これまで、世界経済は異例ともいえる長い期間好調を維持してきたが、最近、不安要素が出始めている。まず、世界第2位の経済大国である中国が、成長の限界を迎えつつあるように見える。2018年、中国の実質GDP(国内総生産)成長率は6・6%と28年ぶりの低水準に落ち込み、新車販売台数も28年ぶりに前年実績を下回った。中国政府は公共事業をはじめとする景気対策を進め、景気刺激策を積み増しているが、個人消費を中心に経済指標は明確な改善傾向を示していない。この背景には、資本の効率性が低下し、国内で付加価値を生み出すことのできる投資案件が見当たらなくなっていることが考えられる。
その上、トランプ米大統領の対中通商政策が、中国の個人や企業関係者のマインドを悪化させている。債務問題の深刻化など中国経済の下押し要因は増大傾向にあると見られ、景気は一段と減速する恐れがある。中国経済の減速を受け、アジアの一部諸国の景況感も悪化している。特に、輸出依存度が高く、中国向け輸出が多い韓国は深刻だ。米中貿易摩擦の激化懸念の高まりなどから、世界的にサプライチェーンが混乱し、多くの企業が中国に置いてきた生産拠点をベトナムなどに移し、世界的に製造業の景況感が悪化した。これが、半導体を中心に韓国の輸出を減少させている。
一方、欧州ではユーロ圏の景気減速が鮮明化している。中でも、ドイツ経済の落ち込みが著しく、4~6月期の実質GDP成長率は前期比マイナス0・1%に失速した(速報値)。韓国同様、ドイツも対中輸出を軸に経済成長を遂げてきた。ドイツ経済から大きな影響を受けるユーロ圏各国にとっても、サプライチェーン混乱の影響は大きい。英独伊をはじめとする政治リスクや銀行の不良債権問題なども欧州経済の下押し要因だ。
それでも、世界経済はそれなりの落ち着きを維持している。これは、世界最大の経済大国である米国経済に依存している部分が大きい。米国経済は減速してはいるものの、今のところ個人消費中心に相応の好調さを維持している。2018年4~6月期の米国の実質GDP成長率は前期比年率換算ベースで3・5%に達し、それをピークに低下傾向だ。本年同期の成長率は同2・0%で、この水準はFRBが想定する潜在成長率(1・9%、6月時点)を上回っている。
ただ、心配な点もある。それは、米国の景気循環に大きな影響を与える企業の設備投資が減少傾向であることだ。設備投資の先行指標として扱われるコア資本財受注(航空機を除く非国防資本財の受注)は減少している。加えて、8月のISM製造業景況感指数は、景気の強弱の境目である50を3年ぶりに下回った。米国経済にも、米中の貿易摩擦による世界的なサプライチェーン混乱の影響などが波及していると考えるべきだ。また、景気循環の観点からも、経済が徐々に後退局面に向かう可能性がある。8月下旬、米国の国債流通市場で2年と10年の国債の金利水準が逆転する場面があった(長短金利の逆転)。過去、長短金利の逆転が発生してから18~21カ月後に、米国経済は景気後退に陥った。9月に入り、この現象は解消されたが、先行き懸念を強め、リスクオフに動く投資家は多い。しかしながら、今すぐに米国の景気が腰折れとなり、世界経済が調整に向かう展開は考えづらい。人手不足から、米国の時間当たり賃金は緩やかに増えている。それが、当面の米国の個人消費を支え、世界経済の下支えにもなるだろう。とはいえ、世界経済の中で“独り勝ち”というべき米国経済でさえ、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)は悪化している。特に、製造業の景況感悪化は軽視できない。やや長めの視野で考えると、米国で個人消費が徐々に勢いを失い、景気後退への懸念が一段と高まるシナリオは排除できない。すでに、2020年のどこかのタイミングで、米国の景気が後退局面に移行する可能性があると考える経済の専門家もいる。米国の景気後退が現実味を帯びれば、世界経済には相当の調整圧力がかかるだろう。
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