京都府京都市
航海に正確な地図と羅針盤が必要なように、地域づくりに客観的なデータが欠かせない。今回は、千年続いた「古都」で、知恵と感性を生かしたものづくり都市であり、世界有数の観光都市でもある「京都市」について、まちの羅針盤(地域づくりの方向性)を検討したい。
危機に強い都市
京都市は、平安時代から江戸時代初期まで日本最大の都市であり、この間、応仁の乱や天明の大火など無数の危機を乗り越え発展、増加する都市生活者向けに商工業も発達し、現在に至るものづくりの基盤が構築された(2015年の地域GRPでも第2次産業が37%を占めており、大阪市の18%のみならず、名古屋市の23%を上回っている)。
明治維新によって首都機能が東京に移転、人口が大幅に減少したが、教育・産業・文化の振興等に注力し、都市の多様性を高めることで京都という基盤を更に強化、今日の発展の礎を築いている。
この結果、文化都市、産業都市、大学都市など京都市は様々に形容されるが、現在は観光都市という側面に最も注目が集まっている状況であろう。
地域経済循環(2015年)にも京都市の基盤の強さが表れている。魅力的な産業が多いため、域外から多くの就業者を集めている(「分配」段階で雇用者所得は流出)と同時に、豊富な歴史文化資源が多くの観光客を誘客している(「支出」段階で民間消費が流入)。地域の貿易収支等にあたる域際収支は赤字(所得流出)であるが、住民の活発な暮らしが、域外から多くの商品・サービスを引き寄せている面もあろう。
ある意味で、全国に先駆けて地方創生に取り組み、時代や社会の潮流を的確に捉えてヒトモノカネを呼び込んできた地域だ。2011年から2019年にかけて転入者が転出者を上回る社会増も続いている。ただ、全国的な人口減少の流れには抗えず、国勢調査人口は2005年の147万4千8百人をピークに減少している。こうした中、如何に(新たな)地方創生を実現するか、それが京都市の課題であり、京都市にしか出来ない役割でもあろう。
新・文化庁の京都移転を契機に
人口減少に打ち克つには、所得を稼ぐ力を強化して地域経済循環の維持・拡大を図る必要がある。京都市の純移輸出産業は、酒類を含む「食料品」の黒字(純移輸出額)が最も大きく、次いで「電子部品・デバイス」、「宿泊・飲食サービス業」、「はん用・生産用・業務用機械」となっている。これらのうち、製造業の労働生産性(従業員1人当たり付加価値額)は総じて全国平均を上回るが、代表的な観光産業である「宿泊・飲食サービス業」は、インバウンドが好調であった2015年時点でも318万円と全国平均の9割以下に留まっている。
この点、足元では新型コロナで大打撃を受けているが、京都市経済のためには、観光を産業として復活させ、地域の稼ぐ力を向上させることが不可欠だ。そのためには、ともすればインバウンド向けを中心に観光客数を追いがちとなっていた取組みを見直し、住民の日常を大事にすることで、地域ブランドを高める上質な空間を提供できるようになることが必要ではないか。
2017年6月に改正された「文化芸術基本法」では、食文化をはじめとする生活文化など複合領域も文化政策の対象としている。また、2022年度中の京都移転を目指している新・文化庁では、我が国の生活に根差して発展してきた「暮らしの文化」の振興・普及のための事業も行っており、京都市は文化芸術を起爆剤とした日本創生を実現する「文化首都」となることが期待されている。
「観光客は一時的な住民である」ならば、住民の暮らしの質を向上することこそが、観光産業の付加価値総出力の拡大につながる。
新・文化庁の京都移転を契機に、日々の生活が文化的で豊かになるよう「京都という舞台」の強化を図ること、これが京都市のまちの羅針盤である。
(株式会社日本経済研究所地域本部副本部長・鵜殿裕)
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