日本商工会議所は3月18日、「第5次社会資本整備重点計画案、第2次交通政策基本計画案に対する意見」を取りまとめ、国土交通省に提出した。意見書では、「自然災害の頻発・激甚化とコロナ禍は、これまでの社会・経済構造の転換を迫っている」「社会・交通インフラの整備は、こうした危機と構造転換に即していなければならない」「暮らしやすい地域をつくり、経済の好循環を支える基盤整備を実現するには、地域・民間の主体性や工夫を積極的にくみ上げようとする国・行政側の強い意志が必要である」という基本スタンスを提示。政府が両計画を策定するに際し、重視すべき事項と地域・事業者目線で必要性の高い政策を示し、自然災害の頻発・激甚化とコロナ禍で顕在化したリスクの解消に向け、地方・地域の機能強化などを訴えている。
第5次社会資本整備重点計画案 [重点目標1] 防災・減災が主流となる社会の実現
第2次交通政策基本計画案 (C)災害や疫病、事故など異常時にこそ、安全・安心が徹底的に確保された、持続可能な交通の実現
計画案の中でより重視したい事項
■企業経済活動の早期回復に資する社会資本整備
・わが国が災害多発国であることを踏まえ、大規模災害にあっても、人流・物流機能がしっかりと維持される社会資本の整備を図っていくべきである。
・気候変動が引き起こす風水害の激甚化・頻発化、連動海溝型地震などをも視野に入れ、最新の科学的知見に基づいて、被害想定と備えを不断に見直し続けるべきである。
・整備に当たっては、被災地域の救援や市民生活の維持のほか、経済活動の再開や、企業サプライチェーンの回復を早期に達成することも、目標として位置付けるべきである。
■経済リスクに強靭(じん)な国土構造構築に資する社会資本整備
・さまざまな経済リスクに対して強靭な多核連携型国土の形成を、社会のインフラ面においても積極的に推進すべきである。
・国家の危機管理の観点から、首都直下地震や風水害、パンデミックなど首都に有事があった場合に、機能バックアップができる地域インフラの整備強化や代替となる物流・人流網(太平洋側と日本海側の連携強化等)の整備等一極集中の是正をしていくべきである。
・政治・経済機能や人口、生活インフラの過度の集中に伴うリスクを減少・回避するため、誰一人取り残さない「命の道」の確保がなされるよう、国土を俯瞰した戦略的なインフラ整備を、未整備地域も含め促進すべきである。
・わが国には気象庁が監視する50の常時観測火山があるが、事前防災対策が十分ではないことから、対策強化が必要である。
地域・事業者目線からの提案事項
■民間主体の防災・減災対策への支援
・ハードとソフトが一体となった防災・減災体制(地域BCM)確立のため、民間企業や事業者団体の共助への支援や、行政との協力強化を図るべきである。
・官民一体で災害時業務継続地区(BCD)でのエリア防災を推進し、災害時の業務継続・早期回復を期するほか、災害対応に重要な民間事業(建設・電気・ガス・水道・通信・情報・物流等)のレジリエンス強化を最重点課題とすべきである。
・災害時の業務継続・早期回復を支える民間事業者と行政部局をシームレスに連携する、災害情報システムを整備すべきである。
■流域防災を企図した道路・橋梁等のハード整備
・台風や豪雨災害被害の激甚化・広域化に伴い、水防政策は河川治水から流域治水への転換が図られつつある。
・ダム放水時に流路と想定される区域においては、交通・生活機能を守るという目的の下に、道路・橋梁等整備が省庁内管轄の縦割りの弊害なく実施されなければならない。例えば、道路・橋梁等の構造物を有事の浸水を前提として耐え得るように整備すべきである。
■地域間の共助体制確立に対する支援
・大規模災害発生時においては、隣接のみならず、広域にわたった共助体制が有効である。
・行政においては、災害協力協定企業を融通し合うなど、市町村レベルから都道府県レベルに至るまで、災害時の共助体制の構築を推進すべきである。
・民間における広域BCM連携について支援すべきである。
■地域経済の早期復旧拠点に対する支援
・災害時には、被災企業の事業再開・継続に向けた資金繰り等の支援施策や、経営相談の拠点等、経済機能の早期回復を担う役割が重要である。
