「80歳になっても自分の歯を20本保とう」と提唱する「8020運動」が開始されたのは1989年のことです。年齢とともに残っている自分の歯は少なくなり、後期高齢者の平均値は約16本、約3割の人が総入れ歯を使っていると言われています。かつてと比べると歯の喪失は改善傾向にありますが、歯科先進国といわれるスウェーデンと比べると、まだまだ少ないのが現状です。
自分の歯をできるだけ長く健康な状態に保つ必要があるのは、健康寿命と密接に関わっているためです。虫歯や歯周病などで歯を失うと、かむ力が弱くなって食べられるものが限定され、栄養バランスが崩れます。それが骨や筋力の低下、全身の健康状態の悪化を招きます。また、歯周病の原因となる細菌が糖尿病の引き金となったり、動脈硬化の要因になったりすることも分かっています。これらがやがて脳卒中や心筋梗塞、認知症、転倒による骨折などを引き起こし、要介護状態につながっていく可能性があるのです。
それを防ぐには、年代を問わず口腔(こうくう)内のケアが不可欠です。自覚症状がなくても定期的に歯科検診を受けて、適切な処置や必要な治療を受けましょう。歯の磨き方など、日々のセルフケアの方法を教えてもらうのも有効です。例えば、虫歯予防に効果的な歯磨き剤の選び方、つける量、磨く順番、すすぎの回数など。歯周病予防なら、歯と歯肉の間の歯垢を取り除く磨き方、デンタルフロスや歯間ブラシの使い方などを指導してもらうといいでしょう。また、たばこは歯肉に悪影響を及ぼすので、禁煙することも重要です。
自分の歯でかめる状態を保つことは、体を健康にするだけでなく、〝食べる楽しみ〟が得られて心にもいい影響を与えます。顔の造作や表情、声など、若さや外見の印象にもプラスに働きます。それが意欲となって活動的になり、現役でいられる時期が延びたり、社会や人との接点も多く持てます。年を重ねるほど、自分の歯を大切にすることは、健康長寿の礎となります。
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