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アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 ミャンマーにみるアジアの政治リスク

経済成長で急激に近代化されるヤンゴンの市街地

ミャンマーで国軍がクーデターによって、アウンサンスーチー政権を倒し、再び軍政に戻った。アジアの「期待の星」として日本企業が進出を加速させていたミャンマーの未来は再び暗雲に包まれた。国軍は総選挙をやり直して、民政に戻すと主張しているが、その可能性はほとんどない。事実上の軍政が続くか、米欧、日本などの厳しい制裁と国民の反軍政デモで、軍政が倒されるかのいずれかだろう。混乱の拡大、長期化は必至である。

国際世論の圧力で、2010年以降、民主化の道を着実に歩んできたミャンマーで歴史の逆行が起きたのは、米中冷戦がアジアを覆い始めたためである。ミャンマー軍政は米欧日などから制裁を受けても、中国陣営で経済的に生き延びることができると読んだ上で、行動に出た可能性が高い。1950年代以降、米ソ冷戦のなかでアジアでは朝鮮戦争、ベトナム戦争など代理戦争や両陣営の対峙(たいじ)が90年まで続いた。歴史は一方の陣営の盟主をソ連から中国に変えて繰り返すことを想定しなければならない。

ミャンマーには最大都市のヤンゴンとその郊外のティラワ経済特区(SEZ)に中堅・中小企業も含め400社以上の日本企業が進出しており、工場の操業や事業運営に影響が出ている。軍政側は外国企業の活動を平常化することで、世界にクーデターの正当性と国内の安定をアピールしようとするだろう。

だが、一度民主化の果実を得た国民が軍政を受け入れることはなく、さまざまな面で外資のビジネスは影響を受ける。各国が制裁に動けば、原材料の調達、製品輸出はもちろん資金の移動にも厳しい制限がかかる。輸出型であれば他国の拠点への生産移管、状況によっては撤退も視野に入れる必要がある。ミャンマー国内市場中心のビジネスでは需要は続くが、輸入する製品、原料が従来通り調達できるのか、代金決済も含め再検討せざるを得ない。

これはミャンマーだけの話ではない。民政であっても強権的な国家や2014年のクーデター後、軍政が事実上続いているタイでは起き得ることだ。米中冷戦の激化はアジアの政治環境を劇的に変え、政策の継続性やビジネス環境の安定性に大きな不安を生じさせている。かといってアジアは中小企業にとって成長の場であることに変わりはない。大波に耐える忍耐力、先を読む知力、素早く行動する胆力が問われる時期であり、ここを乗り切った会社に未来がある。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門

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