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テーマ別企業事例 コロナ禍の逆境に負けない “地域限定”飲食チェーン奮闘中!

コロナ禍により飲食業界は深刻な打撃を受けている。その一方で、地域に根差した十数店舗の小規模な飲食チェーンの中には、大手チェーンとは違った小回りの良さを生かし、さまざまな取り組みによって業績を維持しているところもある。そんな“地域限定”飲食チェーンの奮闘に迫った。

事例1 チャレンジというのは失敗するもの失敗を恐れない姿勢を貫く

サザコーヒー(茨城県ひたちなか市)

茨城県中部、人口約15万5000人のひたちなか市に本店があるサザコーヒーは、県内では大手コーヒーチェーンを上回る集客数を誇る。県内に10店舗、東京と埼玉に4店舗の合計14店舗の直営店を持つ地域限定のコーヒーチェーンだが、味にこだわりを持つ店として地元の人に愛されている。コロナ禍では一時的に9店舗が休業し、売り上げが減ったものの、本店だけは客足が鈍ることはなく、今年3月の決算は黒字だったという。

“昭和の喫茶店”らしい本店のカウンター

ケーキの売り上げが3倍、コーヒー豆も4倍に

「昨年の4月、5月は14店舗中9店舗が休業して、コーヒー豆の卸も前年比4割ほど。1カ月数千万円の赤字が2カ月続きましたが、この本店だけは大きな影響を受けませんでした」と、サザコーヒーの創業者で、現在は会長を務める鈴木誉志男さんは言う。

「また、ケーキのテークアウトを始めたら以前の3倍売れ、家庭用のコーヒー豆がインターネット販売で4倍売れて、非常に助かりました。休業した店舗が再開すると客足も戻り、今年3月の決算ではなんとか黒字になりました」

サザコーヒーがここまで支持されているのは、地元で長年にわたりコーヒーの普及に努力するとともに、販売するコーヒー豆には物語があるからだと、鈴木さんは強調する。

JR常磐線・勝田駅から徒歩7分のところにあるサザコーヒーの創業は1969(昭和44)年。現在本店がある場所にあった映画館の脇にある小さな喫茶店として始まった。映画館の館主を務めていたのが鈴木さんの父親で、鈴木さんは後を継ぐために映画会社に勤めてから戻ってきた。ところが、すでに映画が斜陽産業になっており、映画の興行だけではやっていけなかった。そこで、映画館の脇で喫茶店を始めたのだった。

「そのころの私はコーヒーについて何も知らず、若いお客さまからストレートコーヒーをくれと言われても、なんのことだか分かりませんでした」と鈴木さんは笑う。

将来、海外からコーヒー豆を買い付け、自社工場で焙煎(ばいせん)を行い、しかも南米のコロンビアにコーヒー豆の自社農園を持つまでになるのだが、始まりは手探りだった。

安価でコーヒーを提供する教室を開きファンを増やした

「私は何でもすぐ行動するたちで、次の日、モカとキリマンジャロを買ってきました。喫茶店経営の専門誌が唯一の私の教科書で、そこに、コーヒーは焼きたてのひきたてのつくりたてがうまいと書いてある。私はすぐに浅草の合羽橋(かっぱばし)に行って焙煎機を買い、自分で豆の焙煎を始めました。また、コーヒー豆の産地を知るべきだと聞くと、映画館を閉める寸前でお金もないのに、借金をして全国の喫茶店組合の人たちに連れられて海外の産地を見に行きました」

そのようにして、鈴木さんはおいしいコーヒーをつくるための研究を重ねると、今度はそれを店で出すだけではなく、コーヒー教室を開き、地域の人たちにそのコーヒーを飲んでもらった。しかもタダ同然で。

