宮城県大崎市
船乗りに正確な地図と羅針盤が必要なように、地域づくりに客観的なデータは欠かせない。今回は、宮城県北西部に位置し、古くから交通の要衝であった旧・古川市と周辺6町が合併して発足した、緑豊かな人口約13万人の大崎市について、まちの羅針盤(地域づくりの方向性)を検討したい。
電子部品・デバイスに依存する地域経済
大崎市は、世界農業遺産である江合川・鳴瀬川流域の水田農業地帯「大崎耕土」で知られている。巧みな水管理を柱に、生き物との共生などとのつながりが生み出す持続可能な農業システムが評価され、2017年に認定された。当市の経済を見ても、「農業」「林業」が域外から所得を稼ぐ移輸出産業となっており、地域の特徴を表している。
ただ現在、地域を支えている産業は「電子部品・デバイス」である。震災前後(2010↓15年)で、GRP(地域内総生産)が大幅に拡大(3445億円↓5039億円)したが、工場増設などで電子部品・デバイスの生産が急増(98億円↓3067億円)したことが要因であり、15年時点で、GRPの2割、純移輸出額(地域の貿易黒字)の4割、雇用者所得総額の3割弱を占めている。一方、移輸出産業の数は39業種分類中、12↓5業種と大幅に減少するなど、地域の稼ぐ力の基盤は衰えている。
また、人の流れを見ると、地域住民は平日・休日とも域外へ出かけるが、他方、県内から多くの来訪者を集めている。日常的な買い物に適した商業施設が多いこと、休日は鳴子温泉地域など魅力ある郊外の誘客があることなどから、域外から消費を獲得しているが、GRPの拡大による雇用者所得の増加に伴い地域住民の域外消費が増えてしまい、民間消費は流出へと転じている。
今や当市の経済は、地域の特徴を生かした内在的発展ではなく、自分達ではコントロールできない「電子部品・デバイス」に依存している状況といえよう。
エリアマネジメントの構築を
こうした中で進められているのが古川七日町西地区の再開発で、都市機能を集約しつつ商・住共存の便利なまちを目指している。隣接する市役所建て替えと合わせ、エリア全体で生まれ変わることが期待されているが、地域を挙げて稼ぐ力を向上させるエリアマネジメントが見えてこないことが気掛かりだ。例えば、駅からの導線上にある商業施設や、対角線上にあるイオンタウン、産直販売を行う近隣の道の駅などとの連携は誰が担うのか。
コンパクトシティとは、都市機能の集約だけではなく、資源の最適配分によって地域の経済的・社会的価値を最大化しようとする「地域経営」でもある。
当市の経済を持続可能なものとするためには、域外へと漏れている消費を取り戻し、その上で、地域資源を6次産業化などで消費ニーズに適合させて提供する「地商地産」の推進が求められる。再開発を契機に市街地で経済の好循環を生み出し、その循環の輪を郊外へ、市内全域へと広げていく(つなげていく)イメージだ。また、PARK―PFIなど公共空間の民間活用推進も喫緊の課題である。合併などで余剰となった公共施設の有効活用のみならず、コロナ禍で避けるべき過剰な密の回避にも寄与するであろう。
いずれも地域の多様な主体がつながって取り組む必要がある。また、人口減少などで厳しさが増す地域社会経済の環境に対応していくためにも、行政と商工会議所が中心となって地域経営の司令塔となる組織・体制の構築を図り、知恵と努力を結集できるようにするべきであろう。
大崎耕土は、厳しい自然環境にさまざまなつながりで対応することで持続可能な農業を実現し、レジリエントな地域経済循環を構築している。こうした大崎耕土の精神をまちづくりにも活用し、市街地を起点に市域に広がる経済の好循環を生み出すこと、そのためのエリアマネジメント体制を構築すること、それが大崎市の羅針盤である。
(DBJ設備投資研究所経営会計研究室長、前日本商工会議所地域振興部主席調査役・鵜殿裕)
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