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真壁昭夫の経済底流を読み解く 消費税率引き上げ後のわが国経済

10月1日、消費税率が8%から10%に引き上げられた。今後のわが国経済の行方を占う上で、最も重要なイベントが消費税率の引き上げだった。前回、2014年4月の消費税率引き上げの際は、引き上げ前の駆け込み需要の高まりもあり、税率引き上げは個人消費の落ち込みとなって景気の足を引っ張った。一方、今回の引き上げについては、事前の駆け込み需要がそれほど盛り上がらなかったこともあり、景気の大幅な落ち込みは回避できたようだ。その背景には、政府が軽減税率などの対策を講じたことがある。また、米国が緩やかな景気回復を維持し、世界経済が相応の安定を保っていることも見逃せない。11月上旬の時点で、今回の消費税率引き上げは、景気の腰を折ることなく実施できたと評価してよいだろう。当面、わが国経済は消費を中心に相応の安定した展開を維持すると予想される。

過去の消費税率引き上げは、事前の駆け込み需要の発生とその反動減を通して景気を低迷させ、政権批判が増える要因となっていた。今回、政府は軽減税率とキャッシュレス決済によるポイント還元措置を導入した。

10月以降に発表された経済データを確認すると、食品の売り上げ動向は安定している。これは、軽減税率の導入などが一定の効果を果たしたためだろう。一方、白物家電や百貨店の売り上げなどには駆け込み需要の影響が出た。9月の鉱工業生産(速報値、季節調整ベース)では、消費財の生産は前月から約1・6%減少、耐久消費財は同0・6%程度落ち込んだ。14年4月の消費税率引き上げ時に比べて駆け込み需要のマグニチュードは抑制され、税率引き上げの前後で国内経済に大きな変化は出ていないと考えてよいだろう。

ただ、わが国経済の先行きを楽観するのは早計かもしれない。中国を中心に、海外経済の先行き不透明感が徐々に高まっていると考えられる上、米中の貿易摩擦も気になるからだ。さらに中国経済は、成長率を維持・向上させることが困難になっている。政府による公共事業の積み増しや減税・補助金政策の実施および規制の緩和などにもかかわらず、7~9月期の実質GDP成長率は前年比6・0%にまで低下した。9月まで、中国の新車販売台数は15カ月続けて前年同月の実績を下回っている。その中で、10月の閣僚級通商協議において、米中が農業などの特定分野において口頭での部分合意に達したとみられることは重要だ。両国首脳が共同文書への署名を行い、貿易摩擦の“休戦協定”が成立するとの期待が高まっている。実際に休戦協定が締結されれば、一時的に中国の景気は持ち直すだろう。

一方で、中国の生産年齢人口はすでに減少に転じ、貿易摩擦によるサプライチェーンの混乱も加わり、各国の主要企業が他のアジア新興国などに生産拠点を移している。それに加え、債務問題(「灰色のサイ」)も深刻で、この状況が続けば、中国における“ゾンビ企業”はさらに増え、成長率は低下傾向をたどる可能性がある。

米国経済は、短期的に緩やかな回復を維持し、米中による休戦協定への期待から、労働市場も改善基調を保っている。また、10月末の時点で、S&P500(※)を構成する企業の約75%において、決算内容がアナリストの予想を上回った。だが、19年に入ってから、製造業の景況感は徐々に軟化し、設備投資も鈍化気味だ。今後、米国経済の減速が鮮明化すれば、世界経済の安定感は大きく揺らぐだろう。その場合、金融市場ではリスクオフが進み、円高が進む可能性がある。円高は、わが国企業が海外で得た収益や資産の評価額を押し下げる。円高のペースによっては、本邦企業の業績が急速に悪化し、わが国経済に下押し圧力が掛かる展開も排除できない。消費増税がほぼ無事に通過できたことは重要だが、引き続き先行きは慎重に見ていくべきだ。

※米国の証券取引所に上場している代表的な500銘柄で構成される株価指数。500銘柄の株価を、浮動株調整後の時価総額比率で加重平均して指数化したもの。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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