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100年経営に極意あり!長寿企業の秘密 一気に売り上げが上がらなくてもいい地域とのつながりを大事にして続けていく

サガ・ビネガー

佐賀県佐賀市

サガ・ビネガーの直売店。奥は製造所になっている。屋号の「イ」は、初代・伊左エ門の名前からきている

高校卒業と同時に後を継ぐ

農業県として知られる佐賀県の佐賀市で、サガ・ビネガーは昔ながらの製法で酢をつくり続けている。創業は天保3(1832)年で、村の世話役で庄屋だった初代・伊左エ門が「右近酢」を製造・販売したことが始まりとされる。

「初代は庄屋として村に来た旅人の世話をしたりしているうちに、旅人から酢のつくり方を教わり、自分でつくり始めたようです。ただ、創業年ははっきりしておらず、伝わっている話と寺の過去帳から、この人が江戸時代終盤の1832年ごろに始めたのだろうということで、それを創業年としました」と、五代目で社長の右近雅道(まさみち)さんは語る。すでに創業地から引っ越していることもあり、昔の資料や道具などは残っていないという。

「私の父が四代目で、昭和28(1953)年に、創業地よりも交通の便がいい、今ある店のすぐ前に店を移したのです。ところが、それから4年後、私が小学1年生のときに事故で亡くなってしまいました。そのため母は、子ども4人を育てるために店で必死に働きました。なので、昔のものを残しておくという余裕もなかったんです」

しかし、それから10年後に右近さんの母親も過労が原因で倒れ、働くことができなくなってしまった。そのため、長男である右近さんが若くして後を継ぐことになった。まだ18歳のときだった。

「当時私は高校生で、中学生のころから配達などの手伝いをしていたので、店の仕事がどういうものかは分かっていました。高校を卒業してから正式に後を継ぎ、去年で丸50年になりました」

健康酢の製造販売に転換

右近さんが後を継いだときは、パートの従業員が二人いただけで、右近さんは隠居していた祖父から酢のつくり方を教わりながら店を続けていった。今はさまざまな原料の酢をつくっているが、当時は米酢、特に鹿児島でつくられているような黒酢がほとんどだった。

「私は周りに恵まれていました。24歳のときに祖父が亡くなり、それからは酢をつくる蔵人(くらうど)さんが年に1、2回来てくれて、私に酢づくりを教えるだけではなく、販売店も紹介してくれました。そのおかげで商売は順調になり、酢づくりも忙しくなりました。老舗という感覚はありませんでしたね。父親から代を受け継いでいたら、継承しているという意識もあったかもしれませんが、当時は商売が即、生活に関わっていましたから」

右近さんがまだ20代のころ(昭和40〜50年代まで)は個人商店が町のあちこちにあり、つくった酢はそこに配達していた。当時は各家庭で料理に酢を使うことも多く、販売数はそれなりに確保できていた。しかしその後、各地にスーパーができるようになり、大手メーカーの安い酢が売られるようになると、「右近酢」はなかなか売れなくなっていった。

「そのころ健康酢がブームになってきたので、当時指導を受けていた酢づくりの先生から勧められ、黒酢や大豆酢、リンゴ酢などの健康酢を主につくっていくことにしました。それがうまくいき、再び生産が忙しくなっていきました」

苦しい時期も安売りはせず

昭和62(1987)年には個人事業だった同社を法人化し、翌年には増産のために新工場を建設したが、すぐに健康酢ブームが終わってしまう。赤字が続く苦しい時期が続いたが、自社製品を安売りすることだけはしなかった。

また酢の製造法にもこだわりを持ち、一昼夜で酢ができる速醸法ではなく、初代から受け継いできた静置(せいち)発酵法を続けている。これは自然に発酵させて酢をつくる方法で、サガ・ビネガーでは発酵に90日、熟成に90日かけている。

「いいものを適正な価格で売ろうと値段を守ってきたので、一度安売りしてしまうと、もう高い値段では売れなくなります。そして5年間、苦しい時期を辛抱していたら、いろいろなお客さまがうちの酢を認めてくれるようになり、売りたいと言っていただける販売店も出てくるようになりました」

値段を下げずに売るには、特徴ある製品づくりが重要だと右近さんは言う。その一つが、農業県である佐賀の農産物を使うことである。

「もう一つ大事なのがPRです。新商品が出るたびに、地元紙やラジオ局に記事や番組で取り上げてもらえるようお願いしてきました。それにより、地元の多くの方が注目してくれるようになりました。手広く商売するのではなく、これからも地域の方々とのつながりを大事にしてやっていきます」

時間をかけてつくられた、まろやかな酸味のサガ・ビネガーの酢は、料理の味を引き立てるだけでなく、地域の人たちの健康づくりにも役立っている。

プロフィール

社名:有限会社サガ・ビネガー

所在地:佐賀県佐賀市嘉瀬町大字中原1969-3

電話:0952-23-6263

HP:https://www.sagavinegar.jp/

代表者:右近雅道 代表取締役

創業:天保3(1832)年

従業員:6人

※月刊石垣2019年10月号に掲載された記事です。

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