・各地商工会議所は、大規模災害時に「特別相談窓口」を設置し、被災企業の経営相談への対応や支援策の周知・活用支援を行うなど、地域の社会経済活動の維持に欠かせない役割を担い、被災企業に寄り添った支援を実施している。
・このため、商工会議所会館など地域経済中核施設の強靭化が重要であり、耐震化や建て替え等の支援拡充をお願いしたい。
第5次社会資本整備重点計画案 [重点目標2] 持続可能なインフラ・メンテナンス
計画案の中でより重視したい事項
■地域を守るインフラ・メンテナンスの担い手の確保
・生活や産業の基盤インフラを経年劣化や災害から守るインフラ・メンテナンスは重要課題であり、効率的・効果的な取り組みが着実になされる必要がある。
・平時・緊急時のインフラ修繕が確保されるよう、国としても、計画的な事業実施方式の改善や各種支援実施を通じて、各地域の建設産業における新技術導入・設備投資を促進し、生産性や対応能力の向上を確実にしていくべきである。
・公共交通等の運輸分野においても、予防保全の枠組みの導入を促進すべきである。新設の工事だけではなく、計画的かつ安定的な設備更新が継続されるよう支援すべきである。
■建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及促進
・建設業における人手不足解消と中長期的な担い手確保は重要課題である。技能労働者に加え、技術者においてもキャリア展望の形成に役立つ業界横断的な共通基盤として、CCUSの導入促進を積極的に行うべきである。
地域・事業者目線からの提案事項
■地域インフラのマネジメントへの地域企業の参画推進
・地域の小規模・中小事業者に対し技術導入支援を行い、予防保全、メンテナンス分野の担い手として育成すべきである。
・行政の財源・人材がひっ迫しつつある状況では、従来行政が担ってきた地域インフラのマネジメント業務を、地域の建設企業等が代替できる仕組み(包括的民間委託)について地域の実情に応じて推進すべきである。
・平時・緊急時のインフラ修繕が困難となっている地域があるので、地域インフラのマネジメント業務を地域企業が安定的かつ着実に実施していくための適切な事業者選定・確保手法がないか検討していくべきである。
■建設業・運輸業における取引適正化推進
・経営基盤がぜい弱な下請け企業に費用や働き方改革のしわ寄せが生じることのないよう、工期・配達期限の設定や支払い等の適正化を推進すべきである。
第5次社会資本整備重点計画案 [重点目標3] 持続可能で暮らしやすい地域社会の実現
第2次交通政策基本計画案 (A)誰もが、自ら運転しなくても、より快適で容易に移動できる、生活に不可欠な交通の維持・確保
計画案の中でより重視したい事項
■地域の足である公共交通の維持やその代替の確保
・バス等の地域公共交通について、独禁法適用除外による共同経営等、競争から協調への転換をさらに進め、通勤・通学・買い物・通院等の足を守るべきである。
・安定性・生産性向上支援のほか、地方独自の交通対策が可能となる交付金制度の導入や、急激な需要減を支える財政支援(施設使用料減免や運営会社支援等)を行うべきである。公共交通事業者に対する金融支援の充実や、公租公課の減免も効果的である。
・コロナ禍により一段と経営に苦しむ鉄道・バス・離島航路・コンテナ船・クルーズ客船などの公共交通事業の継続に向け、公的支援を十分に拡充していくべきである。
・鉄道の存続困難地域でのBRT導入やバス転換、バス・タクシー・宅配便等のドライバーが不足する地域では、自家用有償旅客運送や貨客混載便の導入を支援すべきである。
■地域経済を支えるMaaSの促進
・都市部におけるバリアフリーや混雑回避、過疎地におけるオンデマンド移動や、観光地における周遊促進と観光消費増加、地域の物流機能維持といった、利用者目線の交通サービス提供を実現するMaaSの取り組みに対して、積極的な支援をお願いしたい。
■まちの拠点性や、歩行者優先のまちを支える交通ネットワークの整備
・公共交通に加え、自転車やLRT、配車サービス等、多様な交通選択肢を持つことで、まちを歩行者優先とする各種施策を推進していただきたい。
