事例3 「町おこしニッポン」担当者に聞く日本全国に「世界一」になる素材がある
ギネスワールドレコーズジャパン
地域の特産品やイベントなどを活用してギネス世界記録に挑戦する自治体や団体が増加。記録への挑戦は成功するしないにかかわらず、地域に大きな変化をもたらしている。その取り組みをサポートしているギネスワールドレコーズジャパン社に、同社が推進する「ギネス世界記録町おこしニッポン」プロジェクトについて話を聞いた。
まちおこしを目的とした記録への挑戦をサポート
何か特別な能力や特技を持った一部の人のためのもの―。ギネス世界記録に、そんなイメージを抱く人は少なくないだろう。しかし最近では、身近なテーマで誰もが挑戦できるツールとして、多くの団体に活用されている。その取り組みを支援しているのが、2010年に設立したギネスワールドレコーズジャパンだ。
「ギネスワールドレコーズは、英国・ロンドンの本部をはじめ世界各地に支社があり、その地域全体の記録を扱っていて、日本支社は日本の記録を扱っています。それだけ日本は地域ごとに特色や文化があり、世界に発信するべき魅力が多いということです」と同社シニア・アカウント・マネージャーの矢崎正道さんは説明する。
そんな同社が13年に開始したのが、「ギネス世界記録町おこしニッポン」プロジェクトだ。記録に挑戦したいという自治体などの問い合わせに対し、目的やテーマ、参加人数などを聞いて、挑戦に向けたコンサルティングを行っている。
「内容はさまざまです。まずは話をよく聞いて、私たちのデータベースにある約5万件の既存記録を参考にしながら、その地域に最適な挑戦の仕方や、記録達成をその後どう活用していくかなどを一緒に考えていきます」
通常、企業などが記録達成をビジネスに利用する場合、ライセンス契約を結ぶ必要がある。しかし、同プロジェクトで記録達成した場合は、「町おこしニッポン」という特別ロゴを1年間無償で使用できるという特典がある。そこには記録達成を一過性のものにせず、まちおこしに継続的に活用してもらおうという意図がある。
記録の挑戦は地域コミュニティの形成にもつながる
同プロジェクトを活用してまちおこしにつなげた例は数多い。例えば、「最大の田んぼアート」で認定された埼玉県行田市もその一つだ。同市は地元産の米のPRを目的に田んぼアート事業に取り組んでいたが、その面積が日本一となったことから、11年にギネス世界記録の挑戦を決める。水害や猛暑による生育不良で何度も失敗したが、5年目に記録達成を果たした。
「達成に向けて、今まで田植えに関わっていなかった人、例えば地元の小中学生やその保護者などにも参加を呼び掛けました。同じ目標に向かって作業をするうちに交流が生まれ、地域コミュニティの形成にもひと役買いました」(矢崎さん)
その結果、同市の知名度は一気に上がり、田んぼアートを見に来る人が前年の4倍以上に増加した。田植えの申し込みも殺到しているという。記録達成はもちろんだが、何度失敗しても挑戦し続けたことが、地域に活気と連帯感をもたらしたといえるだろう。
同市は「新しい記録に挑戦」した事例だが、「既存の記録更新に挑戦」するものもある。後者の例に、岐阜県大垣市と静岡県日大三島高校の「食べさせ合い」がある。2人一組で食べ物を相手に食べさせる人数を競うものだが、大垣市は特産品の水まんじゅうで挑戦した。見事記録を達成したが、その2カ月後に日大三島高校が三島コロッケで記録を更新した。興味深いのは、大垣市の挑戦に同高校が視察を申し入れたこと、そして同高校の挑戦に大垣市がキャラクターとともに応援に駆け付けたことだ。
「本来なら、記録を更新されるかもしれない相手を嫌がるものですが、大垣市は申し入れを快諾し、日大三島高校も挑戦当日に大垣市を招待しました。これにより二つの地域に新たな絆が生まれました。現在の記録保持者は日大三島高校ですが、大垣市も大きな注目を集めました。単に記録達成を目指すより、こうして先を見据えて取り組むことが重要といえます」(矢崎さん)
動機とメッセージが明確なほど効果をもたらす
ギネス世界記録に挑戦する場合は、次の四つの基準、①計測できること、②証明できること、③標準化できること、④更新できること、を満たす必要がある。中でも日本の場合、③がネックになるケースが多いという。同じ条件を満たせば世界中のどこでも挑戦できなければならないため、日本の「この場所だけで」「この土地でしかできないこれを使って」といった制約がある挑戦はNGなのだ。したがって具体的なテーマがあっても、そのまま挑戦できるとは限らず、同社のコンサルタントと打ち合わせを重ねながら、挑戦の道筋を探っていくことになる。
「その際に重要なのは、なぜ記録を達成したいのか、達成を通じて何を世界に伝えたいのかを明確にすることです。記録達成はゴールではなくスタートです。動機とメッセージが明確なほど成果が上がりやすく、まちに元気をもたらします」
挑戦したいが何をやればいいか分からないという場合でも、動機と、メッセージが明確なら見込みはある。同社のコンサルタントはテーマを見出すところからサポートしてくれるはずだ。
もし記録が達成できれば「世界一」の称号が手に入り、世界中から注目を集めることになる。それにより予想もしなかった何かが始まったり、チャンスが訪れたりする可能性がある。まちおこしに取り組んでいるなら、ギネス世界記録の挑戦は有効な選択肢の一つといえるだろう。
※世界中のどこかで常に挑戦は行われています。本文中の記録は、取材時点での情報です。
会社データ
問い合わせ先:ギネスワールドレコーズジャパン株式会社
HP:https://www.guinnessworldrecords.jp/
※月刊石垣2019年5月号に掲載された記事です。
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