「PTAの会合や公民館など、どこにでも行きました。講師料は6000円程度でしたが、コーヒーはその3倍分は持っていきました。話は面白く、安い会費でおいしいコーヒーがいろいろ飲めるということで引っ張りだこでした。コーヒーをバンバン提供したのでサザコーヒーではなく〝タダコーヒー〟と呼ばれたほど(笑)。それを続けてきたから、茨城県ではよく知られるコーヒー屋になったのです」

それ以外にも、市民ランナーが参加する勝田全国マラソンでは毎年3000人分のコーヒーを無料提供しているほか、地域芸能の催しなどでも提供している。このような長年の地道な活動が実って、地元の人たちが来店するようになり、常連客となっていった。そして、コロナ禍でも店に足を運び続けてくれたのである。

コーヒー豆の新製品に歴史と物語をブレンドして

では、なぜサザコーヒーの豆は売れるのか。スーパーなら200g入りが500円前後で買えるが、同店の豆は1200円以上と、決して安くはない。

「うちのコーヒー豆にはそれぞれ物語があります。私は歴史を調べ、物語を考えるのが好きで、過去の文献を調べ、当時のコーヒーをできるだけ再現する努力をしてきました。それが物語になる。味の良さはもちろんですが、製品の背景にある物語が、お客さまに支持されている理由だと思います」

その一つが、サザコーヒーで人気の「徳川将軍珈琲」。これは、第15代将軍・徳川慶喜が欧米の公使たちをもてなす際に出したとされるコーヒーを、鈴木さんが当時飲まれていたコーヒー豆の種類を文献から割り出し、慶喜のひ孫である徳川慶朝(よしとも)さん(故人)と共同で再現したものである。

つい最近では、今年1月に「渋沢栄一 仏蘭西珈琲物語」を発売している。これは「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一が1867(慶応3)年にパリ万博使節団の一人としてフランスへ渡った際に、現地でコーヒーを楽しんでいたと日記に書いていたことから、鈴木さんが1年かけて当時の豆や飲み方、道具を調べ、その味を再現したものである。

このように、それぞれの製品に込められた物語をコーヒー豆の味や香りにブレンドして商品価値を高めているのである。これも、サザコーヒーの豆が支持されている理由の一つといえるだろう。

コロナ禍でも揺るがなかった努力と地元客からの信用

地元へのこだわりとしては、店内で販売するケーキに茨城産のリンゴや栗、イチゴを使用しているほか、コーヒーカップも地元の笠間焼を使っている。

「これは別に茨城愛のためだけにやっているのではありません。食はその地域の風土を表すものなので、地元のおいしいものをお客さまに出したいからです」

1年以上に及ぶコロナ禍の中ではさまざまな取り組みも行っており、昨年10月には本店で「コーヒーまつり」を4日間にわたり開催した。コロナ感染防止対策を取りながらだったが、多くの人が集まった。

「豆の在庫を一掃する目的もありました。店の前でコーヒー教室を開き、パナマ・ゲイシャという1杯3000円するコーヒーを無料で提供したので、みなさん大喜びでした」と鈴木さんは笑顔を見せる。

また、テークアウトのケーキが好調なことから新商品を開発し、明るく楽しい気持ちになってくれたらと、今年1月に「レインボーミルクレープ」を新発売した。

「コロナ禍で地方のコーヒー屋として生き延びるには何をすべきかを考えなければいけません。チャレンジというのは失敗するものですが、『失敗しないことが失敗だ』という言葉があるように、失敗を恐れずにこれからもいろいろなことをやっていきます」と鈴木さんは力を込めて語った。

地域のコーヒーチェーンであるサザコーヒーがコロナ禍でも強いのは、何十年もの努力で得た地元客の信用が揺るがなかったからではないだろうか。

会社データ

社名:株式会社サザコーヒー

所在地:茨城県ひたちなか市共栄町8-18

電話:029-274-1151

HP:https://www.saza.co.jp/

代表者:鈴木誉志男 代表取締役会長

従業員:180人

※月刊石垣2021年6月号に掲載された記事です。

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