真壁昭夫の経済底流を読み解く コロナウイルス感染再拡大で不確実性高まる日本経済

足元で世界的に新型コロナウイルスの感染が再拡大し、景気の先行きの不透明感が出ている。コロナウイルスの変異株は、世界経済全体にとって間違いなく最大のリスクの一つだ。一時的に感染に一服感が出たことで、楽観的な見方が台頭し、そうした景況感と世界的な金融緩和策の継続によって、米国を中心に各国の株式市場が高値圏で推移してきた。株価が上昇すると、利益確定の売りも出やすくなり、そこに変異株が追い打ちをかけたため、金融市場は一時、不安定な展開となった。

重要なことは、コロナ禍が世界経済の変化のスピードを勢いづけ、過去の経験則が当てはまりづらくなっていることだ。感染再拡大によって、経済格差やデジタル化のスピード、製造業と非製造業の景況感の差といった〝二極化〟が深刻になっている。各国のワクチン接種率に差があるため、影響は冷静に考えた方が良く、特にわが国経済を取り巻く不確実性は一段と高まっている。

コロナ禍は世界経済において格差の拡大をはじめとする経済の二極化(K字型の景気回復)を加速させた。格差自体は、コロナ以前からグローバル化によって拡大傾向をたどってきた。例えば、鉄鋼などの在来産業では、先進国から労働コストの低い新興国に生産拠点を移し、1990年代以降、米国経済はIT先端分野に生産要素を再配分して経済運営の効率性を高めた。結果として、世界全体で労働者は一握りの富裕層と、その他大多数の中・低所得層に振り分けられ、コロナ禍で低金利に支えられた株高が富裕層の保有資産額を押し上げた。20年の米家計資産の変化を見ると、資産増加分の35%が最も裕福な上位1%の層に集中した。主要国の経済政策は富の偏在の一因で、感染再拡大はこれをさらに加速させるだろう。

7月19日の米国の株式市場では、フィラデルフィア半導体株指数が上昇した。主要投資家にとって半導体関連をはじめIT先端企業の成長期待は高く、連邦準備制度理事会(FRB)が緩和的な金融環境を維持する背景には感染再拡大が労働市場を下押しするとの警戒がある。その見方が7月に入ってからの米長期金利の低下を支え、当面成長期待の高いIT先端企業の株価は不安定な動きを伴いつつも高値圏を維持する可能性がある。それは、さらに富裕層への富の偏在を強める。

マクロレベルでは、IT先端企業が集積してきたか否かによって、各国経済の強弱はより明確化するはずで、有力なIT先端企業が見当たらないわが国にとって、感染対策による動線寸断の影響は大きい。感染の再拡大期間が長引けば、かなりの下押し圧力がかかるだろう。わが国では、感染再拡大によって飲食、宿泊、交通など非製造業の業況はより厳しく、インバウンド需要蒸発の影響も大きくなっている。

また、足元の景気を支える製造業も変化に直面している。バブル崩壊後の経済低迷を支えてきた自動車産業ではEVシフトが進み、半導体の部材や製造装置など微細なモノづくりの力は維持されるが、全体で見ると最先端分野での成長期待は高まりづらい。わが国が自律的な景気回復を目指すことは容易ではなく、感染の再拡大は人々の防衛本能を強め、人口減少がもたらす経済の縮小均衡を勢い付かせ、国内需要の伸びを抑える。それは、世界的に見たわが国の消費者物価指数の伸び率の鈍さの一因だ。

政府に求められることは、二兎(経済運営と感染対策)を追うのではなく、一兎を追う政策スタンスを明確にすることだろう。つまり、ワクチンや治療薬の確保・開発を含めた感染対策を徹底して人々の安心と健康を守る。長い目で考えた場合、それが経済を守ることにつながる。その上で、政府は人々が新しいことに取り組む環境を整備することを考えるべきだ。感染対策を徹底した上での労働市場の改革や教育内容の向上など、政策課題を真剣に進めることが中長期的なわが国経済にとって重要だ。(7月23日執筆)

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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