・まち中心部の拠点性を高める、バスタプロジェクト(集約型公共交通ターミナル)の積極展開を図られたい。
■コンパクトなまちづくり促進
・中心市街地に医療・福祉・商業等の生活サービス機能や居住の集約を図り、都市機能のスプロール化の抑制を行うべきである。立地適正化計画を効果的に活用しコンパクトなまちづくりを推進していくべきである。
・都市の公園・緑地・街路・河川敷・空地等、建築物に覆われていない空間(オープンスペース)を住み心地や景観の向上、にぎわいづくりに活かす施策の推進を図るべきである。
地域・事業者目線からの提案事項
■オフピーク通勤の一層推進
・時差通勤等の「時間に縛られない」働き方は、コロナ感染リスク低減や多様な働き方の推進に加え、公共交通事業者の経営リソース適正配分にも資するなど、いくつものメリットが存在しているため、企業文化の改革として政府が積極的に推進していくべきである。
・ダイナミック・プライシングだけではなく、地域事情、輸送モード事情に即した柔軟な料金体系が可能であるか、議論を深めていくべきである。
■アフターコロナの新たな価値観を反映した豊かな暮らしを実現するインフラ整備の促進
・コロナ禍で広がった新たなライフスタイルや価値観は、真の豊かさに向かう世界的な流れの変化と前向きに捉えていくべきである。社会資本整備やまちづくりにおいても、アフターコロナの新たな価値観を踏まえる必要がある。
・オンラインの働き方やスマート技術により、健康的で時間的余裕のある職住近接の地方居住が可能になった。これを地方創生や、人口減少・少子高齢化の克服機会として積極活用すべきである。
・全国各地の歴史・文化資源や農山漁村資源、自然資源を産業発展のほか、学び、レクリエーション、子育て、環境保護などの社会的価値発展に生かすインフラ整備が必要である。
■まちなか再生に向けた低未利用地活用推進
・都市計画の在り方や都市開発事業の方式において、新たに確立した所有者不明土地管理制度としっかりかみ合った効果的な不在者所有財産の対処法を確立していく必要がある。
・所有者不明や所有者不在等、公共事業・民間開発の双方において開発の障害となっている権利処理費用負担について、財政的解決を含めた手法の検討をお願いしたい。
第5次社会資本整備重点計画案 [重点目標4] 経済の好循環を支える基盤整備
第2次交通政策基本計画案 (B)我が国の経済成長を支える、高機能で生産性の高い交通ネットワーク・サービスへの強化
計画案の中でより重視したい事項
■円滑な物流・人流を支える交通ネットワーク整備
・安定的人流・物流を支え、民間投資の誘発効果が高い道路ネットワークの整備や、サプライチェーン国内回帰を支えるインフラの整備を推進していくべきである。
・経済・防災両面に資する高規格幹線道路のミッシングリンク解消や高規格幹線道路と国道を組み合わせたダブルネットワーク化、暫定2車線区間の4車線化を推進すべきである。
・主要な空港・港湾・鉄道駅などの交通拠点と物流拠点や工業団地、観光拠点、MICE施設等への速達性とアクセス性の確保により、地域経済の向上を図るべきである。
地域・事業者目線からの提案事項
■多核連携型国土と地域の機会創出を支える基盤整備
・東京一極集中から、人・モノ・情報が双方向で行き交う、多核連携型の国土構造に転換していくべきである。
・多様な魅力や資源を有する各地域同士が連結し、地方と都市部が双方向で成長するほか、国内他地域や世界との接続により、地域産業の新しいビジネスやイノベーションの機会創出の促進に資する交通ネットワークを実現するべきである。
・特に交通ネットワークの便益が十分に行き渡っていない各地域に対し、格別の配慮をお願いしたい。
・コロナ禍で大きな打撃を受けた宿泊・飲食・娯楽・小売の需要回復のため、地域内外とのアクセスの維持・拡充する交通ネットワークの整備を図るべきである。
・整備新幹線の整備促進、新幹線の基本計画路線から整備計画路線への格上げを検討すべきである。
■地域企業が中心となったPPP/PFI推進
・地方創生を加速するためにはローカルファーストの視点による地域づくりが不可欠であり、PPP/PFIをその切り札の一つとして捉えていくべきである。
