コラム石垣 2021年9月21日号 丁野朗

観光にとって地域の文化財や文化資源の重要性は改めて指摘するまでもない。

▼昨年5月に制定された文化観光推進法は、博物館・美術館などのミュージアムを核とした地域活性化が目的とされている。本法に基づく拠点計画、地域計画は、この1年半たらずの間に40件を超えた。

▼同じく2015年に制定された日本遺産は、地域の歴史文化を個々の文化財ではなく、その背後に流れる「歴史文化の物語」として認定するもので、従来の文化財行政の考え方や手法の大きな転換を意味した。

▼従来、文化は経済の副産物といった考え方が一般的であった。巨大な古墳や城郭など、今は観光資源となっている多くの文化財は、それぞれの時代の富と権力の象徴であったからである。しかし、それは文化が経済に従属するものという意味ではない。むしろ、文化を生み出した創造性や技、人々のマインドが、新しい経済や産業を生み出すという文化と経済の好循環は、今日、ますます重要になっている。

▼大きく発展した鉱工業都市が、産業構造の転換で衰退したのち、アートの力でよみがえる例も少なくない。例えば、激甚な公害で廃墟となったスペイン・バスク地方のビルバオが、グッゲンハイム美術館の誘致によって新たな「創造都市」としてよみがえったような例は、いまや世界各地で見られる。

▼文化観光推進法では、演劇をテーマとする兵庫県豊岡市の地域計画なども認定された。城崎国際アートセンターを核とするこの計画では、アーティスト・イン・レジデンスを通じた新たな交流地域づくりの手法が模索されている。産業・都市政策を視野に入れた、新しい文化政策が不可欠の時代を迎えているものといえよう。 (日本観光振興協会総合研究所顧問・丁野 朗)

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