世界的に脱炭素の潮流が進んでいる。主要国の産業界はその準備に全力を挙げているものの、まだ完全に脱炭素に向かうプロセスを確立できていないのが実態だろう。そうした状況下、カーボン・クレジットの取引が盛り上がっている。
航空や鉄鋼、石油など温室効果ガスの排出量が多く削減が難しい企業は、事業運営に危機感を強めている。企業は〝社会の公器〟として脱炭素に取り組む姿勢を示し、理解と賛同を得なければならない。そのためにカーボン・クレジット需要が急増している。その一例が航空業界のクレジット取引だ。2016年に国際民間航空機関(ICAO)は〝国際航空のためのカーボンオフセット及び削減スキーム(CORSIA)〟を採択し、21年からカーボン・クレジット取引が始まった。S&Pグローバル・プラッツによると二酸化炭素1t当たりのクレジット価格は、21年1月4日の80セントから11月10日には8・35ドルに上昇した。また森林保護に基づいたクレジット取引では一部で本来の削減効果を上回るクレジット需要が発生している。
世界で統一されたルールがないことも、価格高騰の原因だ。取引は、まず企業などが脱炭素(再生エネルギー利用や森林保護など)に取り組んで二酸化炭素排出量を削減し、削減分を第三者機関(政府やNGOなど)に認証してもらう。次に、脱炭素に取り組む姿勢をアピールしたい(排出削減が難しい)企業に売る。民間認証機関としては米国のベラやNGOのゴールドスタンダードが知られている。認証基準について、政府や自治体が認証機関である場合は基準が厳しく、民間は甘い傾向にある。そのため、民間認証のカーボン・クレジット取引を活用する航空、石油などの企業が増えた。その結果、買うから上がる、上がるから買うという心理が強まり、カーボン・クレジット市場はバブルの様相を呈し始めた。
21年4月、わが国は2030年度の温室効果ガス排出量を13年度比で46%削減し、2050年のネットゼロを目指すと表明した。その後、アジア地域では、韓国が50年までに石炭火力発電を廃止し、30年までに温室効果ガス排出量を18年比で40%削減すると発表した(従来目標は26・3%削減)。中国も海外での新しい石炭火力発電建設を行わないと表明した。それに対抗するように、欧州委員会は脱炭素の取り組みを一段と強化し、新興国の脱炭素を支援することによって石炭火力発電所の廃止を前倒しで実現しようとしている。さらに欧州委員会は2049年までに天然ガスの長期契約を原則として終了することも目指す。
本来なら第25回国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)がルールを定めるはずだった。だが、参加国の意見対立によって実現しなかった。結果的に、多種多様な認証基準に基づくカーボン・クレジット取引が急増した。その後、欧州委員会は脱炭素関連のルール策定を加速して国際世論の主導を狙っているが、COP26でもカーボン・プライシングや途上国支援を巡り各国意見は食い違った。わが国は、エネルギー政策の転換と脱炭素に関する国際ルール策定により真剣に取り組まなければならず、エネルギー政策転換に関しては、太陽光と風力を用いた発電増加が必要である。
国際ルール策定に関しては、米国との連携強化と並行して、世界経済にとって重要性が急速に高まる東南アジア各国に効率性の高い火力発電や二酸化炭素の回収や再利用などの技術供与を増やす。それはわが国の脱炭素関連技術を支持し、見解に賛同する国の増加につながる。そうした取り組みを進めることができないと、わが国は他の国や地域が主導したルールに受動的に対応せざるを得なくなる。国際ルール策定で主導権を取ることが難しくなれば、本邦企業の競争力は低下し経済にはマイナスの影響が及ぶだろう。わが国はカーボン・プライシングのルールなどを世界に明示し、より多くの賛同を得る必要があり、そのためにはエネルギー政策の転換を急ぎ、脱炭素技術などの優位性を世界に示すことが必要だ。 (2021年12月20日執筆)
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