「V-RESAS(ブイ・リーサス)」は、内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局と内閣府地方創生推進室が、新型コロナウイルス感染症が地域経済に与える影響を9種類の項目別に分析した地域データベースだ。地域の経済状況を迅速かつ高精度に可視化できるシステムで、この分析結果をビジネスに活用すれば、先行き不透明なコロナ禍への“打ち手”が見えてくる。V-RESASの中核を担う同事務局のビッグデータチームの担当者に、V-RESASの具体的な活用法を直撃した。
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誰もが無料で見られるコロナ禍の地域経済データ
経済が激変する状況下で、さまざまな新型コロナウイルス(以下、コロナ)の情報が飛び交っている。その量と玉石混交ぶりに、判断材料さえ不明確になりつつある。そんな中、信憑性(しんぴょうせい)の高い情報として注目したいのが「政府が運営するV‒RESAS」だ。
「地域経済の構造の分析に最適なシステムとして『RESAS(リーサス)』を経済産業省が運営しています。しかし、これは基本的に年1回の更新で、新型コロナウイルス感染症の影響で打撃を受けている今年の経済状況を読み解けません。それに、政府統計は公表のタイミングが遅い、更新頻度が少ない、地域単位が粗いといわれていました。地域単位の足元のデータが欲しいというニーズに応えるべく、リリースしたのが『V-RESAS』です」
そう語るのは内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局ビッグデータチームの参事官補佐の宇野雄哉さんだ。V-RESASは地域経済におけるコロナの影響を可視化したビッグデータで、同事務局のホームページ上で今年6月30日から公開されている。誰もが無料で閲覧でき、ウェブデザインも感覚的に使えるのが印象的だ。
公開当初の提供データは「人の流れ」「決済データ」「POS(販売時点情報管理)」「飲食」の四つだったが、1カ月後には「宿泊施設」「イベント」が、その後さらに検索キーワードを調べられる「興味・関心」が追加され、「雇用」「企業財務」と11月4日までに全9項目が整った。どのデータも前年比を中心にリアルタイムに近い情報が開示されており、当面は1週間おきにデータが更新される。年1回から週1回へ。このスピード感からも今までとは一味違う情報としての期待が高まっている。
高精度なデータでコロナ禍を読み解く
「コロナ禍にあって、素早く、高頻度に状況を把握するためにも、V‒RESASの立ち上げは急務でした。そのため当初は最低限の機能でスタートし、ユーザーからの意見を取り入れて随時改善し、機能を拡充していきました。コロナの影響は、日本経済を大きく揺るがしていますが、地域や時期、業種によって影響の度合いはさまざまです。それでいて足元の地域経済を適時適切に読み解き、地域経済の再活性化に向けた施策の立案や遂行が求められています。V‒RESASを企業活動に活用してもらうためにも、まずは地方公共団体が政策立案を、金融機関や商工会議所などが中小企業のサポートをする上で、V‒RESASを活用していただければと考えています」(宇野さん)
読み解く手掛かりとして、目を向けたいのが九つのデータ項目だ。
「人の流れが止まったのがコロナの最大の影響です。トップページの最初に『移動人口の動向』を載せているのもそのためで、人流はコロナ禍を読み解く上で必要不可欠です。続いて、マクロ経済を反映する『消費』。『決済データから見る消費動向』と、スーパーやGMS(総合スーパー)のPOSレジを集計した『POSで見る売上高動向』のデータをまとめ、POSは約200品目まで増やしてデータの細分化を図りました。また、コロナで打撃を受けた業種の中でもとりわけ深刻な『飲食』『宿泊』『イベント』を取り上げ、景気の先行き予測として『興味・関心』というキーワード検索できる項目を立てました。『雇用』は多数の求人サイトのデータを集計して、職種別に足元の雇用の動向が週次で分かるようにしており、全国の中小規模事業者の動向が分かる『企業財務』で全9項目です。ここからは特に、各データの精度、スピードを上げ、V‒RESASを広く普及していくことに尽力していきます」(宇野さん)
「初めてでも使いやすい」サイトづくりに注力
では、実際にどのようにV‒RESASを活用したらいいか。サイトを見てもらうと分かるのだが、トップページの一画面を縦にスクロールするだけでも、コロナ禍の日本の〝大枠〟をつかむことができる。これがV‒RESASの最大の特徴で、初めて使う人でも、ネットリテラシーがなくても、数値化された日本の〝今〟を感覚的につかめる。
「特にトップページの『全国サマリー』が日本全体を見るのに便利です。今年1月からの動向をデータ項目別にグラフ化しています。V‒RESASで何が分かるのか、導入として見てもらえればと思います」(宇野さん)
