消費増税は改革の好機
2014年の流通業を取り巻く最大の変化要因は、言うまでもなく4月に施行される8%への消費増税だろう。無論、消費増税は初めてのことではない。1989年の導入時、97年の3%から5%への税率引き上げ時と過去2回にわたって経験してきていることではある。しかし、今回は前回から17年ぶりのことであり、しかも15年10月には10%への増税が予定されている。
今回の税率引き上げに際して、円滑で適正な転嫁を目的に、消費税転嫁対策特別措置法が昨年10月に施行された。そのひとつとして「税抜き価格表示(外税方式)」が認められたもの、現在のところ価格表示を変更した小売企業は見当たらない。4月をにらんで各社とも消費者の反応を探っているようだ。
事業者の多くが強い懸念
事業者は来たるべき4月をどのような意識で迎えようとしているのだろうか。 企業情報調査会社、帝国データバンクが昨年9月に公表した「消費税率引き上げに対する企業の意識調査」(調査対象は全国2万2760社、有効回答企業数は1万1114社)によると、小売業を中心に各業種で、消費増税が消費に与える悪影響に懸念を抱いている現状が浮き彫りとなる。
消費税率が引き上げられた場合、自社の業績にどのような影響を与えると思うかという質問に対して、「悪影響」と回答した企業は全国の全業種で全体の47・7%と最多。「かなり悪影響」(7・7%)と合わせると、消費税率の引き上げによって業績に悪影響があると考える企業は55・3%で半数超に上っている。
業種別では消費者に最も近い「小売」で80・5%、食料品生産を担う「農林水産」で73・3%と突出している。日常の暮らしに直結する日用品・食品に携わる事業者ほど強い懸念を抱いている。 また、消費税対策の実施状況に関する質問には、「特に対策を行う予定はない」が52・5%と半数を超えて最多。企業規模が小さくなるほど対応予定企業は減少するという結果が出ている。
駆け込み消費は起こるか
ところで、過去2回の施行前にも見られた駆け込み消費の動きはどうか。そこで業態ごとの既存店売り上げ前年比の推移を見てみよう(図表)。
アベノミクスによる円安・株高基調と、それによる景気浮揚感が一部の富裕層の財布の紐を緩めたのか、消費にもはっきり波及効果が出てきたといえるのが、百貨店高額品部門(美術、宝飾、貴金属)の既存店売り上げだ。一昨年9月以降14カ月連続のプラスとなっている。もっとも、この高額品部門の売り上げシェアは百貨店売上全体の5・5%にとどまり、それほど大きなインパクトを持つわけではない。実際、百貨店の既存店売り上げ前年比は他業態と大差はない。
一方、消費者の生活購買意欲を示し、市場ボリュームも大きいスーパー、コンビニエンスストアの既存店売り上げは低迷が続いている。とりわけ消費増税法案が成立した12年8月以降さえない。大手スーパー各社はこの間、相次ぎ大がかりな値下げキャンペーンを打ち出しているものの、消費者の反応はいま一つで、既存店売り上げが大きくプラスに転じていない。
過去とは異なる時代背景
こうした状況から、駆け込み消費を狙った増収対策の成果はそれほど期待できないだろう。まして4月までにいくら売り上げを立てても、〝山深ければ谷また深し〟である。駆け込み消費による反動減も考えなければならない。立てるべき対策は別のところにある。
過去と今回の消費増税で大きく異なる背景がある。それは人口減少だ。戦後増加の一途だった日本の人口は08年をピークに坂を下り始めている。消費税増税後の家計消費の落ち込みと人口減少を考えたとき、客数増による売上げ増という経営手法は成り立ちづらくなる。
廉売して客数を増やすことによって売り上げを確保するのではなく、既存客を中核に顧客との関係性を強くし、顧客の理解と納得を得た上での適切な売り上げが創造できるか。つまり、適正な粗利益率を維持できる経営こそ、14年最大の経営課題である。
消費増税は、企業規模が大きかろうと小さかろうと、どの事業者にも公平に訪れる。これを自社・自店の改善・改革の足がかりとしたい。
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