事例1 “持続可能な観光”で地域を元気にするキーワードは「高付加価値化」
やまとごころ(東京都新宿区)
インバウンドに特化した事業を展開しているコンサルティングファームのやまとごころ。インバウンドビジネスに携わる企業や自治体に、培ってきた知見やネットワークを生かしたサービスを提供し、業績を伸ばしてきた。ウィズコロナのインバウンドビジネス、その先を見据えた地域振興に「勝機あり」と読む。
インバウンド増加の時流に乗って事業拡大
国内最大級の観光総合情報サイト「やまとごころ・jp」を運営しているやまとごころは、2007年の創業当初からインバウンドを主力に、観光ビジネスに関する情報やサービスをワンストップで提供し続けてきた。
創業者である代表取締役の村山慶輔さんは、世界最大級のコンサルティングファーム、アクセンチュアでの約5年間の勤務を経て29歳で独立。日本の良さが海外に伝わっていないという実体験から、日本と海外をつなぐ観光業に着目し、「インバウンド」という言葉が広まる前から事業の柱としてきた。
1964年から始まった国の統計調査によれば、オリンピックの開催地が東京に決まった2013年、インバウンドが初の1000万人を突破した。これを機に潮目が変わる。年間10本以下だった村山さん自身の講演数も100本以上に跳ね上がり、今では内閣府観光戦略実行推進有識者会議メンバー、観光庁最先端観光コンテンツインキュベーター事業委員としての顔も持つ。インバウンド戦略アドバイザーとして企業や自治体からの信頼は厚く、日本の観光業、とりわけインバウンド業界からのコロナ禍、コロナ後に関する相談依頼はひっきりなしだ。
「量」から「質」へブランド力の向上が肝
「今後のことを大枠で語れても、正確なことは誰にも分かりません。状況は刻一刻と変わり、計画を立てても簡単に覆ってしまう可能性すらあります。しかし一つはっきり言えるのは、観光は人にも社会にも必要不可欠だと感じている人が少なくないということです」
日本政府観光局によると2021年2月のインバウンドは前年同月比の99・3%減という状況で、二度目の緊急事態宣言が発令される前の昨年12月もインバウンドは壊滅的な中、延べ宿泊者数は38%減(観光庁調べ)まで回復していた。状況が緩和したとき人は動く。ではどこへ行くか。招く側として欠かせない視点がサスティナブル・ツーリズム、つまり「持続可能な観光」だと村山さんは説く。インバウンド誘致に成功した五つの地域を例に、こう続けた。
「世界屈指のスキーリゾート地となった北海道のニセコ町を中心としたニセコ観光圏は、インバウンド目線、それも富裕層に特化して中長期滞在を意識した環境が整備されています。スキー場つながりでいえば、長野の白馬や志賀高原も官民一体となって広域でのブランディングに力を入れてインバウンドを増やしました。情緒ある温泉街の野沢温泉は、キャッシュレス決済や海外カード対応のATM導入を進め、岐阜県高山市は台湾やタイに注力したプロモーション活動やWi-Fi利用者の国籍や性別、年齢やメールアドレスを収集し、後日、高山観光のアンケートを送信。ニーズ収集や分析をする地道な取り組みが功を奏しています。5地域の共通点はリピーター率の高さ。量や安さではなく、『質』を追求した地域ブランドの確立です」
旅行の期待値が上がる中で求められる地域の価値
今の日本の観光マーケティングは「穴の開いたバケツ状態」と、その脆弱(ぜいじゃく)性を指摘する。SNSやメール、DMなどを利用した来訪者との〝既存のつながり〟が観光ビジネスの明暗を分けるという。その仕組みづくりの好例として、観光で稼げる地域経営を掲げる気仙沼DMO(宮城県)の「気仙沼クルーカード」を挙げた。市内外誰でも使える無料のカードで、地元の加盟店やオンラインショップを利用するとポイントが貯まり、ポイントの失効分は地域に寄付されるというもの。ほかにも長崎県波佐見町の伝統産業、波佐見焼によるまちおこしの成功など、地域の歴史や文化の伝承も持続可能な観光の重要な着目点だという。
さらに①環境、②社会、③経済の3要素を踏まえて地域観光の再生を図り、コロナ後は「高付加価値化」がキーワードになってくると力説する。
「災害やパンデミックなど未曽有の事態になるほど、1回の旅行の総体的な価値は上がります。今度いつ行けるか分からないから、思い切って贅沢(ぜいたく)しようという発想です。日本は安全安心な国としてコロナ後も人気が高いと予想できます。提供するサービスや商品の価値を高め、それに見合った価格に再設定する。改善点を洗い出せば、観光収入の伸び代はまだあります」
仕組みを整え、高付加価値化することでリピーターを育て、増やす。新規の観光客対象の施策は最初ではなく最後と言い切った。
会社データ
社名:株式会社やまとごころ
所在地:東京都新宿区新宿2-9-22
電話:03-5312-8314
HP:https://www.yamatogokoro.jp/
代表者:村山慶輔 代表取締役
従業員:20人
※月刊石垣2021年6月号に掲載された記事です。
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