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真壁昭夫の経済底流を読み解く 脱炭素で大変革期を迎える自動車産業

現在、世界の主要国は一斉に脱炭素化に向けた取り組みを進めている。その背景には、これまでの炭素中心のエネルギー政策によって、地球温暖化などの弊害が鮮明化していることがある。わが国や欧州連合(EU)などは、2050年にカーボンニュートラルの実現を目指す。主な取り組みの一つとして、各国は脱炭素型の電気自動車(EV)などの開発と普及を重視している。

ガソリン・エンジン搭載車から、リチウムイオン電池などを搭載したEVへのシフト(以下、EV化とする)が主要国の経済に与える影響は大きい。主要国経済にとってエンジンをはじめ3万点もの部品の精緻なすり合わせが必要な自動車産業は、雇用や設備投資を支えてきた。EVの場合、数え方にもよるが必要な部品点数は6割程度に減り、技術面の参入障壁は低下する。よって、自動車産業への新規参入が増え、米中の大手IT先端企業などがEVの設計・開発に取り組んでいる。わが国でも、EV開発に取り組む企業は増えている。

加えて、気候変動や大気汚染などへの対応のために、自動車の脱炭素化の重要性も高まり、その取り組みとして、欧州、米国、中国、韓国などの自動車メーカーはEVを重視している。特に、わが国の自動車メーカーが強みを発揮してきたハイブリッド自動車(HV)技術で後塵を拝した、ドイツや米国の大手自動車メーカーにとって、EV事業の強化は、世界の自動車市場においてわが国自動車メーカーからシェアを奪還する、またとないチャンスといえる。

20年12月に、EUは中国と包括的投資協定を結ぶことで大筋合意した。その主な狙いは、中国の自動車需要をしっかり獲得するためといわれている。排気ガス不正問題が起きたドイツにとって、中国のEV重視は自国の自動車産業の信頼回復と、政治・経済面で欧州への影響力強化を目指すチャンスだ。米国や欧州域内からも協定への懸念が示されたが、実利を重視するドイツの意志は強い。

EV化への対応のために、業界の再編も進んでいる。フランスのPSAとフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)が経営統合して誕生したステランティスは、エンジンへの投資は控え、EVやプラグイン・ハイブリッド自動車(PHV)の拡充を優先する。

コロナショックからの業績立て直しのためにも、自動車メーカーの合従連衡は増加するだろう。また、EV化とともに自動車産業への新規参入が増加し、自動車の設計・開発と生産の分離の兆しも出始めた。EVの設計と開発に取り組むIT先端企業は増えており、わが国では電機メーカーもEVの試作車を開発した。また、米国の有力ITプラットフォーマーの中にもEV開発に取り組む動きもある。世界の自動車産業は、大きな変革の局面を迎えている。

今後、長い目で世界のエネルギー源を考えると、選択肢の一つに水素がある。20年6月、米国で水素を用いた燃料電池を搭載したトラックを開発する、自動車メーカーが注目された。燃料電池に関する技術面の不安を指摘する投資家は多いものの、これからの展開に対する期待は高い。特に、大型で走行距離の長いトラックにとって、水素は動力源として注目されている。世界経済のDXの加速によって物流の重要性が高まる中、水素を用いた燃料電池車(FCV)の利用増加は、より良い物流と環境価値の両立を支えるだろう。FCVに関して、わが国の技術はかなり進んでいる。

自動車産業の今後の展開については、脱炭素化のためのEV開発よりも、環境負荷のより小さいエネルギー技術と自動車の結合という視点で捉えたほうがよいかもしれない。わが国企業に求められることは、EVを含め、より大きな環境価値やユーザー満足度を支える自動車の開発に取り組み、持続的かつ循環型の経済活動を目指すことだ。そのために、政府は水素やアンモニア、再生可能エネルギーなどの活用に向けて政策面からのサポート強化が必要になりそうだ。 (3月15日執筆)

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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