全国サマリーの「移動人口の動向」と「決算データから見る消費動向」のグラフでは、緊急事態宣言が発令された時期に重なって数値が落ち込んでいるのが分かり、「宿泊者数」はGoToキャンペーンとともに急速に伸びていることが見て取れる。それに比べ、イベントチケット販売数の回復が遅いことなどが一目瞭然だ。
「V‒RESASで提供しているデータを見ても、特段の驚きはないかもしれません。しかし、自社の前年比の売り上げが、地域、業種別に照らし合わせるとどうなのか、比較検討するのに非常に役立ちます。都道府県別、地域別の動向や近隣地域との違いを見いだし、その違いはどこにあるのか理由を突き止める。そこから自社の企業戦略の軌道修正を図ったり、結果を出している地域、業種の施策を参考に経営回復の糸口を話し合うなど、V‒RESASをベースに話し合う。そんなコミュニケーションツールとして使えるシステムです」(宇野さん)
同じデータでもポジティブに捉えるか、ネガティブに捉えるかで判断は異なり、データを多角的に分析するほどに解釈は多様化する。答えが一つではないために、意見交換をすることで、データを多角的に、より深く分析することができそうだ。
その一方でデータを信じ過ぎる危険性もあると説く。数字で短絡的に一喜一憂するのではなく、データを冷静に適切に見つめることが大切だと宇野さんは強調する。
データ分析の指針になる「解説コラム」は要チェック
だが、普段あまりデータを見たことがない人、どう分析したらいいか見当がつかないという人にとって、データを読み解く自由度は、そのまま「難解」と解釈されてしまいがちだ。V‒RESASは難しいと結論付けてしまう前に、ぜひともクリックしてほしいのが、トップページの右上のバナーにある「解説コラム」だ。宇野さんも〝一押しコンテンツ〟としており、九つのデータ項目の概要や分析方法を、その名の通りコラムで分かりやすく解説している。解説コラムの中には、「○○県の分析」「△△市の分析」などの地域別のコラムも紹介されており、これらがデータを読み解く上で大いに参考になる。
「V‒RESASの元データは民間企業から提供いただいています。人流はAgoop、イベントはぴあ、興味・関心はヤフーなど、それぞれ企業が異なるために、データに多少の癖があります。解説コラムでは、それぞれのデータの特性にも触れているので、ぜひチェックしてほしいです」
トップページと解説コラムの二つをこまめにチェックする。それだけでも、膨大な情報量に振り回されることなく、今、そしてこれからの経済の動向を冷静に分析する判断ツールになりそうだ。
飲食店や小売店の割合が多い〝わがまち〟の商店街を分析
トップページの情報からさらに踏み込んでデータ分析をするにはどうしたらいいか。例えば商店街。コロナの影響が大きい飲食店や小売店の割合も高く、状況がさらに深刻化、長期化すれば商店街そのものの存続も危ぶまれる。
「商店街は『人流』と『飲食』をチェックしてみてください」
そう語るのは同事務局の菱沼拓生さんだ。V‒RESASのロゴの横のプルダウンで住んでいる都道府県を選択後、「人流」ボタンをワンクリック。すると「指定居住地ごとの前年同週比の推移」が表示される。「代表観測地点の中から駅を絞り込むと、前年同週比の推移が表示される。
「主要駅を含む500m四方別の滞在人口の動向なので、駅前の商店街であればこのデータでの分析が可能です。1日24時間を7分割して、時間別に動向を見ると、例えば11〜14時ならランチタイムに飲食店を訪れる人の流れとして予想できますし、夕方の時間なら買い物客の動向として分析することができます。コロナで集客が半減していると思ったら、地域の他の店はそれほど減っていない、だとしたら自分の店の改善策を模索する必要があるでしょうし、データの数値がV字回復までではないものの、緩やかに回復傾向にあるから営業し続けようという見通しも立てやすいと思います。もちろんその逆の判断材料となる場合もあるかもしれませんが、現実を受け止める目安として捉えることができます」(菱沼さん)
滞在人口の動向は、訪れた人が市区町村内、都道府県内、都道府県外別になっているのも興味深く、山梨県の石和温泉駅では県外からの滞在人口が10月の第2週目で+160%と跳ね上がっており、東京対象のGoToトラベルの影響が多分にあることが読み解ける。
飲食の項目にある飲食店エリアは、人流の代表観測地点の区分けとリンクしておらず、実際の来店消費額ではなく飲食店のホームページの閲覧数による前年同週比であるという注意点はあるが、飲食に対する行動の変化を可視化でき、飲食店のジャンル別に状況の変化を把握することができる利点がある。
インバウンド中心の観光戦略の転換も視野に
飲食店同様、打撃を受けた観光業はどうか。5月の緊急事態宣言解除から少しずつ各地の宿泊動向は増加傾向にあるといわれているが、V‒RESASでもそれは明らかで、中でも全国の9月第3週の宿泊データ「宿泊者数」は急激な伸びを見せている。その反動から翌週は減少しているものの、大幅な落ち込みには至っていない。総体的に緩やかな回復の兆しを感じさせる。
