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テーマ別誌上セミナー コロナ禍で激増!理不尽なクレームへの対応法 カスタマー・ハラスメントを跳ね返す

最近は顧客が従業員に対して威圧的な言動や、理不尽な要求を突きつける「カスタマー・ハラスメント」が増えてきた。ついには国が動き、2020年10月18日、厚生労働省が対応マニュアル策定に向けて予算の要求段階にあるほど事態は深刻化している。多大な損害、従業員の精神疾患をも招くカスタマー・ハラスメントにどう対応したらいいのか、クレームアドバイザーの山田泰造さんに聞いた。

山田 泰造(やまだ・たいぞう)

人財教育アシスト代表 クレームアドバイザー

山田 泰造(やまだ・たいぞう) 日本大学経済学部産業経営学科卒。産業心理学を研究し、企業人研修機関で23年間、指導教官として各界の人財育成・クレーム対応に携わる。東京商工会議所でクレーム対応セミナーを中心とした講演を約135回、全国の経済団体や官公庁、企業や医療機関、金融機関、大学などクレーム対応研修、セミナーなど約1400回実施。近著に『カスタマー・ハラスメント対応術』(経法ビジネス出版)がある

コロナ禍で激増するカスタマー・ハラスメント

―セクシャル・ハラスメントやパワー・ハラスメントなどの嫌がらせ行為の中でも、最近「カスタマー・ハラスメント」(以下、カスハラ)という言葉が急速に広まりました。一般的に、カスハラとはどのようなものなのでしょうか。

山田泰造さん(以下、山田) よく聞かれる質問ですが、こうすればカスハラであるという明確な定義はありません。しかし、カスハラの特徴としては、自己中心的で理不尽かつ執拗(しつよう)な要求をしてくることが挙げられます。一般的なクレーム対応では立ち行かず、業務に支障が出るほどの迷惑行為です。私の経験から申し上げますと、4年ほど前からカスハラをテーマにした講演やセミナーの依頼が急速に増えています。

―それだけカスハラに頭を抱える企業、団体が多いということですね。実際に目立つカスハラとはどんなものがあるのでしょうか。

山田 いくつか例を申し上げますと、飲食店で出された料理を食べ終えてから「料理がまずかった。ただにしろ」と要求したり、病院に症状が治らないからと返金を求めたり、ジャケットが気に入らないと返品しに来たものの、そのジャケットは数年前に購入したものだったというようなケースがあります。他にもリフォームしたフローリングにゆがみがあるから、浴室の給湯器を無料にしろとか、SNSで拡散するぞと脅すようなケースも少なくありません。

―特にカスハラを受けやすい業種はありますか。

山田 あらゆる業種が受ける可能性があるといえますが、特にカスハラが起きやすい例としては接客・サービス業で、飲食店、スーパー、小売店が挙げられます。さらにコロナ禍でカスハラの標的になってしまったのがドラッグストアです。昨春、トイレットペーパーやマスク、アルコール消毒液が店頭から消え、店先には連日長蛇の列ができました。私自身も、長時間並んでいたお客さまが、ご自身の前の方で売り切れてしまったときに、やり場のない怒りを店員にぶつけているところを目撃したことがあります。ストレスがたまるコロナ禍は、カスハラを引き起こしやすい状況といえます。

悪質クレーマーよりカスハラの方が厄介?

―物やサービスを提供する業種、それも直接人と接する業態でのカスハラ被害が多いということですね。では逆に、カスハラをする人の共通点は何かあるのでしょうか。

山田 コロナ禍では性別や年齢に関係なくカスハラは増加傾向にありますが、それでも多い層が団塊の世代です。それも会社で高い地位にいた人に多く、退職後に押し寄せてくる疎外感や、築いてきた実績からくるプライド、自己主張しないと損するなどの負の感情が、カスハラとして爆発することがあるようです。

―悪質クレーマーとカスハラは何が違うのですか。

山田 一見同じようですが、整理すると全く違います(表1参照)。最大の違いは、カスハラをするのはお客さまであり、突発的に感情が爆発して歯止めが効かなくなっている点です。一方、悪質クレーマーは金銭目当てで、計画的に組織だって行われることがあります。

―見分ける方法はありますか。

山田 一つには「どうしてくれるんだ」を3回連発したら悪質クレーマーと判断して間違いありません。その他、悪質クレーマーの常套句(じょうとうく)としては「社長を出せ」「誠意を見せろ」などがあります。具体的な要求は刑法(表2参照)に触れることを知っているので、具体性を欠いているのが特徴です。そして激怒しているようでいて、意外と冷静です。

