コラム石垣 2021年10月1日号 中村恒夫

来年に予定される韓国の大統領選では、有力候補の1人がベーシックインカム(最低限所得保障制度)の導入を主張している。日本でも選挙公約に盛り込んだ政党がある。経済弱者を支援するという点では一定の効果を見込めるだろう。一方で、政府が昨年、コロナ禍で1人当たり10万円の定額給付金を支給したものの、消費に回らずに家計の貯蓄率を増やしたことは記憶に新しい。

▼コロナ関連の給付金を巡っては、中央省庁のキャリア官僚や地方紙の記者など、不正受給者が多数摘発されている。「同業者から逮捕者が出たことで、働かずに稼げるのが楽だと考える人が少なくないと分かり驚いた」とある有力地方紙の幹部は語った。「弱者救済に注力した報道の在り方も見直す必要がある」というのだ。

▼奈良時代に制定された墾田永年私財法は、貴族や大寺院による私有地の荘園化につながったが、天然痘の大流行で疲弊した国全体を再浮揚させる目的もあったとされる。新たに開墾した土地の私有を認めることで、農民の意欲を促し、穀物の収穫量拡大をもたらした。旧ソ連や東欧の社会主義体制が崩れたのは、一党独裁に対する不満だけでなく「労働と対価の不均衡」にも原因があったのは間違いない。

▼コロナで経営が悪化している事業者や働き口を失った人たちを支援するのはもちろん重要なことだ。ただ、経済をけん引する芽を育てる責務も政府は担っていると思う。既得権益層の反発で進まない規制緩和を大胆に断行するとともに、異業種への事業転換を試みる中小企業や新規事業に挑戦するベンチャー企業に対して、十二分な支援策を講じてほしい。総選挙を経て誕生する政権にはそう期待している。 (時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)

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