宿泊者の分類を見ると、GoTo以前は「男女二人(カップル、夫婦)」や「一人」の数値が高く、宇野さんは「男女二人はシルバー世代のご夫婦で、一人は出張などのビジネス客ではないか」と読む。宿泊の項目には、「予約代表者の居住地ごとの前年同月比の推移」があり、代表者が県内外どちらに居住しているかで推移が違うのも興味深い。解説コラムの「『宿泊』で見る緊急事態宣言」の記事では、沖縄県の動向を取り上げており、7月の県内の予約代表者による子ども連れ(子ども=13歳未満)の増加率をコロナ疲れの反動と、沖縄県が実施した県民対象の旅行キャンペーンによる影響が大きいのではないかと分析している。
「今年はインバウンドやバスツアーなどの団体観光客が見込めなかったため、土産品にもダメージがあります。コロナを機に個人旅行や県内観光に魅力を感じた人が一定数いる地域なら、今後、インバウンドや団体旅行客ではなく、個人客をターゲットにした土産品の開発を視野に入れていくかどうか検討する必要がありそうです」(宇野さん)
製造業は「消費」から全体の動向をつかむ
飲食業、小売業、宿泊業はどれもBtoCのビジネス展開だが、BtoBが主体の製造業で、V-RESASを活用することはできるのだろうか。
「製造業は他の業態と比べると地域経済の影響をあまり受けない傾向にあるかと思います。V-RESASでは製造業に特化したデータ項目を設けていませんが、『消費』からコロナ禍における需要と供給の変化をチェックして今後の製品開発、販路開拓に活用していただくことはできると思います」(菱沼さん)
消費では「決済データ」と「POS」の二つに分けてデータ分析をしている。前者は各地域の消費の変化を「小売業」と「サービス業」の二つに区分し、後者は「品目の分類」からさらに「品目の種別」と細部化してグラフ化できるのが特徴的だ。
小売業はどの地域ブロックも「EC」(電子商取引)が手堅い伸びを示し、コロナ禍によって実店舗よりもネット販売を利用する人が増えたことが分かる。リモートワークの影響からか、サービス業の「電気・ガス・熱供給・水道業」や「コンテンツ配信」はプラスの地域ブロックが多く、外食は全ブロックで落ち込みの激しいことが分かる。
「POSでは約200品目をデータ化していますが、細分化し過ぎるとサンプル数の少ない地域のデータが粗くなってしまうため、今後もサンプルの増加やデータ調整が課題です。しかし、全体の傾向は数字によく表れていて『介護・衛生用品』の急増は、主にジェル状のアルコール消毒液の消費が要因で、学校の休校や外遊びができなかった期間の『プレミックス』(パンケーキ用の粉など)や『生クリーム』の消費が伸びたのは、自宅でのお菓子づくりのニーズが高かったと分析できます。同時期にジンやウォッカなどのアルコール度数の高いお酒をまとめた『スピリッツ』の消費が高かったのも興味深いですが、これは飲酒目的ではなく、薬局の棚から姿を消した消毒液の代用として需要が伸びたと考えられます。このように消費を細分化することでアフターコロナの予測を立てる材料の一つになり得ると思います」(宇野さん)
地域経済の今後のビジョンをV-RESASで共有する
V-RESASはメディアやエコノミストが活用するケースが増えてきており、中でも自治体で活用されるケースも出てきている。
その一例が埼玉県秩父市。一時は給付金受給対象の絞り込みを考えたそうだが、EC事業以外の業績が全て落ち込んでいることがV‒RESASで分かり、対象者の絞り込みを撤廃したという。
「データだけではなく、事業者の生の声と両方を見比べて判断されたのだと思うのですが、自治体として各業種、業態の業績の違いを把握して、その地域に合った施策を打つためにデータが生かされています」(宇野さん)
また、同市では直近の経済データの他地域との比較ツールとしても活用している。
民間の活用事例も少しずつ増えてきている。東京都港区のアルパーコンサルティングでは、観光地の土産販売業の月次の売り上げの増減と、V-RESASの人流のデータが一致していることから、持続化補助金の申請時の根拠に活用。土産品を、V-RESASの観光動向を参考に、一人旅やカップル客をターゲットとしたものに見直すなど、迅速な状況の把握、対応に役立てている。
「コロナ禍で、地方自治体や金融機関、商工団体などの連携がより強まっていく傾向にあります。その中で問われるのが今後の地域経済のビジョンの共有です。場当たり的な対応ではなく、先々のビジョンについて話し合い、合意形成を図っていく。その際のコミュニケーションツールとして、また意思決定の参考としてV‒RESASを生かしてほしいですね」(同社代表取締役・古川さん)
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