―返金や賠償金などのお金で解決するという対処については、どう思われますか。

山田 業務に支障が出るのを恐れて、いくらか包むケースは多いようです。しかし、組織化されている場合ですと同じ手口で別の人間が来店したり、系列店で同様の行為をしてきたりする可能性があります。悪質クレーマーには、こちらが刑法を知っていることをチラつかせると抑止効果が大きいのですが、カスハラは刑法なんてお構いなしの言いたい放題。ある意味、その場の対応としては悪質クレーマーより厄介です。

「傾聴する姿勢」と「毅然とした態度」が大切

―カスハラ対応は、まずはお客さまに感情を静めていただかないことには始まらなさそうですね。

山田 おっしゃる通りです。話の腰を折って正当性を伝えても聞く耳を持たないどころか、「話を聞かない」と解釈されて火に油を注いでしまいます。どんな理不尽な内容でも傾聴することです。「クレーム対応10カ条」(表3参照)としてまとめたうちの1〜3を初期対応では徹底して下さい。「言い訳」「反論」「責任転嫁」「苦し紛れ」は絶対せずに、「きちんと聞いている」という姿勢をしっかり見せることが大切です。逆にこれを怠ると、後でご説明しますが二次クレームに発展しかねません。

―黙っているのをいいことに、要求がエスカレートしませんか。

山田 弱腰な態度ではそうなるかもしれません。傾聴し続けて、カスハラであること、お客さまが何を目的としているかを冷静に見極めたら、毅然(きぜん)とした態度でできること、できないことをはっきり伝えることです。と、口で言うのは簡単で、行動に移すのは難しいことは承知しています。しかし、従業員の通常業務が滞るばかりか、店や企業のイメージダウン、対応した従業員の精神的なダメージも相当です。毅然とした態度で迅速に対応することが望ましいです。

―精神的なダメージとは具体的にどんな症例があるのでしょうか。

山田 その場でパニックを起こしてしまうというケースもありますが、カスハラ対応後に、うつ病やトラウマ、心身症、PTSDといった深刻な精神疾患や、消化性潰瘍、高血圧や気管支喘息(ぜんそく)の悪化などが見受けられます。

―ますます毅然とした態度が難しく感じます。

山田 カスハラに悩む現場には、「誰も助けてくれない」という声があります。上司や先輩、同僚など誰からもフォローしてもらえず一人で対応している。この状況をまず改善することです。個人の責任として押し付けるのではなく、複数で対応したり、専門部署を設けるなどの体制づくりが急務です。

ストレスから従業員を守るルールとシステムをつくる

―カスハラを精神論で乗り切るのではなく、システム化して対応するということですか。

山田 そうです。マニュアルとサポート体制を整えて、従業員個人の問題にしないことです。さらにメディカルケアがあれば、会社に守られている安心感から、従業員の負担が軽くなります。そして情報の共有も欠かせません。カスハラが発生したときの対応人数、場所、受け応えなどの規定を設けましょう。発生状況を迅速に社内で共有し、データやノウハウを蓄積することで、独自のカスハラ対策が構築できます。

情報共有には、「クレームカード」(図1)を作成するのも一考です。このカードに①内容、②経過・対応、③クレームの原因、④今後の対策を記入し、いつでも誰でも閲覧できるようにします。ルールやシステムにのっとったカスハラ対応ができれば、従業員の心持ちもだいぶ変わってきます。

―マニュアル作成時に、押さえておきたいポイントはなんですか。

山田 悪質クレーマーもカスハラもよく「社長を出せ」「責任者を出せ」と言いますが、重大な過失や損害は別として、社長や責任者を出さないのが鉄則です。社長業にクレーム処理はありません。顧客に「私がここを任されています」と伝え、どうしても収拾がつかなければ複数、または上司に入ってもらうか代わってもらうかします。カスハラは原則、現場で対処しますが、深刻化する場合は専門家、弁護士の意見を仰ぐのも方法です。しかし、現場で「弁護士」「被害届」という言葉を口にするだけでも抑止効果があります。

―どのタイミングで、どう使ったらいいのでしょうか。

山田 相手の言い分を傾聴し、謝罪して丁重に対策、提案を説明してもいっこうに聞く耳を持たずに20分経過するようでしたら、こちらのペースに持ち込んで決着させます。「どうしてもご納得いただけないようでしたら致し方ありません。被害届をお出しください(または弊社の弁護士が対応いたします)」と伝えてみてください。お客さまが引き下がることがよくあります。

