました。ものづくりで鍛えた品質重視の姿勢と経営者のリーダーシップがあれば、未知なる新規事業も軌道に乗せることは可能、という好例でしょう。
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