コロナ危機に塗りつぶされた1年だった。民間信用調査会社によると、2020年の企業倒産件数は7年ぶりに1万件を超え、休廃業・解散企業は過去最多の5万件を超えるという。経営者の高齢化や後継者難に加え、新型コロナウイルスが追い打ちをかけているからにほかならない。その影響は中小企業、とりわけ暮らしに寄り添う生活産業である商業、中でも「衣食泊」といわれる衣料、外食、宿泊の3業界において顕著だった。
マクロ経済に目を転じると、4-6月期の実質GDPは前期比マイナス7・9%とリーマンショック直後のマイナス5・4%を超える戦後最悪の落ち込みを記録。直近7-9月期には前期比プラス5・0%と4四半期ぶりにプラス成長となったものの、4-6月期の落ち込み幅の半分ほどしか取り戻せず、19年10-12月期と比べた回復率はまだ52%にとどまる。
「7割経済」といわれるほどに、多くの店や企業が売り上げを落とす今日、21年も一段と環境は厳しく、常識が大きく変わることを覚悟しなければならない。その一つに、マーケティングがある。
1960年代に米国のマーケティング学者、エドモンド・マッカーシーが提唱し、著名な経営学者のフィリップ・コトラーが発展させたマーケティング理論は、「product(製品)」「price(価格)」「place(立地・流通)」「promotion(宣伝・販売促進)」を軸とする。これら四つの「P」は相互に関連しており、整合性を保ちつつ精度を高めることがマーケティングの定石といわれた。
重要性が高まる新しい四つの「P」
しかし、経済は低成長が前提となり、人口は多くの先進諸国で減少に向かい、インターネットの普及により生活者が触れられる情報量は膨大に増えた。マーケティング理論だけが変わらないと考えることには無理がある。21年は、次の新しい四つの「P」の重要性が高まる。その実現・向上こそが危機に強い体質をつくるだろう。
【story―rich product(物語性豊かな商品)】
productはstory-rich(物語性の豊かさ)であることが求められる。商品はこれまで機能、価格、デザインばかりが先行した。しかし、それらに「付加価値」が加わってこそ、思わず誰かに伝えたくなる豊かな物語性を持ち得る。
【philosophy(哲学・理念)】
生活者は単に「安さ」だけを求めているのではない。多くの事業が低価格ばかりを訴求し、ほかの選択肢を提示しないから、私たちは価格で選ばざるを得ないのだ。商品の中にphilosophyを見いだすことができれば、priceは二の次になる。
【personality(個性・人柄)】
promotionの定石も大きく変わった。IT技術の発達により、私たちは安価かつ臨機応変に販売促進を行えるようになり、その結果、多くの情報が溢れ、その中から自分にとってベストな情報を見つけることは非常に困難さを増している。
このとき私たちが選ぶのは、信頼のおける人からの情報だ。あなたが信頼のおける対象となるために大切なのがpersonalityなのである。
【promise(約束・絆)】
商業はこれまで、より恵まれたplaceを求めてきたが、いまやスマホ一つでほとんどの商品を購入できる。逆に、どんなに片田舎にあろうと、商圏を超えて多くの顧客が訪れる繁盛店がある。顧客が求めているのは、そこを訪れれば必ずかなえられるpromiseなのである。
つまり、お客さまは信頼の置けるpersonalityとpromiseを結ぶことを望むようになる。このとき、信頼の根本には、己の商いに対するphilosophyがあり、それを具現化したstory-richproductがなければならない。
もちろん、従来の四つの「P」がまったく機能しなくなるというわけではない。業界や商品カテゴリー、そしてビジネススタイルによっては今後も重要だ。しかし、確実に新しい四つの「P」がその活躍の領域を広げている。
コロナ危機は、その動きを加速させた。そして、それは後戻りすることはない。
(商い未来研究所・笹井清範)
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