日商 Assist Biz

更新

こうしてヒット商品は生まれた! 瀬戸田レモンケーキ 島ごころ

「瀬戸田レモン」の果皮を練り込み、「歯ごたえ」「食感」「香り」を最大限に引き出した。「フード・アクション・ニッポン・アワード」「モンドセレクション金賞」「グッドデザイン賞」など数々の賞を受賞。1個250円(税込)

国産レモンの生産量日本一を誇る広島県尾道市。中でも、瀬戸内海に浮かぶ生口島(いくちじま)でつくられる「瀬戸田レモン」は、最も多くの割合を占める。その果皮をふんだんに使用した、従来品とは風味も食感も異なる、香り豊かなレモンケーキが、幅広い需要を掘り起こし、ロングランヒットを飛ばしている。今、その人気が瀬戸田のまちの活性化にもひと役買っている。

果汁ではなく果皮を使ったユニークなレモンケーキ

レモンケーキといえば、レモン風味のスポンジをホワイトチョコでコーティングしたスイーツが思い浮かぶ。ところが、そんな従来品のイメージを覆す、レモン果汁もホワイトチョコも使わないレモンケーキがある。日本一のレモンの産地、広島県生口島に本店を構える島ごころが、2009年に発売した「瀬戸田レモンケーキ 島ごころ」だ。バターをたっぷり使ったパウンドケーキの生地に、レモンの果皮でつくったジャムを練り込んで焼き上げたもので、ひと口食べるとレモンの香りが口いっぱいに広がる。

「レモンの香り成分のリモネンは、果汁ではなく果皮に含まれています。だからうちでは、果皮を使って香りを味わう、ほかにはないレモンケーキをつくろうと考えました」と同社オーナーパティシエの奥本隆三さんは発端を説明する。

奥本さんは、神戸の洋菓子店に勤めた後、生まれ故郷に戻り、08年に同店を開業した。神戸で磨いた技術から生み出されるショートケーキやシュークリームなどは、最初は売れ行きも好調だったが、徐々に売り上げが落ち、経営は厳しくなっていった。何か店の目玉となる商品が必要だと、着目したのが特産品のレモンだった。

「法事のお返しもの」という需要を狙う

これほど地元にありながら、レモンの知識が乏しかった奥本さんは、農家に足を運んで話を聞き、「瀬戸田レモン」の特徴を勉強して、素材と向き合った。そうして何度も試作を繰り返したが、どれも似たり寄ったりだった。行き詰まりを感じていたとき、ふと思い出したのが、前の職場でつくっていた「オレンジクグロフ」だ。クグロフ型と呼ばれる独特の型を使い、発酵生地を焼き上げるフランスの伝統菓子に、オレンジ果皮が練り込まれている。それをレモンに置き換えたらどうかと思い付いた。

「レモン需要の大半は果汁で、搾り取ったあとの果皮は‶かす〟として廃棄されます。当時はレモンの皮だけを利用した洋菓子はほとんどなかったので、残りかすの皮を再利用するのではなく、主役として使おうと思いました」

奥本さんは、地元農家からレモンを仕入れ、手作業で丹念に皮を剥いていった。皮の厚さは個体ごとにまちまちなので、機械で剥くことができないのだ。それを細かく刻んでアク抜きを行い、砂糖だけでじっくりと煮込んでレモンジャムをつくる。それを生地と混ぜ合わせて、オーブンでじっくり焼く。試作していくうちに、味はどんどんシンプルになり、しっとりふわふわな生地とレモンジャムが絶妙に調和した、今までにないレモンケーキが完成した。

「味はイメージ通りでしたが、見た目が地味なので、最初のころお客さまからの評判は散々でした。『たこ焼きみたい』『これはレモンケーキじゃない』とか言われて、ちょっと心が折れそうになりましたね」

しかし、同商品はもともと単品売りというより、法事のお返しものとしてのニーズを狙っていたという。地域の特産品を使ったお菓子を地域の人に活用してもらうことで、感謝の気持ちを伝えたい。そんな思いから、パッケージには白、黄、黒という3色づかいの落ち着いたデザインを採用した。

「結果的に、予想をはるかに超える人が、お盆に使うお返しものとして買ってくれました。するとしばらくして、『島ごころ』を持ち帰った他地域の人からポツポツと問い合わせが来るようになり、次第に広島や尾道、大阪などから『土産物として扱いたい』という引き合いが来るようになりました」

他社とも連携し「レモンの総合カンパニー」へ

その後も快進撃は続いた。当時、広島県が「おしい! 広島県」のキャッチフレーズで観光PRを展開していたことや、「ひろしま菓子博2013」にレモンを使った商品が数多く出品されて認知度が上がったことで、同商品の需要も大きく拡大。15年には年間生産量が120万個まで増えた。

「当初の想定を超えて、今では東京の高級ホテルのウエルカムスイーツにも採用されるまでになり、累計販売数は700万個を超えるまでになりました。この商品の使い方はすべてお客さまが決めてくれたと感じています。ただ、これ以上増やすと手づくりではまかないきれず、こだわりや品質を維持できなくなるので、現在は年間生産量を80~90万個くらいに抑えています。その一方で今は、単に洋菓子をつくって売るだけでなく、他社のレモンを使った商品開発を手伝ったり、広島の仲間がつくった商品をうちで販売するといったことにも取り組んでいます」

そう語る通り、同社は17年ごろから、香料メーカーとコラボしてレモン果汁から業務用香料を開発したり、県内の酒蔵とコラボしてレモンの酒をつくったり、シャンプーやボディソープなどの開発に携わるなど、新機軸を打ち出している。目指しているのは、「レモンの総合カンパニー」だ。

「コロナ禍の4~5月ごろは売り上げが大きく落ち込みましたが、7月には例年の7~8割まで戻ってきました。それでも厳しいことには変わりありませんが、どの会社も苦戦しています。地域を元気にするためにも、さまざまな事業者と一緒にレモンで盛り上げていきたい」とあふれる地元愛を口にした。

会社データ

社名:株式会社島ごころ(しまごころ)

所在地:広島県尾道市瀬戸田町沢209-32

電話:0845-27-0353

HP:https://www.patisserie-okumoto.com/

代表者:奥本隆三 代表取締役社長

設立:2012年

従業員:45人

※月刊石垣2020年10月号に掲載された記事です。

次の記事

株式会社東田ドライ

兵庫県西脇市に創業し、60年近い歴史を持つ東田(とうだ)ドライ。市場規模の縮小が続くクリーニング業界の中で、同社は2014年、宅配クリーニング「リナビス」という新たな事業を…

前の記事

株式会社北見ハッカ通商

国内唯一のハッカの産地・北海道北見市で、ハッカ製品の製造・卸売業を営む北見ハッカ通商。創業以来の主力商品であるハッカ油は、長い間日の目を見なかったが、地道な営業努力…

関連記事

株式会社A.Y.Judie

2006年に生活雑貨品の小売業として独立創業し、のちに商品企画販売業に業態転換したA.Y. Judie(エイワイジュディ)。新型コロナで緊急事態宣言が発令された昨年4月、同社が考…

株式会社フィル

1997年に内装工事業で創業後、Webショップでの壁紙販売という新事業を開拓したフィル。そんな同社が今年6月に発売したのが、はがせるパッチワーク壁紙「Hattan(ハッタン)」だ。…

株式会社マーナ

2022年に創業150周年を迎える生活雑貨メーカー・マーナ。長い歴史の中で数々のアイデアグッズを世に出し、ヒットに導いてきた同社で堂々の看板を張っているのが、15年に発売さ…