・持続可能な地域経済を実現するため、地域の特性を熟知した地域企業が代表企業等として参画しやすい形のPPP/PFIを推進していくべきである。
・VFM(直接的金銭価値)のみに囚われない地域貢献価値(地域経済の好循環、地域日常ニーズ充足・相乗効果を生む施設複合化の自主提案、地域アイデンティティとの合致等)を期待した「地域主導型PFI」の推進に向け、具体的な取り組みの検討、実現をお願いしたい。
・PFI地域プラットフォームに積極的に地域経済界を加え、将来のPFI候補につき地域の意欲・実施能力をサウンディングする等、各地域における長期計画での「地域主導型PFI」形成を支援していただきたい。
■公共事業評価における新たな評価手法の確立・導入
・地域主導型PFIの推進に実効性を持たせるため、公共事業の評価において、単純なB/C(費用便益比)にとどまらず、地域産業の発展や、地域経済活性化という視点を考慮した新たな評価手法の確立を図られたい。
・また、環境や文化といった非金銭的価値についても積極的に評価していただきたい。
・さらに、多面的な行政効果(クロスセクター効果)や、各地点が接続されることで人流・物流の活発化、製造・流通・観光における波及的効果が生み出される「ネットワーク効果」についても、積極的な評価を行っていくべきである。
第5次社会資本整備重点計画案 [重点目標5] インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション
計画案の中でより重視したい事項
■車両運行・施設3D情報・地図基盤等のビッグデータ活用
・ETC2・0車両運行履歴や道路3次元データ、地図基盤データ等のデータ連携を実装し、特車通行許可等の手続迅速化や、RESAS・APIによる一般への提供等、交通ビッグデータの高度化や利活用を推進されたい。併せて、現状、アナログで確認されているインフラスペックの早期電子データ化を進められたい。
地域・事業者目線からの提案事項
■地方や中小事業者におけるデジタル・トランスフォーメーション基盤整備
・中小建設業における「i-Construction」の導入につき、費用負担や入札方式工夫等、インセンティブを講じられたい。
・導入費用が低廉で広く普及が可能なデジタル・トランスフォーメーション技術の開発・試験・導入を行う企業に対し、政策的支援を積極的に行うべきである。
・防災気象情報と民間の被害予想・速報、官民の対応可能リソースのリアルタイム共有体制を構築し、早期の地域経済回復を確実にすべきである。
第5次社会資本整備重点計画案 [重点目標6] インフラ分野の脱炭素化・インフラ空間の多面的な利活用による生活の質の向上
計画案の中でより重視したい事項
■インフラ空間の利活用と理解促進、グリーン・インフラ導入
・長期に経済的・社会的効果をもたらす社会資本を十全に活用するため、地域資源の観光活用としてインフラツーリズムを推進し、整備の社会的合意や収益の獲得を推進すべきである。
・環境対策・洪水対策・景観・余暇活動利用等、多様な効果を生むグリーンインフラについて、官民連携の取り組み推進や評価方法の確立等を通じて定着させていくべきである。
地域・事業者目線からの提案事項
■分散型エネルギーインフラ構築支援
・地域特性に即した域内エネルギー(再生エネルギー・バイオマス・地中熱・地下水熱・排熱(コージェネ)・水素等)の導入や、系統電力と域内エネルギー・蓄電池・電気自動車等を組み合わせた面的な地域エネルギーのマネジメント導入等、地域防災と地域経済循環が両立するスマートな分散型エネルギーインフラの構築を支援していただきたい。
■地方創生と地域循環共生圏の同時実現に向かう中小支援策
・脱炭素社会移行、地方創生と地域循環共生圏の同時実現のため、インフラ・都市整備分野における再エネ活用・省エネ導入を進める中小事業者への支援や、それに資する技術の研究開発や設備投資に対しての支援が必要である。
(2021年3月18日)
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