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コラム石垣 2021年7月11日号 宇津井輝史

アフリカで生まれた人類は、ユーラシアから南米の南端までを数万年かけて歩いて渡った。やがて海は、陸と陸を隔てるものから、つなぐものに変わった。海洋が世界を変えたのは大航海時代である。ポルトガルが大西洋航路を、スペインが太平洋航路を開き、世界は海を媒介につながった。

▼日本に「大航海時代」がなかったことを嘆いたのは和辻哲郎である。国の立ち遅れをコロンブスやマゼランの精神の欠如に見た。日本人にとっての海は日本海だった。中国や朝鮮との間を隔てる海は狭く、人や物が頻繁に行き来した一方、大陸からの侵攻を防ぐには十分な広さだった。

▼日本海の反対側に茫洋と広がる太平洋は、明治以前の日本の技術では手に負えなかった。大西洋、インド洋に比べてずっと広く、格段に島が多いのが特徴である。人が住んでいるから国がある。大きな船が停泊できる港があり、資源もある。ゆえに太平洋は政治的な海洋になった。

▼第1次大戦で旧ドイツ領の島々を占領し、農耕国家の日本が初めて海洋国家をめざした。だが第2次大戦に敗れ、これらの島は国連の信託統治領として事実上米国が領有した。20世紀の米国が超大国たり得たのは、米海軍が自由貿易を支える国際公共財の役割を果たし、とりわけ太平洋の航行の自由を保障していたからである。

▼巨大なシーパワーに挑戦する国は長い間なかったが、21世紀になると中国が名乗りを上げた。太平洋を東西に分割し、西半分の制海権を獲る意図を隠さない。6月にG7は中国を牽制した。英仏も太平洋に軍艦を派遣する。だがG7で、西太平洋の制海権に直接かかわる国は日本である。海洋国家としての深い洞察力と強い意志が試される。 (コラムニスト・宇津井輝史)

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