テーマ別企業事例 「パートナーシップ構築宣言」第2弾 大企業と中小企業の共存共栄へ 伊藤鉄工

官民挙げて取り組みを進めている「パートナーシップ構築宣言」の登録企業数が4000社を超え、ここへ来て急増している。今や「大企業と中小企業の新たな共存共栄」を構築することが企業活動の基本となりつつある。既に宣言している大企業と中小企業の本音に迫る。

「パートナーシップ構築宣言」案内サイトはこちら ▶ https://www.jcci.or.jp/partnership/

サプライチェーンでの適正価格を進め価格的に国際競争力を保つ関係を築く

伊藤鉄工の伊藤光男社長。「パートナーシップ構築宣言により、多くの企業が発展していくことを期待しています」

古くから鋳造(ちゅうぞう)業が盛んで「キューポラのまち」として知られる埼玉県川口市で、伊藤鉄工は建築用の鋳物(いもの)製品をメインに製造・販売をしている。また、その技術を生かして軽量の鋳鉄(ちゅうてつ)製フライパンと鍋を開発し、販売している。メーカーであり、部品製造の下請けもしている同社は、早くからパートナーシップ構築宣言を行っている。同社社長で、川口商工会議所の会頭でもある伊藤光男さんに、宣言の意義について話を聞いた。

発注側も受注側もウィン・ウィンの関係に

─まずは伊藤鉄工の概要についてお願いします。

伊藤光男社長(以下、伊藤) 弊社は1931(昭和6)年に創業し、私は三代目です。鋳物を素材に完成品をつくって販売しており、排水器具やマンホールなどの建築・土木用器具をメインに、都市景観材やキッチン用品なども製造しています。自社で鋳物を製造して、加工塗装して出荷するという流れで製品を生産しています。

─川口市は伝統的にものづくりのまちですが、現在は製造現場でどんな問題や課題がありますか?

伊藤 川口市は東京に隣接して都市化が進み、工場地としては適さなくなってきました。また、下請け工場が多く、取引先から言われた金額で仕事をせざるを得ない。そのため、高い技術を持ち、いい製品をつくっても、適正な価格で取引されていないのが現状です。川口商工会議所では、高い技術力を生かした優れた製品を認定する「川口i-mono(いいもの)ブランド」と、高い技術や技能を認定する「川口i-waza(いいわざ)ブランド」を創設しましたが、それらの高い技術力を持つ会社でも、従業員一人当たりの売上高は低く、そのため会社はあまりもうからず、従業員に十分な給料や賞与、福利厚生を提供できないため、事業承継は難しく、人材不足により技能伝承が困難などの問題も出てきています。

─これまで御社が、取引先との間で不公平感や不満などを感じることはありましたか?

伊藤 弊社は売り上げの多くの部分がメーカーとしてのものなので、価格改定に関してはそれほど苦労していません。ですが下請けとしては、価格改定が思うようにはいきませんでした。原材料費が上がっても、こちらから提案した値上げを認めてもらえることは少なく、認めてもらったとしても、半年くらい先に延ばされることもありました。今回の原材料の高騰のような世間に周知している理由の場合はまだいいのですが、運送費や人件費のアップが理由の場合はまず認めてもらえません。

また同じサプライチェーンでも、頂点であるメーカーと一次下請けの間の取引は適正化していても、一次下請けと二次下請け、二次と三次と下がっていくにつれ、取引の適正化がなされていないのが現状です。

取引先との価格交渉では根拠となるデータを提出

─そのような状況の中、御社が「パートナーシップ構築宣言」をした理由は何だったのですか?

伊藤 鋳造関連業者の団体である日本鋳造協会では、経済産業省による「世耕プラン」(下請取引における取引環境の改善を図る政策パッケージ)が2016年に発表されてから、すでに適正な価格での取引を進める機運が高まっていました。そういったこともあり、パートナーシップ構築宣言の制度が始まったことを知ると、発注側も受注側もウィン・ウィンの関係になるには必要なものなので、すぐに登録しました。パートナーシップ構築宣言が広まることで、いいものはそれに見合った価格で取引先に買ってもらえるようになればと思っています。

─川口市内において、パートナーシップ構築宣言の登録社数や認知度はどのような状況ですか?

伊藤 川口市では、商工会議所をはじめ鋳物組合のような業種団体が周知させる努力をしていますが、11月時点で28社と、残念ながら数は思ったほど増えていません。特に下請けの小さな工場などで登録しているところは非常に少なく商工会議所がもっと丁寧に会員に情報を発信していかなければいけないと思っています。

─御社は取引先との共存共栄の構築・維持に向けて、どのような取り組みをしてきましたか?

伊藤 弊社が下請けとして納めている部品の価格交渉は、原材料の価格上昇と、それが製品の価格にどれだけ影響しているのかを全てデータにして提出しています。これについては、最近は値上げを受け入れてもらえることが多いです。しかし、人件費や運送費などは、上昇したからといって価格に乗せることはしていません。一方でメーカーとしては、下請け企業がきっちりとデータを出してきて、それが合理的なものであれば、値上げを認めています。

良い製品を適正な価格で販売・購入するように

─御社は昨年7月20日にパートナーシップ構築宣言をしていますが、そこにはどのような思いが込められていますか?

伊藤 メーカーとしては、例えば今回のような原材料価格が上昇したなどの理由による下請けからの値上げの要望には、できるだけ応えていこうということです。そのためには、自社製品の販売価格もそれに合わせて変えていかないといけません。日本の製造業の生産性の低さの原因は売り値の低さが大きく関係していると思うので、そのようにして発注側と受注側がウィン・ウィンの関係になっていくことを期待しています。

─パートナーシップ構築宣言をしたことにより、御社にどのようなメリットがありましたか?

伊藤 パートナーシップ構築宣言をしたことで、自分の会社はこういう会社だと宣言することができる。それにより、自分たちが部品を仕入れる場合も、売る場合も、取引先と良好な関係を保ち、付加価値の高い製品を適正な価格で販売・購入するようになりました。それにより利益が出れば、設備投資ができるし、従業員にも還元できる。設備投資をすれば生産性が上がるし、従業員に還元することで人材を集めやすくなります。

─パートナーシップ構築宣言をしたことで、社内外にどのような変化がありましたか?

伊藤 社内では購買担当者が、協力会社との関係をパートナーシップ構築宣言に合わせた考え方でやるよう変わってきています。販売の方でも、これまでは取引先が言うことを聞くだけだったのが、今では「御社とはこれからもパートナーとして長くお付き合いさせていただきたいので」と言って、手形のサイトを短くしてもらうとか、現金払いにしてもらうとかお願いをするようになりました。最近では取引先もちゃんと話を聞いてくれるようになってきています。

─パートナーシップ構築宣言が企業の間で広まることで、どのようなことを期待していますか?

伊藤 この制度ができたことで、発注側と受注側の間で「これからはパートナーとして、一緒に利益を出していきましょう」という意識が浸透しつつあります。その一方で、何でもかんでも値上げしたのでは国際競争力が落ちてしまうので、価格的な国際競争力を保ちながら、サプライチェーンの間では適正な価格での取引が進んでいくことを期待しています。

会社データ

社名:伊藤鉄工株式会社(いとうてっこう)

所在地:埼玉県川口市元郷3-22-23

電話:048-224-3694

HP:http://www.i-g-s.co.jp/

代表者:伊藤光男 代表取締役社長

従業員:90人

【川口商工会議所】

※月刊石垣2021年12月号に掲載された記事です。

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