文部科学省の努力にもかかわらず、学校のいじめ件数は高水準を維持したままだ。社会に出てもいじめはある。厚生労働省の令和2年度の調査によると、職場でも30%以上が「パワーハラスメントを受けたことがある」と回答した。
▼なぜ部下や同僚に威圧的な振る舞いをするのか。ハラスメント行為をした人間を処罰しても、原因が分からない限り解決できたとはいえない。多くの職場では幹部社員らを対象にハラスメント研修が実施されているが、パワハラをした人間に対してカウンセリングを行う企業は限られている。「会社は更生施設ではない」と中堅企業の元労務担当役員は話す。社内規定に違反した従業員に、会社の費用と時間を使ってカウンセリングを受けさせる余裕はないという。
▼大企業に勤める知人は、年長の同僚から無視や激しい反論、会議開催の通知をしないといったパワハラを受けた。上司に訴えたところ、聞き取り調査で規定違反があったと認められ、当人は配置転換になった。さらに産業カウンセラーが面談した結果、家庭内不和が職場での行為に影響を及ぼしたと分かり、あえて転勤させることが決まったという。体力のある企業だからそうした対応ができたともいえるが、解雇事由に当たらないケースなら、労働資源を最大限活用する観点からも「再生」の道を探る方が企業にとっても得策ではないか。
▼リモートワークの拡大で、職場で罵声を浴びせるようなあからさまな事例は減ったが、「あえてオンライン会議に呼ばない」といった陰湿なケースは増えているとも聞く。業績の良い部署は大抵、雰囲気が明るく風通しも良い。幹部のリーダーシップが改めて問われているといえよう。 (時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)
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