親会社や元請け、SNSのカスハラ対策術

―対顧客ではないカスハラもあるそうですね。

山田 はい、親会社や元請け会社のカスハラで悩む中小企業は多いです。理不尽な要求に泣き寝入りして、業績が赤字に転じて倒産では本末転倒ですが、多発しています。見方を変えれば、ここにしかもう頼めるところがないという親会社や元請け都合の場合もあります。自社ルールやシステムにのっとって対応し、製造業でしたら併せて独自の技術という〝強み〟を持つことも大切です。また、関係にヒビが入らないように注意する必要はありますが、優越的地位の乱用、独占禁止法違反による不利益が発生していることを説明することも時には必要です。

―相手が特定できないSNSによる誹謗(ひぼう)中傷にはどう対応したらいいでしょうか。

山田 反応しない、が最善の対応です。運営会社に投稿した人の特定と削除を依頼するのはいいですが、本人に返信するのは逆効果でしかありません。SNSには無反応、目の前で起きたカスハラは相手を気遣う。これが基本姿勢です。

―確かに一般的なクレームが、従業員の対応の悪さで、よりやっかいなカスハラに発展してしまうことがありそうです。

山田 それが二次クレームです。お客さまへの対応が不適切であったために、お客さまを怒らせて感情論に転化させてしまうのです。二次クレームの対応に6時間かかり、業務が丸一日滞ったというケースもあるほどです。対応次第でカスハラを誘発する可能性があることは、ぜひ知っておいていただきたいです。

誰も傷つかないように再発防止と未然防止に注力

―カスハラが起きたときの対策のほかに、起きないようにする方法としてどんなものがありますか。

山田 再発防止と未然防止の二つの考え方があります。まず再発防止からご説明しますと、よく経営者の方から耳にするのが「この手のクレームは、この業界につきものなんですよ」という言葉です。これは再発防止に手を打っていない証です。一度起きたクレームに対する反省と原因究明、そして改善。この蓄積で再発を防ぎます。具体策としては、先ほど申し上げたクレーム対応マニュアルの作成とクレーム報告書カードなどの活用があります。担当部署やトップだけではなく、全ての部署が知ることでクレームの分析力、応用力を付けていけます。

―カスハラにはなるべく現場で対処し、情報は全社で共有するということですね。

山田 そうです。次に未然防止策としては、社内の各部署間での相互業務点検や、同業他社のカスハラ対策のリサーチ、「お客さまの声」を集めるシステムの構築、そして警告ポスターの掲示などがあります。ポスターの掲示では、医療機関の「院内での暴言・暴力、悪質クレームなどの迷惑行為には警察と連携して対処しています」と書いたポスターが一定の効果を示しているようです。

またクレーム対応に一定の方針を打ち出した業界も出てきました。その一例が、菓子メーカー約150社からなる日本菓子BB協会です。不良品として商品の交換を求められても、現物が示されなければ応じないことを申し合わせています。昨秋には厚生労働省が対応マニュアル策定に向けて1700万円の来年度概算要求を計上するなど、業界レベル、国レベルでの動きが見られるようになってきました。

ロールプレイングでアドリブ力を付ける

―カスハラが認知されることで、カスハラそのものの抑制効果になりそうですね。

山田 それは大いにあります。セクハラやパワハラのように迷惑行為をする側が自覚するようになれば減少に向かうでしょう。しかし、カスハラは急増中ですから各社、各店舗の対策は必須です。そこで是が非でも身に付けてほしいのが「アドリブ力」です。マニュアルだけに頼らず、マニュアルをベースに柔軟に対応できるアドリブ力こそ、カスハラ対策の要です。

―アドリブ力を付けるにはどうすればいいでしょうか。

山田 社内でロールプレイングを実施することをお勧めしています。マニュアルで覚えた知識を、擬似体験を繰り返して身に付けていくのです。店員役とお客さま役の両方を演じることで、お客さまへの理解度が高まり、クレーム対応の苦手意識が解消されて自信が付くという効果もあります。最初は照れてぎこちないやり取りになるかもしれませんが、評価する第三者を立ち合わせて回数を重ねるとアドリブ力は格段に上がっていきます。

カスハラは、今、大変多くの業界で頻発(ひんぱつ)しています。適切な対応とともに、再発防止、未然防止に配慮することが、そのまま企業、店舗のイメージアップにつながります。ピンチはチャンスとよく言いますが、カスハラで好感度を上げるぐらいの気概を持って、ぜひ取り組んでいただけたらと思います。

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